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Unverziert【双青の記憶】ラズワードとヴェルーリヤ


Unverziert ウンフェルツィールト(装飾音無しで)(独)


ラズワード隊長が二頭の空飛ぶ生き物を同時に落とせなかったのを見て、副隊長は覚悟を決めた。隊長の霊力は枯渇している。今がその時だ。副隊長は突然ラズワード隊長に自分が握っていたネックレスを押し付けた

「これをお願いします。彼女に渡してください」

「お前、そんな事今…」

驚いてラズワードが副隊長の顔を見上げると、副隊長は言った


「隊長、これ以上は無理です。早く行ってください。もうお別れです」

「何言ってんだ。お前達を見捨ててここを離れることなんてできるか!」

「駄目です。姫王様には隊長が必要です。これまでありがとうございました」

両の踵を揃え姿勢を正すと、副隊長は大声で叫んだ

「総員、ラズワード隊長殿に敬礼!」

隊の皆は一斉に隊長に敬礼した。それから副隊長は隊長が先日渡した禁煙用の煙草の紙巻きを取り出し、破る

「待て、それはまさか」

「隊長だけでも生きて帰ってください」

止めようとした隊長の姿は城壁から消えた


目の前がぐらぐらと揺れる中、ラズワード隊長の耳には涙を堪えた副隊長の声が響いた

「隊長、あなたが最後の希望なのです。あなたさえ、あなたと姫王様さえ居れば…」



次にラズワードが気づいた時、隊員達の姿はなく目の前に姫王が立っていた

「何故戻した。今離れたら…」

姫王はラズワードを見つめていた

「全滅です。その責は私が取ります。貴方ではありません。私が命じたのです。貴方の霊力がなくなったら、強制帰還魔法陣を始動させるようにと」

毅然とした態度で静かに話す姫王の目には涙が溜まっていた

「貴方が必要なの。ラズ。彼らの思いを無駄にしないで」

ヴェルはラズワードを抱きしめた


ラズワードは霊力がほぼ枯渇しており、そのまま意識を失った。彼が次に目覚めた時、最初に見たものは二輪の水仙の花だった。少しこうべを垂れたその花は、仄かな香りを醸し、ラズワードの目覚めを歓迎しているようだった


「目覚めたのね」


まだぼんやりしているラズワードの耳に心地よい響きが香る


「顔色は良いわね。もう少し寝ていた方がいいわ」

姫王は少しずれた上掛けを戻すと優しい笑顔で言った。手を伸ばそうと思うが少しも思い通りに動かなかった

「ヴェル、俺は何をしていた?何も思い出せない」

「霊力の使いすぎよ。身体に負担がかかり過ぎるから、記憶と身体の機能がロックされているだけ。回復すれば、元に戻るわ」

「わかった。少し休むよ。何か大切な事を忘れているように思うが、何か心当たりはある?」

「何もないわ。貴方がここにいることが一番大切」

「わかった」

ラズワードは目を瞑ると眠りに落ちた。姫王は眠りにつくラズワードを見ながら、己の選択が正しかったのか心を揺らしていた


それから数ヶ月後、ラズワードは起き上がり一人で歩ける位まで回復した。

小さめの船内には姫王を始め数名の側近と大臣とその家族、船を動かす人員が乗っていたが、それ以外はいなかった。ラズワードは姫王の他の名前を思い出すことができず、初対面であるかのように話していた。彼は民間船でヴェルと旅をしていると勘違いしていた。側近と大臣達は姫王からラズワードが思い出すまで、国のことを話さぬよう厳命されていたので、ラズワードに合わせて会話し真実を話さなかった


ある日、船員達が数名、デッキで陽気に騒いでいた。ラズワードは椅子に腰掛けその様子を楽しそうに眺めていた。すると船員と一人が弦楽器を持ち出し、曲を弾き始める。皆はそれに合わせて歌を歌い出した。ラズワードはどこかで聞いたことがある曲だと思いながらその様子を眺めていたが、やがてその楽器を奏でる船員の姿が大柄なクマのような体格の大男の姿がオーバーラップした


「副隊長?」


ラズワードは唐突に全てを思い出した。彼は青ざめ立ち上がると、まだ上手く動かない身体を引きずるようにして姫王の元に急いだ


「ヴェル、島に戻してくれ」

ラズワードが乱暴に開けた扉の先には姫王が机で何か書き物をしている最中だった。扉の開く音に気づいて顔あげると、青ざめたラズワードの顔が目に入った


「そう、思い出したのね」

「とにかく早く彼らの元に戻してくれ」

姫王はラズワードを眺めていたが、やがて静かに話した

「全滅しました。彼らも、そして国民も。生き残ったのはこの船に乗るものだけよ」

ラズワードは頭の中が真っ白になり、何も考えられなかった



国の中枢の人物に内通者がいた。それも大臣だ。その為に国民全員が乗った船が、彼らの攻撃対象となった



姫王も、突然の事で内通者を船外へ飛ばして結界を張るのが精一杯だった。気付いた時には、国民を乗せた船は攻撃を受け、沈没しかけていた。何人かを自分の乗る船に転送しようと試みたが、結界を解くと同時にまた攻撃を受けた。結界を張りながらそれをやるのは困難だ

命が海に沈み、息絶えるのを聴きながら、姫王はただその攻撃が止むまで結界を維持するしかなかった


攻撃を仕掛けて来た者達も、自分らの持ち玉が尽きてしまうとそれ以上の攻撃は出来なかった。姫王の船に同乗していた老いた近衛兵が、徹底的に反撃した結果、その敵部隊は撃退し、その隙に認識を阻害する結界を張って、島を遠く離れた


ラズワードは船に乗った人々を思い返す。そこに乗っていたのは四十人ばかりだ

「これだけ?脱出出来たのはこれだけか」

「これだけです」

姫王は答えた。姫王も、沢山の国民が去った喪失感を感じていた。それを何とか乗り越えさせていたのは、ラズワードだけでも帰還したという事だった


絶望感と後悔を味わいながら、ラズワードはヴェルの言う通りに出来るだけ大人しくした。霊力を戻す為には身体を使い過ぎる事は禁物だ


やがて彼らは北の島にどうにか辿り着いた。島は寒かったが、土地は生き生きして、まだ活力があった。海を流れる暖流が、島が凍えるのを防いでくれた

姫王は土の素に呼び掛けて神殿と、皆の住む住居を建てた。それから、住居近くに土と森の素から食べるに適う植物が生える畑の下地を作り、種を撒いた

風に呼び掛け、周囲の動物に差し当たって食糧の提供に身を捧げるものを頼んだ

何頭かの鹿と数羽の野鳥がそれに喜んで応じて我が身を、また山羊は自分らの乳を、鳥は卵を提供した

彼らはようやく地に足を付けて、保存食では無い糧を得る事が出来た


肉体が地との循環を取り戻すと、人々は自分らの営みに眼を向けた

畑に手を加え、実りを助けた。森を散策し、食べられる野草と木の実の位置を確認し、少しずつこの地に於ける季節の廻りに順応した

そういった情報は愛が降ろすので、彼らは新しい地でも困る事は無かった

やがて、残された人々の中で、赤児をその身に宿す者が居た


だがラズワードは島に残した彼らを忘れる事が出来なかった

何ヶ月かは、皆と共に生活の素地が出来るように力を尽くしたが、生活が落ち着いて来た頃、どうしてもあそこに戻りたいと言う気持ちを抑える事が出来なくなった


出発すると言って聞かないラズワードに、姫王は溜め息をついた。彼は言い出すと曲げない。そして姫王は愛の化身であるが故に、彼の望みを受け容れない事が出来ないのだった。

「私を一人にするの、ラズ」

涙を溜めた目で見つめてヴェルは言った

「必ず戻る。約束する」

ヴェルは一年で戻るよう約束させ、ラズはそれを誓った


だがラズワードは敵と遭遇し攻撃を受けての交戦の際に力を使い果たした。這ってでも戻ろうとしたが、姫王と離れている期間が1年と9ヶ月過ぎた時、二人は同時に亡くなった


二人は身体は別れていてもひとつの命だったのだ


ヴェルーリヤ姫王が突然に亡くなり、周囲の者は戸惑った。姫王を失った双青の都の人々は、その喪失の哀しみに疲弊した

だが女官は自らの内側に愛の啓示が降りるのを聴いた。人々は愛が降ろしたそれを信じて二人が再び生まれるのを待つ事にした


その通りに数年後、男の子と女の子の赤児が、それぞれオークとトネリコの下で見つかり、人々はその子らを育てて王とした

彼らは自分達の国を緑の都と呼んだ。二人の対の王の元には新しい命達が民として生まれ、国は徐々に豊かさを取り戻し、繁栄した


国は再興されたが、脅威は去らなかった。やがて敵がこの地にも迫って来る事はわかっていた。二人の王はこの界とは別の、干渉を受けない界を生み出しここを去ることにした




こうして、薔薇の都が作られた


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