表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/60

Nichit eilen 【掃除】


Nichit eilen ニヒトアイレン (急がずに)(独)



寝ている間に愛は俺の中身を掃除してくれたんだろうか。今日は日曜、昨夜お客さんは多かったから、今朝もそれなりに忙しいだろう

凛は早番なので先に出ている筈だ。タイムカードの前で同じ遅番のジュン君と遭遇して挨拶する


食堂はやはり混んでいて、お膳が運ばれるのを待っているお客さんがちらほら見える

直ぐに仕事に取り掛かる


何とかお客さんをさばいて後半になり、余裕を取り戻す

やがて最後まで食べて居たお客さんがロビーに移ると、床掃除の道具を持ち出す

「早番の人はタイムカード書いてね」

エンヤさんの指示で、凛とちひろちゃんはフロントに向かう。その様子を見て颯雅は少しほっとする。特に変な様子は無いし、凛は大丈夫そうだ


凛と颯雅が朝食を受け取り席に着くと、ジュン君が同じテーブルにお盆を持って来た

「一緒良いすか」

「どうぞ。掃除一緒なんですよね、後でよろしくお願いします」

ジュン君は颯雅と同じ学年、英語が使える仕事をしたくてここに来たそうだ

「でも、ここ言う程外国人来ないんすよ。使う機会思ったより少ない」

「そうなんだ」

「同じ宮古でも、皆もっと洒落たとこ行くでしょ。ここ古くてダサいから」

「そう。和やかで良いと思うけど。それで常連来るんでしょ」


「凛ちゃんは、学校で何勉強してんの?」

颯雅は凛をちゃん付けされた事と、口調が馴れ馴れしい事に一瞬カチンと来るが、自分に言い聞かせる。ちゃん付けなんて、普通じゃ無いか、怒るとこでは無い。マイケルもエンヤさんもちゃん付けしてるんだから

「心理学科です」

「何でそんなのに興味あるの」

「それは、その、私が過剰に人見知りだったから、伯父が心理学の本勧めてくれた事がきっかけです」

「へえ、それで治ったの?」

「いや、そこまではまだ。そんな簡単では」

「ふーん。大変なんだねー」

颯雅は何かに腹立てていた。言葉だけ聞いたら普通なんだろうけど、言い方の背景には凛が萎縮するのに乗じて、凛を無力に見立て下に見るような意図があると感じた


やがて朝食タイムが終わり、凛はほっとして食器を片付けに立ち上がる

「じゃ、オレ達も行きましょうか、掃除」

「はい」


ジュン君はフロントで合鍵の束を借り、連続して泊まる部屋番号をメモする

行くまでに歩きながら、ジュン君は質問する

「凛ちゃんて良いとこのお嬢さんなの?」

「いや、普通だと思うけど」

「だって言葉使いが崩れてないじゃん」

「それは多分本を良く読むし友達少ない方だから」

友達が全然居ないとは言わなかった

「へえ。良いね」

何が良いねだ。また颯雅は気に触った。何だこの感じ。どうやらジュン君が凛が世間知らずで手玉に取りやすいと勝手に予想して、二人の関係をそう見ているのではないかと思った


「じゃ、この端から始めるね」

まずは客室の清掃だ。ここの部屋は畳部屋が殆どなので、最初の仕事は布団上げになる。使用されたシーツや包布(ほうふ)(布団カバー)、枕カバーを剥がして廊下に出し、布団には新しいカバー類を着けて押し入れにしまっていく


「タオル類も廊下に出して」

「わかりました」

各部屋にユニット式のシャワールームもあるので、そこで使われたタオル類がある。颯雅は布団ならそれほど重くないと思っていたのだが、沢山の布団からカバーを剥いだり、畳んで押し入れに入れる作業は思ったよりも重労働だ。颯雅が腰に手を当てているのを見てジュン君は笑った

「布団って、意外と重いでしょ」

「そう思いました。大変なんですね」

「今日はまだ少ない方だよ。慣れれば平気」

全ての部屋が終わると、部屋に残されたゴミを回収する


「おはようございます」

「おはようございます。布団上げとゴミ出し終わってるので」

ジュン君が誰かと話す声が聞こえたので、颯雅は顔を上げる。ジュン君がエプロン姿の女性二人と話していた

「ああ、昨日から入った颯雅君」

ジュン君が颯雅を見て紹介するので、颯雅は慌てて挨拶する

「橘颯雅です。よろしくお願いします」

「さっき凛さんに会ったわ。若いって良いわねー」

この人達は何を想像しているのだろう。颯雅は何と答えるべきか迷っていると

「お二人は部屋掃除担当のパートさん。次はさっき出したリネンの回収するから」

ジュン君はそう告げると、歩き出す。颯雅は二人に軽くお辞儀をすると、慌ててジュン君の後を追いかける

布がこんなに重いと思った事はなかった。廊下に散らばったシーツなどを種類別に拾いながら袋に入れたが、最後は持ち上げる事すら難しい重さだ。颯雅がウンウン言いながら持ち上げようとすると

「引きずればいいから」

ジュン君は袋を数個引きずって運んでいく。階段の端まで来るとそこで止まった

颯雅はジュン君の顔をみる

「持って降りる?」

「まさか」


ジュン君は笑うと、袋を突落とす。当然、袋は階段を転げ落ちて一番下まで落ちた

「人が下にいると危ないからそれだけは注意して。それからマイケルさんに見つかると怒られるから」

いやいや、それダメだろう

「本来はどうやって?」

「こうやる」

ジュン君は袋の紐を持つと引きずりながら階段を駈け降りる。ジュン君の後ろに袋が滑る様についていくのだが、その方法も転んだら危険だろう、と颯雅は思った

「まあ、どっちも危ないから注意してね」

やっぱり危険なんですね。それ以上考える事を放棄した


次は玄関にあるシャワールームだ。ここは海から帰ってきた人が砂を落として水着から着替える為にある。海からそのまま中に入ると、部屋の中が砂だらけになるからだ

「忘れ物を確認してから、床をホースで流して」

颯雅は各ブースを確認してからホースで床を洗い流す

「女性用もね。こっちは声かけてから中に入って。たまに人がいるから」

颯雅はちょっと緊張しながら声をかけて中に入る。仕事だから何もやましい事はないのだが、やっぱり何か後ろめたい


最後は玄関周りの整頓と軽く掃き掃除をして終わりになった


颯雅はぐったりして部屋に戻る

「お帰り」

私服の凛が颯雅の部屋で笑顔で迎える

天使だ。もし会社行って、こんな感じで疲れて帰って凛が居たら、本当癒されるな


「今日こそは洗濯しないといけないよね。今バケツ出すから、洗いたい服入れてくれる?」

じゃーん、折り畳みバケツ登場。これも百均だが、便利だ

「私も持ってるわ。外で絵を描く時に便利だった」

凛がそれを持って自室に行く間、颯雅も着替えて洗濯物を纏める


くそー、昨夜凛に嫌なことがあった時の対処を聞いてたのに、全然出来なかった。ずっとジュン君に対して腹立つ自分を冷却出来ないまま終わって、手放すどころでは無い。

昨夜愛が俺の中を掃除してたんじゃ無かったのか。と考えると

“したよ”

と文字が目の前に浮かぶ

え、じゃ何で今朝の嫌な事感じさせられたのと問うと

“あなたが自覚出来ただけ。器が大きければそれだけ沢山の掃除箇所がある”

つまりまだ気づくべき事が多いと言う事か

“そうなる”


ふーん、まだまだ先は長いって事か

“貴方次第”

俺次第って一体どう言う意味なんだ?

“あなたの覚悟次第“

なるほど、と颯雅は思った


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ