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Nichit eilen 【やるべき事】


Nichit eilen ニヒトアイレン (急がずに)(独)


目が覚めた颯雅は、自分がどこに居るのかわからなかった。石で組まれた城壁では無い。木の板の天井がある。ぼんやりと横を見ると、綺麗な女性が眠っている

「姫王…」

凛もその声で目を覚ました

「どうしたの颯雅君」

「あ、凛…」

凛は目をぱちくりした

「今何か違う呼び方しなかった?」

「うん、夢見てた。その夢では隊長って呼ばれていて、凛は姫王様って皆に呼ばれていた」

「私が姫王なのに、颯雅君は王では無いの?」

「いや、再三姫王に夫になるよう誘われているんだけど、そうすると守れなくなると思って、姫王に危険及ぶの避けたいから、守る立場で居ようと思って…」

「逸彦もそう思ってたのかな」

「え、逸彦?」

「うん。実穂高に危険及ぶと悪いと思って近寄らないとか」

「うーん、あるかもね。鬼退治で穢れている身の上だって言ってたから、迷惑かけると思っていた節ある」


「そうなのね。それでその夢は前世?どの時代のどの場所なの」

「…凄く前らしいのだけど。何万年、三十万年とか…本当?場所は、ここみたい」

「ここ?」

「ここ、宮古島」

「颯雅君その事思い出した方が良いんだね」

「そうか、思い出した方が良いのか。なんか、複雑だ。思い出したいような思い出したく無いような」


「今何時かな、起きた方が良いよね」

「そうだね、確認しよう」

颯雅が枕元の携帯電話を見ると、四時少し前だった


「随分寝ちゃったね。洗濯しそびれたな。何か食べるもの作るよ」

颯雅はリュックからツナ缶を取り出す。貰ったご飯にツナを乗せ、小さなボトルの醤油をかけて即席の丼を作る

「すごーい、颯雅君色んな物持って来てる」

「旅慣れてるだけだよ。賄いも品数多いし色んな物食べられるけど、凛はあれで大丈夫?本当は肉苦手なんじゃ無いの?」

「あれ、それ言った事あったっけ」

「無いけど、何となく選ぶメニューが動物性避けているよね」

「嬉しいな、気付いて貰えて。流石は(つい)なのね」

颯雅はちょっと得意げになる

褒められて鼻先を天に伸ばす犬の気分だ。ダメだ、やっぱり犬の人格ある


「うん、確かに、乳製品と肉があんまり好きでは無い。でもだからと言って絶対食べない訳でも、アレルギーでも無いし。それにその土地の物を食べて、そこに居る人達の事を知るのも楽しいと思うから。それも無理になってきたら言うね」

「でもラフテーは苦手でしょ?あとチラガーとか」

「うーん。それは無理ね」

凛の本当に困ったような表情を見て、颯雅は笑顔になる


「食のバランスは良いように思うけど、何か足りなくなりそうな物あるかな」

「野菜とフルーツかな、今すぐでは無いけど、欲しくなるかも」

「そうだね、マイケルさんに買い出しを相談してみようか」

「ちょっと待って、聞いてみよう。…休みの日まで買い出し行かなくても大丈夫みたいよ」

「そうか。愛に訊けると本当に便利だな」


ツナ丼を食べると、凛は自分の部屋に戻り、二人はそれぞれ着替えて出勤準備をした



夕食の給仕をしている時に、凛はしばらく忘れていた感覚を思い出した。最初は気のせいかと思ったが、ちひろちゃんは確かに凛を牽制している。それは一見分からない位にさり気なく、上手だ。質問に一回は答えなかったり、凛がやろうとする仕事を、直前で奪って行ったり。それでも暇な訳でも無いから、凛は直ぐに次の仕事に取り掛かるが、テンポが崩れるのでやりにくさを感じる


凛は身体は作業に動きながら、実穂高に教わったように心の中で、自分の感情を味わい、認識しては手放すを繰り返した。いや、待って。自分にも対応するものがある筈だからと、少し考える

意地悪するものも、意地悪されることに同意するものも、意地悪されて不快や悲しさを感じているのも、全部自分の中にあったらどうなんだろう。一人で何役もやっている劇場が、自分の心の中で繰り広げられているのだ。他人の所為にするよりは遥かに簡単でシンプルだ。全てが自分に起因するならば、変えられる筈だ

凛はその考えが気に入った。矛盾無く収まったと感じた


そう捉えるとほぼ同時に、ちひろちゃんはテーブルからお盆に載せようとするコップの水を派手に溢す。ちひろちゃんは慌てて布巾でその水を拭く。その後は、もう気になる程牽制されている感じは無かった


皆が賄いを囲み座った時、颯雅は大丈夫だったんだろうかと隣の凛の顔を伺い見たが、凛はさっぱりした顔をして何事も無いかのように食卓に加わっている

前半の凛の戸惑いを感じて居た颯雅は、あれは何だったんだろうと考える。すると颯雅の耳に凛が「後で話すね」と耳打ちした


食事を終えて部屋に戻ると、少しして私服に着替えた凛が入って来る

凛はさっき仕事中に取り組んだ事を話した

「こう言うことの一つひとつは、大きなものではないけど、小さくても道に変わりないのよ。颯雅君のお弁当の話と同じね。もしかすると、自分の行動の全部がそうで、道が光って見えた時みたいに、真心や愛が指示してくれているのかなってわかって来た。だって私見るのが必要なお客さんの所に自然と目が向くの。自分のペースを取り戻した後は、とてもやり易かったわ」


颯雅は感心して答える

「それも凄いと思うけど、ちひろちゃんにされた事をそういう風に自分の事に捉え直せる凛が凄いと思うよ」

「そう?でも一人で何役もやっている心の中の劇場なんだって思ったら、腹も立たなくなって来て、良い感じよ」


凛は颯雅の顔を見て、課題の用紙を出すように促す

用紙を広げると、凛はその項目を指差す


ーーーーーーーーーーーー


3、道を行く事を受け容れる


ーーーーーーーーーーーー


「ね、ちゃんと課題とリンクしているわ」

颯雅は良く分からなかった。凛は説明する

「道を奪われる事に同意しているから道を奪われるのよ。自分は我が道を行くのだと決めていて譲らないならば、誰も道を奪えないのよ」

「そうか、なる程。そうすれば嫌な思いをさせられる事は無いって事か。良く出来ている。で、どうすれば良いんだろう」


二人が内側に尋ねると、声が答える

“我が道を行くと決意する”

二人は決意しようとするが、何か抵抗が起こって上手く行かない。決意するのを嫌がる自分が居るようだ


「僕の中には我が道を行きたく無い自分が居るらしい。嫌な思いをするのに道を奪われる事に同意なんて、そもそどうしてそうしたんだ?」

「そうね。遠い昔に、そうした方が良いと思った自分が居て、それが役立った時期もあるけれど、今は必要無くなったって事かな」

「過去のその自分を恨むね」

颯雅がなかなか進まずにいると凛は言った

「道を行く事を受け入れる為に気付くべき事、やるべき事があれば教えてくださいって愛に頼んでみたら」

颯雅が目を閉じてそのように頼むと、細長い紙が出てきて、そこには何項目も文字が連ねてあるのが瞼に映った

「うわ、やるべき事リストが出て来たけど、膨大な量だよ。この紙どこまで続いているんだ」

凛は笑った


「もう寝ろってさ。風呂も入らなくて良い、身体は拭けば良いからって。僕の表面の思考が邪魔だから愛が作業する間、寝て欲しいみたいだよ」


凛にお休みのキスを貰おうすると、実穂高に止められた

“もう作業は始まっている”

うう、と心中泣きながら、颯雅は凛を部屋の外に送り出し、言われた通り身体を拭き、歯を磨こうとするとまた止められた

“妨げになるから、濯ぐだけで良い”

そうなのか、と口を濯ぎうがいをして、目覚ましアラームを掛けて布団に入った


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