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Nichit eilen 【仕事】


Nichit eilen ニヒトアイレン (急がずに)(独)



朝出勤前に前夜に貰った白米に、ふりかけをかけて食べる

昨夜は流れ星を凛と一緒に見られて良かった。それぞれ部屋戻り、眠る時、地震があった。震度は大した事無かったが、何だか揺り籠で揺られているかのような安心を二人は感じた


歯を磨き、エプロンとバンダナを着けて凛の部屋をノックする。直ぐに凛も出て来た。一緒にフロントに向かう。マイケルと林さんに挨拶すると、フロントの後ろに並ぶ中から自分のタイムカードを取り出し今の時間を記入し、キッチンカウンターの中のシロさんに声を掛ける

「おはようございます、何から始めれば良いでしょうか」

「おはよう。じゃあ今出す小鉢を、テーブルに並んでるお盆の同じ位置に配膳してくれる?一つ見本を作るわね」


チェックインの時に、宿泊客は三十分刻みの朝食時間の希望を出してある。最初は朝食が6:00開始の人達だ。その人数分お盆をテーブルに用意し、温かいもの以外を準備する。お客さんが来たら部屋番号を聞いて、その番号が置いてある席に案内する。それからお茶碗に白米を盛って、味噌汁を注いだお椀とメインプレートをシロさんから受け取って、席まで運ぶ。

難しくは無いが、お客さんがどんどん来ると忙しい。そのうち、お客さんからご飯おかわりできるかと質問を受けて、シロさんに聞きに行く

「良いよー、盛ってあげて」

颯雅が給仕にくるくるしている間に、凛は次のお客さんの席を案内をする。エンヤさんはキッチンの中でシロさんを手伝いつつ、ホールが回らないとホールに出て来る。良く気が付く人だ

7:00になるとちひろちゃんとジュン君も加わる

テーブルのピッチャーの水が無いと言われて、颯雅が軽くなったピッチャーを持ってキッチンに向かうと、既に様子を見たエンヤさんが水を満たしたピッチャーを用意してくれていた。そんな感じで9:00のお客さんが最後だ


気付くと皆は片付けに入っていて、凛と颯雅も教わりながらテーブル拭き、床掃き、夕食の準備を手伝う

夕食の準備は今日のチェックイン予定の人数を確認し、その分のお盆を用意する

必要ならテーブルを動かし、テーブルのナプキンや爪楊枝や紙おしぼりを補充する

夢中になってやっているうちに、時間になってた

「もう良いよー、凛ちゃん、颯雅君。タイムカード書いて」

エンヤさんが声掛けてくれた


慣れない仕事でちょっと疲れる。皆はカウンターの前にお盆持って並び、朝御飯を受け取って、めいめい好きな席に座る

エンヤさんが座ったと同じテーブルに颯雅はお盆を持って行った。凛も着いて来る。颯雅はさっきのお礼を言いたかった

「エンヤさんありがとうございます」

「何?」

「さっきピッチャー汲んでくれて」

「ああ、全然」

「何でも出来るんですね」

「いや、慣れてるだけだから。二人は夕方まで何すんの」

「何しようかな。今二人で取り組んでいる課題があって」

「勉強?」

「勉強かな?」

凛が話に入った

「私、大学で心理学やってるんです。だから颯雅君にカウンセリングの実験台になって貰うんです」

「へえ、将来はカウンセラーなの?」

「うーん、まだわからないです。でも人の心は面白いから」

「ふうん。身の周りに心理学やってる人なんて居ないから、珍しい」

エンヤさんは未知のものを見る目で凛を見たが、その眼差しは優しく温かみがあった


「エンヤさんは休憩中に何するんですか」

「潜るよ、勿論」

「体力ありますね」

「いや、慣れればどうって事無い」

エンヤさんは笑う

三人が食べ終えて食器を洗うと、ちひろちゃんの視線に気付いた。ちひろちゃんはエンヤさんと座りたかったらしい


颯雅と凛は保存容器に白米を詰めて、部屋に持って行き、廊下で別れる


「エンヤさんて、前世で会った事あるかしら」

私服を着替えて颯雅の部屋に入った凛は、開口一番に言った

「僕もそれ言おうと思ったところだ」

「それでちひろちゃんは何をしたかったのかな」

「エンヤさんを狙っているんだろう」


「えーっと、エンヤさんの何を?」

颯雅は凛の問いを理解した

「道を狙っているのか、って事?」

「そうよ。狙うとして、彼の道なのか、パートナーの道なのか、命の何かを欲しいのか、とか。相手はエンヤさんなのか、誰でも良いのか」


凛が内側に問うと、いずれ分かる、と答えが返る

「それは阻止したりする必要は無いのかな」

“それは貴女の仕事なの?”

「しなくて良いの?お節介?」

“それは彼の愛の行う事。貴女は貴女の幸せについてだけ考えなさい”


凛はその内容を颯雅に話した

「でもいずれ分かるって言ったんでしょ」

「うん」

「という事は関わりあるのかな。分かる時までは知る必要無いって事だね」

「そうね」

凛はそれでも気になる様子だった

「でも自分の幸せが大事なんだね」

「そう言われたわ」


その後二人は逸彦の愛への抵抗についての続きを取り組んだが、慣れない仕事の後で疲れているらしく、眠気を催してきた。尋ねると、寝た方が良いというので、二人は布団を敷いて、横になった

「ああ、なんか嬉しいな。凛が隣に寝てるなんて」

颯雅が凛の手を握ると、凛も笑顔で応えた

颯雅は妄想が湧く前に、寝息を立て始めた。凛もそれを聞くと安心し、目を瞑った




どこまでも青い景色が広がる

夢の中で、颯雅は隊長と呼ばれていた

青い空の下、石で出来た城壁の上で、熊のような強面の大男が、その身を屈めるように、ヴァイオリンに似た楽器を弾いていた。目を閉じ、その曲の流れに合わせて酔うように身体をゆっくり動かすが、何分(なにぶん)図体がでかいので雰囲気が出ない。だがその音色は奥行き深く、心を郷愁に掻き立てる。自分はそれを揶揄うのだ

「良いね。熊の曲芸みたいだな」

それは隊長なりの褒め言葉と知っている大男は、少し照れ臭そうに笑い、言い訳する

「指が太くて弦が押さえづらいのが難点ですね」


大男の視線の先に何があるのか、本当は自分は知っている。神殿に務める女官だ

「副隊長、どうして求婚しないんだ。向こうも待っているんだろう」

どうしても彼を(いじ)りたくなるのは、彼が最も信頼していて、一番近い存在だからだ

副隊長と呼ばれた男は、首を横に振る

「私と結ばれては彼女は幸せにならない。寂しい思いをさせてしまうかも知れません」


それは本心なのだろうか。彼はいつか自分は死ぬと思っている。先の事を保証出来ない自分がもどかしい。副隊長はこちらを振り返って、顔に似合わず優しい目をして言う

「隊長こそ、どうなんです。姫王様のお気持ちを…」

隊長は苦笑いした


この話は「双青の都」と関連があります

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