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Nichit eilen 【談話】

Nichit eilen ニヒトアイレン (急がずに)(独)



食堂に行くと、マイケルさんと他の従業員が賄いを食べていた

テーブルの中央には大皿におかずが盛ってある。残り少ないので、皆は自分の分を取り分けた後なのだろう

「こんばんは。明日から仕事に加わります、橘颯雅です」

「美澄凛です」

颯雅と凛はそこに居る四人の従業員を見渡す

「はい、座って座って。凛ちゃんは東京に居る親戚なの」

二人が座ると、凛の向かいの茶髪の男性が言う

「へえ、マイケルの親戚なのに可愛いね」

「さり気なく失礼な事言ってない?」

マイケルが突っ込むと彼は笑って受け流し、凛に話し掛ける

「学生なの?」

「はい、大学二年です」

「あ、二十歳(ハタチ)?」

「いえ、十九…」

凛が答えると同時にマイケルさんが言う

「ダメよー、飲ませないでね、飲ませるなら颯雅君にして。但し責任取ってね。あと、凛ちゃんは従妹の大事な娘預かってるんだから、下心はナシでお願いね」


皆の注目が一斉に凛に集まると、一番離れた席にいた髪にウェイブかかったいかにも可愛い流行りの化粧を目元にした女の子は、少し棘のある視線を凛に投げ掛けた。凛はそれを敏感に察知して一瞬身体を硬張ばらせ、テーブルの下で颯雅の手を掴む


従業員はそれぞれ名告った

エンヤさん、ジュン君、林さん、ちひろちゃん

颯雅と凛は必死で覚える。

「それから、キッチン仕切るのはうちのオカミでーす。食堂は彼女のテリトリーだからね、逆らっちゃダメよー」

マイケルさんが紹介すると、キッチンカウンターの向こうの黒ぶち眼鏡の女性がこちらを見て手を振る

「シロです、よろしく」

「シロ?」

颯雅が聞き返すと凛が解説する

「ましろさんて言うの」


二人はおかずを少し取り、食べながら、他の皆の質問や座談に加わる

最初に話し掛けて来たエンヤさんは常連のバイト。ダイビングで元々毎年ここに来てたお客さんで、その後、毎年夏にはここで働きながら休憩時間に潜るらしい。茶髪は染めでは無くて海水焼けなのだと納得する

ジュン君は那覇から来た学生。夏休みバイトに来ている

林さんは脱サラして、これからどうしようか模索中で、何だかんだ1年働いている。林さんはフロントと送迎担当らしい

リカちゃんは東京の学生。先輩のツテでここを知って、応募して来たそうだ


全員一致で言うのは、ここの海は本当に綺麗だと言う事。トシさんは19歳の夏に来て以来、毎年のように宮古に潜りに来ている

「そんなに好きなら定住すれば良いのにって言ってるの」

「駄目なんすよ、親向こうに居るから…」

トシさんは複雑そうに笑った


マイケルさんは二人が食べ終わると、二人を星綺麗だからと誘って外に連れ出した。あまりその場に引き留めないように、凛を気遣ったのかも知れない。外は暮れて暗く、星が夜空に輝く

「綺麗ね、星が良く見えるわ」

沢山の人といっぺんに話す事から解放され、明らかに安堵している。マイケルさんはきっと凛の性格をわかって居るんだろう。ここ来て良かったな、と颯雅は思う

「マイケルさん、ランドリーの二槽式洗濯機、使っても良いですか?洗濯槽洗うので」

「良いけど、何で?全自動の方が使いやすいんじゃないの?」

「いや、少量なら二槽式の方が便利だし、僕もあの構造を想像出来る機械が好きだから」

マイケルさんは笑った

「面白い事言うね」


マイケルは凛にミッキーとユッキーの事を尋ねる

「母は相変わらず、ずっと服作って、ウェブで売っています。東さんも保育園ずっとやってるけど、なんか最近…」

「なーに、ちょっとそこで言葉切ると気になるなあ」

マイケルは話を促す

「最近、もしかしたら好きな人が出来たかも知れません。でもまだはっきり本人から聞いて無くて、雰囲気とか言動見て私がそう思っただけで」

「あら、そう。めでたい話ね。良かった。アイツずっと独り身だったからなぁ。別れた妻なんてどうでも良いのに」

マイケルは煙草に火を点ける

「これでも仕事終わりに一本だけに減らしたの」

「東さんは完全に止めたってこの前…」

「あら、ミッキーに負けちゃった」

マイケルは煙草を吸って一息ふーっと煙を吐いた


「それで二人はどうやって知り合ったの」

「それは凛の絵の個展で…」

「あ、その前に、颯雅君がコンサートでフルート吹くのを偶然聴いて」

「え、何それ。颯雅君フルート吹くの」

凛は出会いの経緯を簡単に話した。個展の案内の絵葉書を喫茶店に置く時、偶然そこで開催されていたミニコンサートを聴いた。そしてその彼にどうしても個展に来て欲しくて、絵葉書渡す役を東に押し付けたのだ


「何なに、凄い積極的じゃないの。ていうかどうして自分で渡さないの」

「え、いえ、その時私フルートの音色に感動して泣いちゃって。とても話せるような状態で無くて…」

凛は俯いて答える

「そうなんだ、凛ちゃんの一目惚れ?じゃ無くって、音に惚れたの?」

「むしろ、一目惚れは僕の方で、会場の出口付近の凛の姿をその時に見てたんです」

凛はびっくりして颯雅を見る。その話は初めて聞いた

「やだー、完全に運命なのね。良い人じゃないの。ユッキーとミッキーも安心ね」

マイケルもつい頰を緩ませる。凛は暗い中、顔を赤らめていた


「凛ちゃん、シャイはそのままなの?ミッキーにも聞いてるけど」

「はい、これでも保育園でのバイトとか、颯雅君に会って、大分抵抗減って来てはいるんです」

「そう。ちっちゃい時も全然笑ってくれなくて、ずーっとユッキーかミッキーの後ろに隠れてて、私の自信を打ち砕いたもんね」

凛は恥ずかしそうに笑った

「一応、何話すのか決まっているとか、立場決まっていれば、初めての人でも対応出来るんだってわかって来たから。それに颯雅君一緒なら大丈夫って思って。ご迷惑掛けないようにします」


「毎年お誘い頂いていたのに、いつも来られなくて。私もいつかはここ来たいって思ってたんだけど、今回来られて本当に良かったです。飛行機から見た海の上の丸い珊瑚礁が本当に綺麗でした」

マイケルは笑うと言う

「それだけ思った事喋れるのにね。凛ちゃんが言っているのは東平安名崎(ひがしへんなざき)の事だと思うよ。休みは一日あるから、その時行ってみれば」


マイケルは煙草一本を吸い終わると、じゃ、明日朝ね、と行き際に颯雅の肩を軽く突く

マイケルが建物内に入ると、そこには二人の他は夜空と風が残った


颯雅は凛に言う

「皆良い人そうで良かったね。マイケルさんも良い人だね」

「そうね、何とかなりそう」

二人の頭上で星が煌めく

「あ、流れた」

「え、どこどこ」

凛は指差す

「あっち。もう見えないよ」

「何だ、見逃したー」

二人は手を繋ぎ、次の流れ星を見逃すまいと目を凝らした


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