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Rinforzato【献花】


Rinforzato リンフォルザンド(その音を急に強く)(伊)



二人は凛の家を出た。凛は駅の近くの花屋で白い百合の花を二本買って、自宅用と言い簡単に花束を包んで貰う。颯雅は凛の個展に百合を持って行った事を思い出す

二人は電車に乗り、昨日颯雅が行った逸彦が自害した場所に向かう。百合の花の芳香が、颯雅の記憶をくすぐった。逸彦が最期に嗅いだ水仙の香り


颯雅は凛が個展であの絵に『織り上がり』と言うタイトルを付けた事、またBGMにアンドリューのレクイエム『ピエ・イエズス』を使っていた事を、今更ながらしっくりと感じた。それは鬼を殲滅する使命を逸彦が成し遂げた完了を意味し、また同時に彼らの死を悼んでいた

バスの中で隣に座る凛にその事を話すと、凛は少し切なげに微笑んで言った

「あの曲ね。透明感あって雪が静かに降る様子と、ここで何かが起こって終わった、と言う感覚と合うと思ったわ。まさか颯雅君の前世だなんて思わないけど」


そして颯雅の手を握り締めた

「愛も、逸彦と彼らの死をとても悼んでいたわ。本当は違う結末にしたかったのに。逸彦に報われて欲しかったの」


バス停で降りると、颯雅は先に立って祠のある場所に案内した


「ここだ」

凛はそこに立つと目を閉じ、何か感じているようだった。その目から涙が頰を伝った


「実穂高が泣いているわ」


凛は颯雅の手を握る。颯雅も握り返し、二人は少しの間黙った


凛は花束を解くと、二本の百合の一本を颯雅に、もう一本を自分で持った

凛はそれを祠の裏に置いた。祠の前に置くのでは無いんだな、と颯雅は思ったが、颯雅もそれに倣った。そして二人はまた手を取り合い、目を瞑った

凛は言う

「我実穂高はここに眠る逸彦と鬼討伐の皆との再会を喜び、彼らの貢献を讃えよう。

逸彦、我らと共に、愛を受け容れ再び人生を歩まんことを望むか」

颯雅も応えた

「我逸彦は愛を受け入れ、実穂高と共に人生を歩む事を望む」



俺の中の誰かが俺の口で話す



ここは一つの終わりだ

長い流れの中で一つの歪みが膨らみ

長い年月をかけて完了した場所だ


鬼の狂気を終わらせたことが

その後どれ程影響を与えたのか計り知れない

もし完了していなかったら、まだこの時になっても人々は鬼に怯えて暮らしていた


功績はこの地に刻まれた

逸彦が自ら命を絶った責任は今果たされた

神の名において終結を宣言する



俺は驚いた。それほど重要なことだったのか。それに今神と言っていなかったか


「その当時、逸彦の成果は公家に横取りされた。だから歴史の中にも逸彦の名はないの」

凛は祠を見つめながら教えてくれた

「鬼は当時の人々にとって思い出すには辛すぎるからね。誰も口にしないし鬼が居ないならそのまま忘れたい。やがて鬼の記録そのものが消えてしまった」


凛は颯雅を抱き締めた。颯雅と共に中に居る逸彦を

逸彦は泣いているように感じる。嬉しいのか悲しいのかよくわからない。両方だろうと颯雅は思った

これから逸彦と色々語り合ってみようと思った


二人はその場所でやるべき事を終えると、今度はバスを待たずに駅に向かった。二人で手を繋いで歩く間、あまり言葉は交わさなかったが、颯雅は辺りの景色が全く違う風に見える事に驚いた。昨日は止まっていた時が、今日は動いているように見える


二人は新幹線に乗り、駅で凛と別行動だ

「次回会うのは三日後空港だね」

「ええ、待ち合わせ時間と場所、メールしてね」

手を振り二人は別れた




その夜颯雅は沖縄行きの荷物を用意しながら、ついでに気になって部屋の片付けを始めた。自分の何かが新しくなって、古い物が古いとはっきり目に付いたからだ


その時、押し入れの中にあった竹刀が目についた。高校の体育は剣道だったので、買わされたのだ。体育の範囲内だからそんなに凄いことをした訳でなく、簡単な試合程度までだった。俺は剣道に向いているようで、先生からも褒められ剣道部に入らないかと言われた。あの時、竹刀を持つとどうやって動かしていいのかわかる感覚があって、その通り振ると面白いように相手に当たる。そんな経験をしたのだ


久しぶりに竹刀を振ってみようかと思い、暗い庭に出て振ってみる。逸彦はどんな風に振っていたのかと思ったら、途端に体の感覚が変わり無意識に動いた

速い、物凄く速い。全身の感覚が深く開いたように思うし、驚いたことに背中の景色が見える。本当に見えるのだ。これなら何処から敵が来てもわかるな、と思った。あの体育の時のわかる感覚は逸彦だったのかと改めて思った

颯雅は逸彦が笑っているように感じた


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