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Rinforzato【御霊】凛と颯雅


Rinforzato リンフォルザンド(その音を急に強く)(伊)


朝颯雅が目を覚ますと凛は隣に居なかった

ぼんやり目を光に慣らしていると、階段を上がって来るらしき足音がする

ドアが開くと凛がお盆を持って入って来た

「起きたのね。朝食持って来たわ…良く寝てたわね」

颯雅は上体を起こしてベッドに座り直す


「お手洗い行くなら、出て突き当たり」

凛が示したのを見て、昨夜から行ってない事に気付く

「ああ、借りるね」


颯雅が戻ると、折り畳みのローテーブルに二人分の朝食がセッティングされている

「わあ、なんか良いね。素晴らしい」

新婚みたいで、と颯雅は口に出さずに思った。凛はふふと笑うと言う

「だいぶ調子取り戻したみたいね」


促されて食事を食べ始める。そう言えば昨夜夕飯食べてない

食べながら、凛は昨夜の騒ぎを一通り説明した

お母さんがヘルプの電話して(あがり)さんを呼び、彼がお父さんを帰宅と同時に連れ出して、飲ませて事情を説明したらしい。お父さんはブツクサ言ってたけど、帰宅して直ぐに寝てしまい、今朝は既に出勤したのでもう家には居ない


「食べ終わったら、一応お母さんには挨拶しておいてくれないかな?ちゃんと紹介するわ」

颯雅は頷いた。当然だろう。何もしてないのに疑われても困るし、このままだと第一印象が悪過ぎる


下の階に降りると、咲雪が仕事の準備を始めている

「お母さん、昨夜はご免ね。こちらが橘颯雅君」

「おはようございます、お母さん。昨夜は突然お邪魔して、大変ご迷惑をおかけしました」

咲雪は颯雅を見た

「落ち着いたの?昨夜は随分顔色悪かったけど」

「はい、良く眠れたのでだいぶ」

咲雪は何か言いたそうに凛と颯雅を見比べる。おそらく事情を聞かない方が良いんだろうなと考えている

颯雅は仕事の準備に作業机に広げられた布を見た

「ああ、そう言えばお母さん。先日はシャツを作ってくれてありがとうございました。凄く良いデザインで、気に入っています」


「あら、そう。良かったわ」

咲雪は機嫌が良くなった。颯雅を頭の上から足先まで眺める

「颯雅君、時にあなた身長幾つ?」

「身長?176位です」

「良いわね。今度モデルやってくれない?ホームページに載せる写真撮らせてよ」

そして棚にあるファイルを手に取るとパラパラとめくり、その一つのデザイン画を見せた

「ほら、こう言うの似合いそう」

「お母さん、そっちよりもこっちの方が似合うわよ」

凛は違うファイルからページを選んで開いて見せる

「…ロングベストの羽織じゃない。女性物でしょ」

「そうよ。それでこんな感じにアレンジするの」


凛はメモ帳を一枚取ると、手早くデザインを描いた

「何これ。どこの国の王子様なの」

凛が描いたのはアジアのどこかの、確かに王族の様なデザイン一揃いだ

「うーん。確かに、似合いそうだわ…でもちょいワルオヤジ系も捨て難いわ」

「お母さん、なんでこんなに若いのにオヤジ系着せたいの」

颯雅は二人の論争に着いて行けず、もじもじとそこに立っていた

「あの、僕は言ってくれればモデルでも何でも構わないので…」


「ああ、こんな事してられない。まだやる事あるの。私颯雅君に心理学のセラピーするのよ。お母さん、写真はまた次回に」

凛が颯雅の手を引いたので、颯雅は頭を下げ凛に連れられ二階へ上がる



「そんなに時間無いと思うから、どんどんやって行こう」

「何をやるの。心理学セラピー?」

「そう言った方が辻褄合うでしょ。嘘は言ってないし」

凛は颯雅をローテーブルの向かいに座らせ、目を閉じると話し始める

その口を通じて語るのは凛ではない


「昨日あなたが見、感じたもの。それは逸彦の記憶。だがあなたはその延長を生きている。逸彦の狂気はまだあなたに残る。逸彦は自害した為、その命は転生の流れに乗れず

不完全な形で生まれ変わった。それは逸彦から離れて狂気の人格となり、度々人斬りを繰り返した。それはあなたそのものでは無いがあなたにも責任がある。自害という選択は最も重い」

え、どう言う事。俺が自害した訳では無いのに、その責任を取らなきゃいけないの。俺どうなっちゃうの

「心配無い。愛と共に逸彦をここに連れ戻そう」

凛の両の手が颯雅の手を取る


「イメージして。一直線に並んでいる丸い大きな石が四つある。それは生きる事の向こう側にある。あなたは死の国に居る」

颯雅は思い浮かべる。俺死んでるのか、いや逸彦だったっけ


「一つ目の丸い石の上に飛び乗って。それは人生の体験をその目的を受け容れること。逸彦としてその人生を受け容れて。起こった事をそのままに」

辛い、何を感じても辛い。そこに絶望と己の感情の葛藤がある。

颯雅は少し逸彦から離れて彼に問う。あなたはなぜ神から鬼の殲滅を託されたのか。あなたしかできない事だからでは無いのか。最後までその使命を全うしたのは確かな事実だろう。逸彦も神の意志を果たした事を思い出した。それにつれて、逸彦の感情は徐々に安定していった


「二つ目の石の上に移って。それはその人生から得たものを我が糧に、それらの全てを我が命であり、贈り物であるとして受け取って」

感じるのは否定だった。得られたものなど何もない。贈り物があったとて、それを受け取る資格などない。命の尊厳を踏みにじった事への絶望が出てくる。たとえそれが異形だったとは言え、元は人だった者をあやめ続けたのだ。それによって人々から憎まれ、疎まれ続けたのだ。こんな人生に何の価値があろう?

颯雅はまた少し離れて逸彦に問う。鬼を殲滅しなかったら、その後の人々はずっと鬼に怯えて暮らすことになる。それを終わらせた事を後世の人々が感謝しないはずがない。あなたが生涯をかけて行ったことは、誰にも真似できないものだ。逸彦は戸惑いながらも、少しずつ受け入れ、やがて使命そのものが神の贈り物であった事、沢山の命を鬼の呪縛から解放した事を思い出し、それを受け取った



「三つ目の石の上に。それらを受けた上で、報いを受ける事を受け容れる。報いとは良いとか悪いとか、罰の事では無い。人智で評価する必要は無い。あなたがした事そのままがあなたに戻ると思えば良い。受け取って」

逸彦は素直に受け取った。己が賢くない事はよく分かっている。その頭で考える事が及ぶ訳が無い。全ては愛のままに



「四つ目、最後の石の上に乗って。あなたはもう一度生まれる。その続きをだ。その時に何を望み、何を願うのだ。何をやり直し、何を得たい」

逸彦は戸惑った。何を言われているのか分からないようだ

颯雅は少し離れて逸彦に話す。俺はあなたを尊敬している。あなたが成し得た結果があって今がある。だからこの世界で、幸せになるべきだ。これまであなたが本当は望みながら諦めた事を話してくれ。一緒に探そう。本当に愛する人と暮らし、子を育てる。そう言う事をしても良いのだ。ここはそう言う世界なのだ。誰もそれを妨げる事は無い

逸彦はやがて納得する


死の国に居た逸彦の命は颯雅の中に入った

颯雅は確かに何かが自分の中に入って来たと感じた

それに前にも会った事があるような気がした


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