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Overture 【露草】凛と颯雅

Overture オーバーチュア 序曲

小道の傍に青い花が咲いている。それは所謂(いわゆる)雑草ってやつで、花も小さくて地味なのに、青い色がはっと目に入る。それは遠く懐かしい記憶があるからなのだろう

住宅街から自然を少し残した公園への道を歩いていた時だ


「どうしたの」

無言で歩く颯雅(そうが)に凛は尋ねる


「うん、ああ、露草がさ。雑草だけど綺麗だよね、あの青」

凛も颯雅の目の先を見てそれに目を留める

「ええ、可愛い花よね。どこにでもあるけど、今は一層綺麗ね。瑞々しいわ」

季節はそろそろ梅雨明けか。湿潤な環境でこそ、この草は活き活きとする

「昔さ、風邪引くとこれ煎じてうがいすると良いって聞いたんだ」

「そうなの、誰に」

「母…かな?」

あれ、母だったかな。うちの母ってそんな知識あったっけ

「随分と物知りのお母様なのね」

「いや、そんな事は。誰に聞いたか思い出せない。でも別名がツキクサって言うのも聞いた」

「そうなの。素敵ね」

凛は颯雅の顔を感心したように見る。照れ臭い。他人の知識に過ぎない

「…食べられるらしいわよ。アクが少なくて生食もいけるって」

「そうなの?」

なんだ、凛の方がよっぽど物知りじゃないか


「ちょっと、食べてみましょうか」

凛が颯雅の手を引っ張った。あまりにも自然にそうしたけれども、手を繋ぐのは初めてだった

凛はそのまま傍に咲く露草の群れに近付き、しゃがみ込んだ。釣られて颯雅も覗き込む

「これなんかどうかしら」

凛は土がついていなくて青々とした露草を二輪摘むと、颯雅にその一つを渡した

二人は葉っぱを一枚むしってそれぞれ口に入れる

「食べられる…」

「そうね…」

「湯掻いて醤油とか付けたら、これ何の野菜かと思うね」

「マヨネーズも良いわね」


「お花もきっと食べられるわね」

凛は(がく)から花をつまみ取ると、それを口に入れた

颯雅も真似して花を口に入れる

「美味しいかも」

それは美味しいとか言う程の量もなく、これと言った味も無いのだが、凛が言うように確かに美味しいと感じた


颯雅は堪らず凛の手を取った。凛はびっくりしてまだ残っていた露草の茎を落とした

「このまま手繋いで良いかな」

凛は少しだけ照れて、だけど嬉しそうに頷いた


「今度こう言う所に来る時は醤油持って来ようか」

凛は笑う

「遭難した時には役立つかも知れないわ」

「そんな山深い所に行かないよ」

颯雅も笑って返す


颯雅はこの道と露草の味を忘れる事は無いだろうと思った


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