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第97話 オットー・リブラほら話全集より 胸の穴

 見つけてくれてありがとうございます


 Twitterから来てくれた皆さん、ようこそお越しくださいました

 リシア・クレモンティーヌは新婚早々に夫を戦争に取られてしまった。徴兵に行った先が何処かすらも分からない。ただ戦況の動きから今頃はフワソンかパブリナ辺りで戦っているのだろうか。はたまたどこかの輜重隊か内地のどこかに居るのだろうか。まだ夫の子も宿していないリシアにとって胸が痛むとか胸が苦しいとかよりぽっかりと胸に穴が開いたような心境だった。悲しさの余り胸に穴が開く。そんな表現が自分にとってぴったりだと、胸に穴が開いた状態で納得していたつもりだった。

 しかし新婚の夫に会えない悲しみは遂に極限を突破した。


 本当に胸に穴が開いてしまったのだ。

 最初は指すらも入らない程度の小さな穴であったが、夫を思えば思うほど。気にすれば気にするほど穴は大きくなった。これどうしたら良いのだろう?鏡の前で悩んでいたリシアは、ついぞ穴の中に昨夜食べ残したパンを当てたところ、穴はそれを吸い込み無くなった。

 ああ良かったわと、その日は安心していたが、翌日また小さな穴が出現していた。その日は何となく自分のマグカップを放り込んで穴を沈めた。しかし夫への思いは募るばかりなリシアの胸の穴は毎日少しずつ大きくなっていった。

 遂には向こうに突き抜けそうな穴が開いているのだが、鏡に映る胸の穴は背中を突き抜ける位深く、遂に穴の向こう側が真っ暗になるほど大きくなっていた。リシアは毎日穴に何かを放り込んでは穴を消していった。

 この前は近所の野良犬を放り込んだ。その日は穴が勝手にテーブルを呑み込んだ。あの日は空き家一件胸の穴が吸い込んだ。リシアの胸の穴はどんどん底なしになっていった。リシアが気にすればするほど穴はどんどん呑み込んだ。

 そこに夫が一時帰郷する旨の連絡がきた。夫の手紙である。その日の胸の穴はそれだけを呑み込んで綺麗に消えてしまった。

 ああ。夫が帰ってくる。嬉しい早く会いたい。リシアの胸の穴はその日からしばらく現れなかった。

 「ただいま。リシア」徴兵の日以来顔も見なかった夫が帰ってきたその瞬間、突如現れた胸の穴が事も有ろうに夫を一飲みにしてぱったりと出なくなった。

 え……?

 どうして夫を呑み込んで穴が無くなったの?

 悲しい時に胸に穴が開くって表現はするけどこれは違うわよね?

 胸の穴は無くなったけど、最愛の夫はもう戻らない。


「領主様の創作話『胸の穴』ここに一巻のおしまいー」

 アナナンカさんが拍子木を叩いてエンディングを盛り上げる。

 私はアナナンカさんの描いたイラストのおどろおどろしい様に感心したし、マリアさんは大人向けでなおかつ夏向けな作品チョイスに驚いていた。

「凄いわね!アホのオットーもたまには役に立つわね!」

「「アホって」」

 思わずアナナンカさんと私が同時に呆れたようにつっこんだ。

「まあ良いわ!アンナちゃんの移動図書館ではこの紙芝居と……お菓子!?」

「お菓子は上演前や後に販売する形ですか?」

 私から聞いてみるとアナナンカさんが景気よく答える。

「はい。楽しいと思いませんか?美味しいお菓子と楽しい紙芝居。紙芝居にはもう少し細工して文面も表示するのも考えてますね」

「このお話は楽しくは無いわね!」

 マリアさんのツッコミにアナナンカさんはさらりと答える。

「でもマリア先輩、途中から暑さを忘れて扇ぐのやめましたよね」

 マリアさんは自分の身の回りを確認し、はたと気付かされた顔をした。

「もちろん楽しいお話も本の中には有りますからね。移動図書館で沢山の人を集めて楽しい時間にしたいですね」

 アナナンカさんは移動図書館の意図をかなり先読みしているようだ。

「アンナちゃんに話して良かったわ!王都から来たあの糞研修生じゃ役に立たなかったもの!」

 アナナンカさんはきょとんとした顔をして聞いた。

「え!他にも研修生さんが?どこですかね?どこですかね?」

「ヤワな奴なのよ!ちょっとつついたら骨折して休職中よ!」

「あの、あれは『ちょっとつついたら』という怪我では無いですからね」

 実は王都から来た研修生さんはダンジョンの『野戦病院』に通っている。脚とあばら骨。更に鼻骨を骨折している。騎士さんに担架で運ばれて来た。

「まあ、そうなんですね?先輩の言うこと聞かないならお仕置きは必要ですよね」

 アナナンカさんは割と澄ました顔をしている。

 

 そんな中一人澄ました顔していられないヒトがいる。

 隻腕の女の子、イリーナさんだ。

 話の筋よりも紙芝居の絵を恐ろしく感じたのか、左手で必死に胸をまさぐり、自分の胸に穴が無いかを必死に確認している。

 これには何とも言い難い。なにせこのお話がフィクションだと伝えたら、絵本もウソだと思わせてしまうかも知れないのだ。


 ただイリーナさんが恐怖に顔をひきつらせながら有りもしない胸の穴をまさぐり続けている。

 読んでくれてありがとうございます

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