第86話 ダンジョンマスターだって仰天する!
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入浴施設。これは私のダンジョンの中でもかなり人気な施設である。なにせ領主さんが訪れた先で「52開拓地の皆は前日お風呂に入って来たそうだ。俺より身綺麗にしていたぞ。その先に有るダンジョンでは銅貨一枚で入れるそうだ。気持ち良いから皆も入って来なよ」と、おすすめしてくれたりしている。
これは図書館の奴もやってくれている。
「清潔と養生。これこそ長生きの秘訣なんだよ。ダンジョンで一っ風呂浴びて皆も清潔と養生に心掛け、子供達が自立するまで見守ろう」
などとダンジョンにも遊具にも興味を持ちようもないお年寄り層をダンジョンに誘ってくれるのだ。
お風呂は私個人なら洗浄の魔法が有るのだから本来必要の無い物なのだが、深夜独りで風呂にどっぷり浸かっておっさんみたいに「あー。これはたまらん」とか口に出すのは無上の楽しみだったりする。
さて、その入浴施設に私はあまり日中立ち寄らない。しかしその日ふらりと施設入口を通りかかった。その時幼女が裸のまま出てきたのである。
「おかしほしいー」
幼女は入浴施設に併設されている駄菓子屋に服も着ないで飛び出したのだ。まあ、たまに有る光景なようで、どこかのおばさんに服を着てからにしようねとたしなめられていた。
その時私は見てしまったのだ!
「無い!無いものなのか!」
驚きの余り声まで出てしまった。
『おい!図書館!図書館!聞いてくれ大変なんだ!』
思わず念話の魔法で図書館に緊急で声をかけた。
図書館の奴はすぐに来てくれた。あまりの緊急な様子に駆け付けてくれた。
「やあ、どうしたんだい?そんなに大変なのかい」
コアルームでお茶を傾けながら図書館の奴が落ち着いた声で問いかける。
「大変なんだよ!無かったんだよ!」
「うん?」
「人間の女の子の裸見たんだ!無かったんだよ図書館!」
「あーね。そりゃ女の子には無いだろ?それから私の名前はセレクトだ。覚えてくれないかな」
「無いのか?女の子には無いのか?私には有るぞ!」
「それは凄いな!どんな身体してるんだい?」
別段図書館の奴は私が名前を呼ばない事に不平は言わない。
「だってお前にもまさか無いのか?」
「無いよ!有るのは男の子だけだろ。それとも君は胸が豊かな男の娘だったのかい?それとも」
「男じゃないわ!つか男の子には有るのか!」
「有るだろ?普通」
「そうか。男の子には有るのか?と言うか人間は変な生き物だな!」
「そうかな?付いてる君のほうがおかしい筈だよ」
「そんな訳有るか!」
「あのねダンジョンくん。男の子はそれを女の子に使って子供をつくるんだよ」
「……………………違う」
「ん?何が違うんだい?」
「付いてないのは尻尾の事だよ!」
「え?」
「え?」
ここで図書館の奴はお茶を一口啜ってから答えた。
「人間には誰一人尻尾なんか付いてないよ。知らなかったのかい?」
「なん……だと!」
思わず私は指を鳴らし、尻尾を消す魔法をかけてみた。
「あ。消えた」
何だかおかしな気分だ。身体のバランスが取りづらい気がする。
「人間って不便なんだな」
「どこら辺が不便なんだい?」
「尻尾が無いと身体のバランス取りづらくてさ」
「あー。君の尻尾はやたらと長いんだね。その気持ちは私には分からないよ」
「なんだ?図書館と私の尻尾は違うのか?」
「魔族の尻尾はそれぞれに違うよ。私の尻尾はさ……」
そう言って図書館の奴はローブを捲り、パンツを少し下にずらして自分の尻尾を見せてくれた。その尻尾は白いモフモフした毛に覆われた短い物だった。
「ウッハ!お前の尻尾可愛らしいな!なにこれ~」
チョンと触るとプルンと避ける所も私から見て可愛らしいと感じてしまうわけだ。
「おいダンジョンくん。魔族のオケツ息がかかる程近くで見て可愛らしいとか言わないでくれよ」
私は思わずハッとして離れた。
「ごめんな。デリカシー無さすぎたよ」
「まあ良いさ。ちょっと恥ずかしいけどね」
「私の尻尾とは随分違うんだな」
思わず私からスカートを下にずらして尻尾を出した。私の尻尾は黒くて細長く、毛などは生えてなく、先端がハートの形に広がっている。
「あー。この形かあ。これツルツルして触り心地良いよね」
図書館の奴が私の尻尾を撫でながら呟く。
「やー!これホントに恥ずかしいな」
「あ。ごめんねダンジョンくん」
実は魔族には尻尾が生えているのだ。人間に生えてない事を知らなかった私はおもいっきり驚いてしまった訳だ。しかしある程度疑問は残る。
「なあ図書館?男の子には何が付いてるんだい?」
「いや。そのね」
「領主さんにも付いてるのかい?」
「あー。そうだね。見たことは無いけどね」
「何がなんだ?」
図書館は暫く悩み、変な事を言い出した。
「乾杯は英語ではcheersポルトガル語ではsaúdeドイツ語ではProst……ではイタリア語では?」
私はなるほどという顔で答えてやった。なるほど、付いてるのはそれだったか。
「Cin cin!」
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