第82話 各種難民問題事情
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実のところ近頃難民が多すぎるのが悩みの種だ。相手の国境警備隊やらそれが連れてくる難民一家みたいなもの。以前なら多くて2桁だった難民が先日は遂に100人を越えた。これはどうしたものだろう。
とりあえず領主さんには一報はいれておいた。1000人収容出来る野戦病院が割といっぱいになっている。それはすぐに建て増し出来るのだが、何度も言うがこれは不本意だ。
この世界ではヒトこそが生産力そのものなのだ。早いところ何らかのお仕事をダンジョンの外で始めて貰えるようにしなくては。
ここには仮住まいという事になるのだが、外の家々がテントまみれとあってはちょっとどうしようもない。
大工等のなり手が少ないからだ。これは仕方なく領主さんが工兵隊出身者を送っているようなのだが、どうにも勝手が違いすぎるらしい。
実際工兵連中に黙って家を建てさせたところ、掘っ立て小屋を自慢気に造り出したとか。どうも技術力が低くても勤まるお仕事なようだ。そんな中でも多くの工兵出身者が残って頑張っているのは、この仕事を馘首されたらもう行き場が無いと錯覚しているからだ。
実際には農家でも酒造組合でも鍛冶場でも好きに仕事を探せば良いのだけど。
で、難民だ。案外領主さんはお年寄りと子供を地元に残し、青年壮年はよその領地や王都に送ってしまう傾向にある。
なるほどよそに送るなら働き盛りを送るべきだなとは私も思うが、領地が潤うのは先延ばしになる。
もう!せめてこの領地の人を豊かにしてくれたら良いのに!
で、難民の中から何人か新規雇用のメイドさんを選びにメイド長さんがやって来たり、執事さんが庭師になりそうな人材を物色したり。
更には54、55開拓地の新規立ち上げに連れて行かれたり。元有る開拓地に割り振られて出ていったりする訳だ。
そんな中人間以外の亡命者もやって来た。笹穂のような長い耳と高い魔力。そして悠久という程の長命種族。エルフだ。
こればかりは一報入れたら領主さんが大急ぎでやって来た。
物珍しいからやって来たのは妹のイーナさんで、それの保護者が婚約者のママーナさんで、領主さんはエルフの方々を国際法に準拠し保護するために飛んで来たのだ。
領主さんは駆け込むように野戦病院にやって来て、病院のスタッフに積めよった。
「本当にエルフ様が居るのか?」
領主さんの話だと、この世界におけるエルフとは半神であり、不可侵の存在であるとされているのだそうだ。よってこれが難民としてやって来た以上、領主さんには保護義務が有る反面、国際法上では領主さん一家は単独でエルフさん達を難民にしてしまったこの戦争中の国家、ソンナ王国とトアル王国に戦争を仕掛けても許される権利を持つのだという。
「とにかくまずは事情を聞いて保護を」
エルフさん達が一時保護されている病室を開けると、そこにはエルフさん達がちゃんと居る。
「貴殿がこの地を治める貴族殿か?この度は亡命の受け入れに快く応じていただき感謝する。エルフ、エセンカ族族長、エセンカマンダルと申します」
領主さんはポカーンとした顔をしながら聞いた。
「なんかエルフ様は半神にして森に住まい、見た目が美しく笹穂の耳が有ると。有るな」
「はあ」
「でも何でそんな世紀末みたいな姿なんですか?」
確かに族長さんは黒い袖無しレザースーツに刺が生えた肩パット。モヒカン刈りにサングラス。そしてお母上さんの胴体くらいの立派な上腕二頭筋をしている。
「世紀末?いえいえ亡命はしていますが助けてくれと叫んではおりません」
「お兄ちゃん、あの肩パット私も欲しい!買って買って~」
妹さんは変に無邪気だ。
「もうお兄さん、人間の偉い人も困っているじゃない」
そばに寄ってきた別の女性エルフさんが割って入る。
「初めまして人間の偉い人。族長の妹エセンカマヌアと申します。この姿は一族の力の象徴を現した姿なんです。3年前に決まりました」
「3年前?」
悠久の時を生きるエルフさんの中では珍しく、あの姿は最近決まったようだ。
そう説明する女性エルフさんはロングヘアーなのに寝癖が酷く、汚れた白衣を着ていて牛乳瓶の底みたいな眼鏡をかけている。領主さんに言わせると美しいかどうかも分からなかったそうだ。
そこ?
「そう言うエセンカマヌア殿も随分奇抜なお姿で……」
「あー。魔法の研究ばかりしてたら目が悪くなりまして」
そう言って頭をかきむしるエセンカマヌアさんは完全にただのマッドサイエンティストだ。もっと自分の姿につっこむ所有るだろ?汚い白衣とか寝癖まみれの頭とか!
その後集落のエルフさん達が丁寧に挨拶するのだが、その姿はそれぞに奇抜だ。
美人な顔立ちなのに灰色の上着を着て頭にネジみたいなの付けているエルフさんに「フランケンか!」
ドレッドヘアーで音の鳴る魔道具を肩に担いだ男性エルフに
「レゲエか!」
競馬新聞持ちながらステテコ腹巻きで耳に赤鉛筆指したエルフさんに
「ソルティーシュガーか!」
そんな奇抜なエルフさん達一人ひとりにツッコミを入れた領主さんは、何故かエルフさん達から大人気な領主さんになった。
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