第74話 難民台帳異変有り!
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実のところ主だった難民はまず私が掌握することになる。疫病疾病確認の為にダンジョンの野戦病院で検査する為だ。
が……このところその難民が現れない。これはどうしたものだろう。休戦か停戦でもしてくれたなら有難いのだが、実情は違うようだ。
「あー。居るね国境警備隊。両国共に約20人位配備してるよ」
千里眼の魔法で確認してくれた図書館の奴からの報告だ。私も明確な様子が見たいのでイービルアイを放ち、水晶で確認することにした。
「それじゃ難民が来ないわ」
「難民を国許に戻せばやがては兵士になったり生産力になってくれるからね。確かに送り出す理由にはならないよねぇ」
図書館の奴は何故か人間の生死そのものには頓着しない。何せコイツには人間から受ける恩恵は少ない。要するに図書館にとっては取るに足らない生命体なのだ。
それなのに図書館の奴は更に続けた。
「でもそれではされて領主くんは嫌がるだろうね。だからどうにかしてあげなくてはならないよねぇ。まあ、私は領主くんのやることも今一つ分からないけどね。ちょっと考えなきゃね」
図書館の奴は笑みを浮かべて手をかざして瞬間移動の魔法で何処かに行ってしまった。
多分行先は40開拓地だろう。近頃図書館の奴が見付けてテコ入れしているその開拓地は、根本的に地面が農地に向かない上に、農業経験者も少ないため、かなり危機に貧している地域なのだそうだ。
さてとこの国境警備隊をどうにかしなくてはならない。イービルアイも現地に到着し、早速情報収集を始めている。イービルアイは隠密行動に長けているばかりか、音声も拾うのでこんな時には本当に重宝する。
どうやら「ソンナ王国とトアル王国の国境で一番穏やかな地域に乾杯」
とか言いながら白湯を酌み交わしている。お酒でもお茶類でもないのは、それらなんか配給されていないからだ。
「まさか!」
ハッとしてイービルアイを国境の向こう側まで飛ばした。やはり居た。もはや集落とか部落とかになっている難民の群れだ。
「先日夜に国境を越えようとした奴が斬られたらしい」
とか
「あんなのに睨まれては国境が越えられない」
とか声も聞こえる。これは要するに国境封鎖だ。戦時中の両国がここだけ休戦しているのだ。
思わず咄嗟に食糧支援だけをこっそりと行う事しか私には出来なかった。こんな調子で私は無為に2日を過ごす事になった。
2日後、国境の方には大いに追加の異変が有った。
その異変は早朝、伯爵領内から始まった。先日騎士に任命された騎士さんが早くも煌びやかな鎧に身を包み、白旗を持ちながら国境に近付いたのだ。両国の兵士は槍を構えて成行を見守ったが、騎士さんが口を開いた。
「やあソンナ王国、トアル王国の皆さん。戦争しかしてない国を捨てて私達の国に移住しませんか?なお、難民を連れて来た方には一家族辺り銀貨一枚を報奨として差し上げましょう」
そう言って腰に下げた袋から銀貨を何枚も差し出して見せたのだ。
半分信じがたいと言った顔をしていた両国の兵士に、騎士さんが追い討ちをかける。武器なんか要らない。ただやれば良いのだ。
「ほら。食糧も有るよ」
目の前で別の袋から肉がたっぷり挟まったホットドッグを頬張る。
元よりろくなものを食べていない兵士達はその場で反転。連れて来るべき難民をかき集めに走り出した。そんな時槍だの剣だのはただ邪魔になるだけだ。その場に投げ捨てて走り始めた。
「なんだ。まだ水筒に入ったワインを見せてもいないのに。効果覿面すぎらぁ」
騎士カネガさんはヘラヘラと笑いながら兵士達の背中を見守った。
この時難民救助と食事支援の為に図書館の奴と、20人ばかりの有志ボランティアが瞬間移動の魔法で現れた。
「やあ騎士くん。上手く行ったようだね」
「ええ。填まりすぎですよ。でもアレでさぁ。あっしは騎士って柄じゃありゃあせんぜ」
「フフフ。それは仕方ない仕方ない。さあ皆、衰弱の酷い人には野菜スープから。割と元気な人にはしっかりした物を。お粥も様子を見ながら出そう」
はーいと返事を返すのは思いの外若い女性が多い。警戒心を抱かせないようにする配慮だろう。なんだよアイツ。ちゃんと考えてくれていたんじゃないか。
図書館にとっては研究対象でしかない人間。しかし私にとってはダンジョンポイントになり得る貴重な人間なのだ。
「さあ、お腹を満たしたらとりあえずダンジョンくんの元に送ろう……うわ!これは酷いね」
図書館の奴が兵士の一人を見て慌てて駆け寄っていった。その兵士はイービルアイの目で見るだけでも衰弱している。しかし槍を手放して無いように見える。
それは違った。
負傷して切り落とした右腕の義手代わりに槍を装着された女性兵士だ。どうやら腕を落とされて間もないらしく、失くなった腕からは鮮血が滴り、失った血液のせいで顔は蒼白く、例えば今天に召されてもおかしくない。そんな女性だ。
「私が瞬間移動 で病院に連れていく!図書館も来てくれ!」
思わず図書館の前に瞬間移動 し、私はそう必死に呼び掛けるしかなかった。
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