第58話 猫の手も借りたい
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図書館に突如呼ばれた。司書のマリアさんが何やら拾い物をしたそうだ。
何故か私まで呼び出されて事態の収拾に勤める事となったのだ。
着いてみればなるほど拾い物だ。なんと街に居る野良のボス猫がすっかり司書マリアさんに懐いて離れないのだ。
「えーと。この猫は?」
「今朝私の朝ごはんの魚を咥えて逃げたのよ!そして一騎討ちの激闘3分私が魚を取り返したわ!」
「はあ」
私はそこで意味が分からなかったから曖昧な返事をした。
そもそも激闘3分って。猫と激闘って。逃げる猫によく勝てたよな。
「強敵と書いて『とも』と読むの精神が猫にも発揮されちゃったみたいなのよ!」
「それで……これを私にどうしろと?」
「そこなのよ!この猫が居たらダンジョンさんは嬉しいかしら!」
そう言えばこの図書館は私のダンジョンなのだ。つまり準持ち主である私に意見を聞きたい訳だ。
「私個人の意見なら構わないけど……」
実はこの猫もちゃんとダンジョンポイントになっている。だから猫が来ても個人の意見としてなら大歓迎だ。
「しかしねぇ。猫を飼育するのは図書館の役目では有りませんよね。そこも考慮に入れなくてはなりません」
困り顔で言うのは影が薄い白髪頭で眼鏡をかけた老インテリ。図書館長さんだ。
「飼育日記でも付けて書庫にいれますかねぇ?」
猫を飼う理由を無理に付けているのは眼鏡で白髪な女性。副館長さんだ。思わず朝から開いている商店から干し肉を買って来たようで、それを与えている。傍には自分のマグカップなのだろう。水も用意してある。
「要するに領主さんが納得出来る飼う理由が欲しいのね?」
私がそう聞くとマリアさんが大きく首を縦に振った。
「マリアさんの家では飼えないのかしら?」
「私の母は獣の毛が有るとくしゃみが止まらないのよ!」
「それは……困ったわね」
沈黙が包む。ここで重要なのは何も館長さんも飼いたくないという訳では無いという事だ。ほぼほぼ意見は飼いたい方向で一致している。
図書館も近頃忙しいようで、館員を増やせないかと打診もされているようだ。猫の世話を焼ける人も確保しずらいようでもある。
そんな沈黙を破る訪問者は、いつも突然やって来る。
「やあおはよう。可愛い猫ちゃんだね?どうしたんだいそれ?」
図書館の奴である。ちなみに猫はふてぶてしい顔付きで可愛いとはあまり思えない。
「やあ図書館。どうも司書マリアさんに猫が懐いて離れないみたいなんだ」
図書館の奴は猫に視線を合わせるようにしゃがみながら返した。
「猫が居るのは実に良い事だね。この図書館にとっても素晴らしい事だよ。あと、私の名前はセレクトだ。覚えてくれないかな?ダンジョンくん」
「猫が居るのが良い事なんですか!」
マリアさんが前のめりで聞いてきた。
「猫の糞で本が汚れてしまうのではと」
館長さんも心配そうだ。
「そこは躾をしっかりやれば大丈夫さ。野良猫が居るというのは良い事だよ。ペストを媒介するネズミなどを捕まえてくれるし、ネズミはよく図書館の本を噛るんだよ。巣の材料にしちゃうんだ」
「まあ!本を枕にネズミったら卵を産むのね!」
「ネズミは卵では増えないでしょ」
思わず私は笑いながらツッコミを入れた。
「そこで赤ちゃんを育てるのは同じさ。だから図書館に猫が居るのはおかしくなんか無いさ。なあ」
図書館の奴は猫に同意を求めるように顔を覗き込みながら語りかけた。
猫は頷いたのか何なのかただ「ニャー」とだけ哭いた。
「普段の餌はその干し肉で構いません。ネズミを捕えた猫は何故か見せびらかしに来るんだ。その時用にお高い餌も欲しいね」
「ちょっと用意してきます」
館長さんが肉屋の屋台に駆け込んだ。
「爪を研ぐのに板切れと、おトイレ用に砂が入る浅い器も欲しいね」
「買ってくるわね、マリアさん図書館お願いね」
図書館の入れ知恵で次々決済されていく。
「さて司書くん、この子にきちんと名前をあげてやってくれるかい?」
「まあ!私がなの!」
マリアさんはきょとんとした顔をした。
「それはそうさ。司書くんに一番懐いているからね」
「リブロス!強敵よ!お前の名は今日からリブロスよ!」
リブロスというのは別の言葉で書籍という意味だ。マリアさんはそれを知って付けたのだろうか。
「図書館猫のリブロス。素敵な名前だね。躾は私が担当するよ。他にもお仲間さん集まると良いね」
猫、いやリブロスはやっぱりニャーとだけ答えた。言ってる事が分かるのだろうか。それとも図書館の奴が猫とコミュニケーションを取る手段が有るのだろうか。
買い出しから帰ってきた館長さんと副館長さんはニコニコしながら新しい仲間を迎えたが、マリアさんだけは少し違うようだ。
「良いわねリブロス!二度と私の朝ごはんを狙っちゃダメよ!やった暁にはコテンパンにしてくれよう!」
真顔で言い聞かせていた。そう言えばこの人食欲凄いんだったな。
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