第54話 図書館の奴がアグレッシブ過ぎる件
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本源的に私がやりたい事はお子様からお年寄りまで楽しく過ごせるエンターテイメント施設である。
何故か今のところ保育園みたいなのと入浴施設だけが繁盛している状態だ。まだまだエンタメを楽しめる余裕なんか民には無さそうだ。
まあそれもこれも仕方がない。だけど新しい顧客開拓の道が何も無いという訳でも無いのだ。
「今度ダンジョンになった図書館ときみのダンジョンとで夜間学校をやってはどうだろう」
ダンジョンコアルームでお茶会をしていた図書館の奴が私に提案してきた。
「夜間学校?」
とりあえず周囲を見渡してみる。
ダンジョンポイントが貯まるようになってきた為、ダンジョンコアルームは私が産まれ落ちた時とは違い、白い壁にお気に入りの某放射状8本の赤白紺の旗が掲げられ、観葉植物の鉢植えにビクトリア調のお洒落な家具が置いてある。一番先に出した姿見も違和感無く置けるようになっている。
「夜間学校か……」
私だって夜間学校位は知っている。大人向けのお仕事が無い人間向けの夜間に行われる授業の事だ。
「そうさ。多分大々的に募集しても3人くらい来れば良い方かなとは思うけどね」
「3人?」
わざわざやる意義と意味を見出だせない。
「3人くらいかよ」
落胆した。物凄く良いアイディアを持って来たのかと思いきやヒトすら集まらないヘボい話を言い始めたのだ。
「仕方ないよ。今まで文字も数字も知らない人々なんだ。今さら感もプライドも有るだろうからね」
「そんな事なんで言い出したんだよ」
「フフ。根気と長期的展望の為さ。人間の気を変えるのも長い目で行かないとね」
その長い目は我々魔族にとって大した話ではない。てんでどこかの歌ではないが、十年なんか夢のよう百年なんか夢また夢。千年なんか一瞬の光の矢だ。
そう考えれば長い目なんてのも考えるに値しない。
「別に嫌とは言わないけどさ」
図書館の奴は私に向き直りながら聞いてきた。
「不満そうだね」
すかさず答えてやった。
「ああ不満だね。多分始めた当初なら間違いなくポイント赤字運営なんだぞ」
「そうかぁ。追々大きな影響を及ぼす筈なのになぁ」
残念そうに、そして私の心を揺さぶるように図書館の奴が話しかける。
「あ。お茶入れ直すね」
話題の切っ先を変えようとしても、図書館の奴は回り込む。
「ああ、ありがとう。でも別段新しい施設なんか要らないよ」
「そうなのか?」
「ああ。きみはせいぜい夜食程度の物を用意するだけさ」
そんな事はお安いご用だ。子供達に出してる程度の物なら多少はね。
「ダンジョンくんはこの地域の住民がどう過ごしているか知ってるよね?」
「ああ。日が昇ったら起きて働き始め、日暮れには寝るのだろ?」
「そうそう。それは蝋燭を買うお金を使うより何かの為に貯めて置きたいからなんだ」
「ふーん」
割と興味の無い話だ。いざというとき。そんなもの国境の向こうから賊紛いの軍隊が来るとか、地震雷火事オヤジとか。そんなものに決まっている。
「興味無さそうだね?しかし夜は大人の時間として、ちょいと一杯いきたいものじゃないか。ダンジョンくんがそれを手助けするのさ。みんなと簡単な勉強後にちょいと一杯。楽しくなるよ」
実のところ、私はまだお酒というモノに魅力を感じていない。産まれて間もない私は、機会は有るのにお酒を口にする気にならなかったのだ。
「まあ良いさ。必要なのは教室風な講堂と灯りと?」
「メモ帳位なものとペンだけで良いよ。乗り気になってくれるのかい?」
「案外その終わりに一杯目当ての大人が集まるかも知れないからな」
何故か図書館に言われたら、反論するより受け入れたい。そんな気持ちになるものだ。
私からしぶしぶ用意したダンジョン内の街灯と夜目の効く御者を出して後は図書館の奴に丸投げした。
約3ヶ月後、それはまさかの大反響講座となっていた。
読み書きではまず先に本人の名前を教え、例えば物売りには品物やお金の名前、大工には鑿や鋸といった道具、木や材質の名前を教え、終わった後のささやかな宴席ではお互いの職場での需要や提案が活発に行われ、新しい提供が発生し出したのだ。
わいわい言いながらエール片手に仕事や作業内容を共有し合い意見を交わす大人の人々を見ながら図書館の奴が追加の話を始める。
「ここの領主さんの街はお年寄りが多いんだ。そこでどうだろう。お年寄りの溜まり場として日帰りの介護施設『デイサービス』を始めてみるのはどうだい?きっとお年寄りは暇をもて余してやって来るよ」
何故か人間を集める事に対して私より張り切るのは何故なのだろう。図書館は多分私が根負けするまで説得をし続けるだろう。
「分かった。何が必要なんだ?」
「フフ。物分かりが早くて助かるね」
図書館の奴は私のダンジョンのためにはなる。やってやろうじゃないか。
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