第53話 流血の図書贈呈式典
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その日図書館は大いに盛り上がっていた。図書館の奴が計4万冊の書籍をチョイスし、本日それの贈呈式が行われるからだ。
図書館は花輪の他に、楽隊による演奏まで行われ、近頃増えた子供連れの母親達も参列しての盛大な式典となっている。
図書館の奴は相変わらずの魔女の帽子にやぼったい色合いのローブ姿で、式典に臨みやがった。全く図書館らしからぬと言うべきか、図書館らしいと言うべきか。
その姿を見た領主さんはニッコリしながら図書館に声をかけた。
「やあセレクトさん。歓迎しますよ。ささ、ダンジョンさんも是非前にどうぞ」
実のところ本のチョイスに私は一切関わっていない。図書館に言わせるとこの世界の技術に合った物を選ぶのは微に入り細に入る知識が必要なようで、私が付け入る隙もなかったからだ。
そしてやぼったい色合いのローブを着た図書館の奴を歓迎する領主さん。全くもってTPOとかがユルい人だ。
私達の背後には沢山の本が並べられ、領主さんとご家族、そして私達はにこやかに、この地の瓦版のような集団『リブラ新報』の取材に答えている。
さて、気になる事がある。いや、私はどうでも良いのだがな！
図書館の奴の隣に座った領主さんが、何故かチラチラと図書館の胸元に目をやるのだ。しかも目線やり方がいちいちエロい！
なんだろうちょっとムッとしてしまう。私にはあんな感じの目を向ける事は無いのに。おのれ図書館！齢500歳以上のババアのクセに本来胴体蜘蛛のクセに！
とか何故か嫉妬の感情にうねっていた。
「これほどの本を寄贈してくれた森の学士先生ことセレクトさん、そのパトロンのダンジョンさんには感謝の念にたえませんね」
などと言葉巧みに私達を褒めそやしているが、たまに図書館の奴にエロい視線を送っているのは感じている。
胸か？そんなにその脂肪の塊が好きなものなのか？くそ！普通サイズな自分が悔しい。
私は何を考えているんだろう。ここは式典だ。式典に集中しなくては。
「この領内にはまだ錬金術師はいないだろ？だから錬金術の手解き書は多めにしておいたよ。将来魔石を使って素敵な魔道具を作ったり薬草からポーションを作る人が増えたら良いよね。薬師さんにも是非ここに来て知識を取り入れて欲しいよね」
図書館の奴がにこやかに書籍の紹介なんかしている。
いや、別に誰も私を蔑ろにしているわけではない。今回の図書贈呈は私にとってダンジョンの拡大に貢献してるし、今後魔法というかダンジョンの力で新しい施設や備品を拡充するという期待も高いため、私にもリブラ新報の注目は集まっている。
だけどなんだろう。
領主さんの図書館の奴に対する持ち上げぶりが口惜しい。もちろん領主さんが振ってくれるから私も今後への脚光があるわけなのだが。
そこに司書のマリアさんがツカツカと歩み寄る。領主さんの前に立ちはだかったマリアさんがおもいっきり領主さんの頬をブッ叩いた。
「オットーさっきから何処見てんのよ！」
そのビンタの音は会場中に轟いた。
「うわ！司書くん！」
「司書さんなんて事を」
思わず図書館の奴と私が声を上げた。
しかしマリアさんの怒気は治まらない。
「全く頭の中真っピンクなんだから！」
既に領主さんに馬乗りになり両手でビンタを繰り返している。
この騒動に何故かリブラ新報どころか集まっている聴衆もそんなに強い反応はしていない「あー。また始まった」とか「マリアさんは領主様に目敏いよな」とか言っているのが聞こえる位だ。要するにもう見慣れた光景なのだろう。
「あの、あの」
やっと私が声をかけたところ、司書のマリアさんはビンタを止めてこっちを見て叫んだ。
「全く、オットーったら美人さんを見たらすぐこのザマなのよ！何か言ってやってちょうだい！」
その言いように図書館の奴が応じた。
「まあまあ司書くん。男の人は女性を見たらそうなるものさ。これは仕方ない仕方ない。まあ、私なぞが美人さんの枠に入っているのは嬉しい話ではあるけどね」
図書館の奴は苦笑いを浮かべながら制止した。
「これはまたご冗談を！セレクト先生もダンジョンさんも大変な美人さんだわ！ご自覚なさってくださいな！」
マリアさんが馬乗りをやめて立ち上がり、私達に向き直りながら答えた。
その意見に何故か盛大な拍手が沸いた。
「いやぁ、この拍手は照れるなぁ」
図書館の奴は鷹揚に答えるばかりだ。
私は思わず倒れたままの領主さんに寄り、助け起こした。ビンタがたまに鼻面まで当たったのか、盛大に鼻血をだしている。
「まあ、領主さん大丈夫ですか？」
起こされた領主さんが鼻血を流しながら答える。
「いつも通りだよアハハ」
近習に居たメイド長さんが床に飛び散った鼻血を拭いている。いやお前が助け起こさんかい!?とか思ったが、いつも通りがコレだなんて領主さんも大変だなあと思わされるばかりだ。
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