第44話 律儀な魔族
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翌朝、檻車に入れられたバカな強盗どもを引っ立てに領主さんの家に向かった。朝は早かったのだが、領主さんは朝が早い割に忙しくない事は知っていた。
まあ、たまにマリアさんと言う乳姉弟に襲撃されてなければの話ではあるが。
暇なら強盗の生き残りの処遇に丁寧に対処してくれるだろう。反面マリアさんの襲撃に遭っていれば、私が伺う事は助けになるだろう。
それにしてもフランクな領主さんだ。アポイントを入れなくても誰にでも面会に応じ、割と誰でも敷地への出入りが自由。警備の心配なんか要らないのだろう。
あの領主さん、見た目以上に強いからな。
領主さんのお館前には門番は居るものの、私は何の誰何も無く通る事が出来た。檻車も、その中の縛られた強盗もお構い無しだ。
警備ザル過ぎるなとも思ったが、恐らくこの門番もなかなかの手練れだし、それに武勇自慢はあの領主さんなら両手を上げながら歓迎するだろう。
なるほどザルで良い訳か。
領主さんはその日、卍固めをキメられた状態でお会い出来た。
卍固めをキメているのは勿論領主さんの幼馴染みで乳姉弟のマリアさんだ。
「さあ言いなさいよ!『元気が有れば何でも出来る』と!」
「イテテテテマリア止めてー」
「まあ領主さん!これは何の事態なので?」
私から思わず声をかけた。あまりにも見て居られなくなったからだ。
急に声を掛けられて驚いたのか、マリアさんの卍固めが弛む。やっとの思いで抜け出した領主さんが答えた。
「はは。朝のお楽しみ会と言ったところかな」
この自分の答えに自嘲とも苦笑いともつかない笑顔を見せて答えた。
「お楽しみ会じゃないわよ!男らしくする儀式よ!」
マリアさんはそう叫ぶように答えると思いっきりビンタを喰らわした。
「闘魂注入!!」
これに領主さんは壁面まで吹き飛び、左の頬を押さえて目に涙を溜めていた。
「酷い!」
思わず私が出した言葉をマリアさんは聞き逃さなかった。マリアさんはツカツカと私の傍らに寄り、まじまじと私を見た。
「ふん!近頃オットーの鼻の下が伸びすぎて踏んづけるような女性が増えたわね!」
ちょっと何を言っているのか分からなかった。
「オットー!この方に相応しくなるにはもっと闘魂を注入しなきゃだわ!」
とか言いながらかまそうとした手を思わず掴んで止めた。
「どうかそのくらいに」
「ほう?私の手を止めるか!オットー!今日はこのくらいにしておいてやるわ!」
やっとマリアさんが領主さんの胸ぐらを締め上げている片手の力を抜いた。
「はははそうかい。これは助かっちゃったな。ところでダンジョンさん。何か用なら皆で朝食にしながら聞こうか?」
私の急な訪問にも、マリアさんの朝駆けにも怒る事の無い、ヒトが出来すぎた領主さん。何とも言えない方だ。
領主さんの朝食は意外にも家族が全員揃うばかりか4人のメイドに執事さん。更には門番のゴンザさんまでが同席して食事にする。この食事風景は珍しいと言わざるを得ない。なにせ貴族たるものが下僕たる使用人と食事を同席なのだ。
家族との食事も領主さんは大変そうだ。
「若旦那様~、ほらわたしの膝なら開いてますよぉ~」
「あらまあオットー、メイド長と蜜月なのね」
「えー。ダメだよ。お兄ちゃんにはフリコくんを膝の上に座らせてそのまま……グフフだよ」
「オットー様、今朝も素敵な朝食ですわね」
領主さんは何故か人気者だ。一人ばかり変な方向だが人気者だ。
「おかわり!」
とりあえずリーダー格は懸賞首なので一度領主さんに引き渡し、懸賞金を後程届けてくれるそうだ。お金は要らないとは言ったが「カネは有っても困るもんじゃないさ」と、笑って答えた。いっそ自分の物にしちゃえば良いのに。
「おかわり!」
小物3名は領主引き渡しで処刑にするか私の預かりになった。どうも盗賊についてはほぼ処刑確定なお国柄なようで、しかも私はイービルアイの映した映像まで証拠として手元に有るのだから確定になったのだ。
「では私の元で奴隷扱いで」
「おかわり!」
「ああ。それならそれで。しかしまあ、その許認可を取りに来たのかい?何とも律儀な事だね」
だそうだ。律儀なつもりは何一つ無い。
「律儀な訳ではありません。この領内に住むに当たり、この地の法令の遵守に徹しているだけです」
「おかわり!」
「そうかぁ?だってとぼけていればあの強盗達をどうとでも出来ただろう?いや、領民も俺達すらもだ」
「私は全てを敵に回すより、全てと仲良く有りたいのです」
「まあこの一家はダンジョンさんに一目置いた人は多い。遊びに来てやってくれ。今日みたいに」
「おかわり!」
領主さんはこちらににこやかな笑顔を向けて答えた。闘魂注入された後の平手打ちの痕が痛々しいが。
「おかわり!」
このような中マリアさんは朝ごはんを物凄い勢いで食べている。
恵体とは思うがそこまで太ってもいない身体の何処にあんな大量のご飯が入っているのだろう?
「よし!1日の始まりは力強い朝ごはんだわ!じゃあ私はお仕事に行ってくるわね!」
「ああ、行ってらっしゃい」
「マリアおねえさま がんばってください」
領主さんと弟のフリコさんが見送る。他の家族や使用人さん達も立って見送る。何故か領主さんに手酷いあの女性マリアさんは領主館では人気者なようだ。
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