第43話 ナイトドレスの門番(本人)
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夜中にダンジョンへの入場者が有った。
ダンジョンマスターである私はダンジョンに居る限り睡眠も食欲も発生しない。だから夜中でも経営や教育にまつわる書籍を読み、明日成すべき事をまとめあげる時間にしている。
そんな中、入場ゲートに設置したイービルアイが反応して映像を投射してきた事に気が付かない訳が無い。
おや、こんな時間にお客さんとは珍しい。歓迎してやらねばなるまいさな。
物騒にも錆びた剣を振りかざし、身体のサイズに合わない皮鎧を着込み、インナーがズタボロ。それでいてやけに力強い身体付きの無精髭。なるほど押し込み強盗の類いだ。
しかしコイツら、今まで領内の隅々まで調べても居なかったな。住民の職業種別の中にも盗賊だの強盗だのの類いは無かった。何処から来たのやら。
まあ。せっかくのお客様だ。出迎えてみようではないか。
私は少しばかり浮かれていた。なにせ自分にはせっかく人並み以上には優れた剣術の技能が有るのに、今までそれを使っていなかったのだから。あまつさえ攻撃魔法も人間に向けて放った事が無い。領主さんの領民では無さそうな挙げ句、鎧の姿から完全に亡命者でもない。これが手向かいをして斬って捨てても誰も悲しまない訳だ。
私は元々夜だからと着ていたナイトドレスもそのままに、剣を佩いて立ち上がって思わず本音をぶちまけた。
「フフフ、死んだらいくらのダンジョンポイントになるのかな」
相手を見定めなくてはなるまい。まずは魔族独特の特徴である角を魔法で隠した。相手も帯剣しているのだ。私が剣を握らない理由にはならないな。面倒でも誰何から始めなくてはならないだろう。
あれこれ思いながらお客様の前に出た。相手はわずか8名。それぞれ度胸は一流技能は三流といったところか。
その8人がダンジョン内部で仕留められる所まで入り込んだ所で声をかけた。
「おやお客人物騒な物をぶら下げてどちらに?」
声をかけられた事には驚いたようだが、その相手が私だと気付くとソイツらはゴブリン程ではないが下碑た笑みを浮かべて答えた。
「そこそこ上玉な森の学者を襲いに来たが門番は相当上玉だ」
「お誂え向きに寝間着姿ときましたぜ」
「へっへっへ。コイツも弄んで奴隷商に流しちまおうぜ」
はい。下衆確定。敵である。後はコレが何処から来たかだな。
「はは。何処で上玉な森の学者の話を聞いた?」
すんなり白状してくれた。
「侯爵領でも有名さ。顔に怪我させるなよ。売値が下がる」
ここで戦闘モードに入ったようだ。袈裟斬りに振りかざした剣を最小限の動きで躱してカウンターとして鼻面に剣の柄をぶち当てた。
正直魔族に向かうにコイツらはあまりにも弱い。まるでスローモーションにも見える。領主さんのあの日の長柄の大斧の一撃は切っ先なんか見えなかったのに。
これは私にとっては生死の問題なんかではない。一方的な殺戮の合間にかすり傷の一つも負うか負わないかの問題だ。
ソイツの背後からこん棒で生け捕りにしようと振りかざして来た次の奴を一刀両断にした。おや。威力が強すぎたか。
さすがに人間の身体真っ二つの解体ショーを実演したのだ。強盗達は一気に意気消沈したのが手に取るように分かった。しかしこれはケンカでも何でもない。私に言わせれば正当防衛と言う名の殺戮劇だ。
「戦意喪失。だがどうした?森の学者を手籠めにしに来たんじゃ無かったのか?」
悲鳴を上げながら逃げようとする強盗達に、ダンジョン入り口手前に瞬間移動して立ち塞がった。その時普段より大きな角に人間には無い形相まてして見せてやった。
「ひぃ!化け物!」
これにより強盗達は戦意喪失よりもパニック状態が高くなる。ステータス画面が有るなら『状態:狂乱』とか『恐慌』とか出てくるところだろう。
私の赤紫の肌に黄色い魔法紋、真っ黒で巨大な角に恐れを為した強盗はもはや足腰も立たない。その場で2人ほど降り落として絶命させ、リーダー格とおぼしき奴は捕縛の魔法で拘束した。
ここで強盗の一人が遂にチビり出した。情けない程に怯えたソイツの下半身は有る意味ホカホカだ。
「寄るな悪魔め!」
やっと出てきた言葉がコレだ。
「なんだ。弄んでから奴隷商に売るんじゃ無かったのか?」
そう聞いた後、言葉を発したソイツの心臓を一突きにしてやった。
これで分かった。一人頭3000ダンジョンポイントか。だがコイツらからこれ以上のポイントは手にはいらない。手っ取り早いが面白味には欠けるかな。
そしてお生憎様、ソイツは私の問いには永久に答えられない。
まだ剣を交えていない三人が一斉に逃げ出そうとした所を鈍化の魔法で逃げ足を遅くし、悠然と歩きながら魅了の魔法をかけて抵抗力を奪った。仕留めても面白くなんかない。せっかく転がり込んだ献体だ。精々好き放題利用してやろう。
だが、私は前以て思っている通り法令の遵守は必要不可欠と考えている。ダンジョンカタログから鉄の檻車を取り出し、これに強盗の生き残りをぶちこんだ。明日領主さんに報告を入れに行こう。
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