42話 馬車停留所
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ダンジョンには来場者が結構やって来るようになりだした。多くの住民が図書館の奴から『衛生』と『養生』こそが長生きの秘訣だと聞かされたあちこちの領民が入浴施設を利用しに来るようになったからだ。
結構な年寄りで、もう後は看取られるだけな老人達が多いかも知れないが、この街の領民達は孫曾孫年齢の子供を養わなくてはならないのだ。
せめてその子供達が成人するまでは何とか面倒をみてあげたいと、長生きには藁をも縋る思いだろう。
続いての人気施設は病院だ。魔族は金銭を必要とはしていないが『ただより高い物は無い』という人間の心理を緩和するために、少ない銅貨をいただく事にした。
この銅貨は全て街に還元する。お酒や食糧を買うとか道をきれいに舗装する職工への支払いだ。
ダンジョンが人気になるに連れ、呼ばれて馬車を出すとかするよりも、決まったルートを慢性的に馬車を走らせ来場者を拾った方が手っ取り早いとなってきた。
停まる所には馬車の停留所を設置し、そこで待っていれば馬車が来る。それに乗って行けば良い訳だ。
馬車は別段ダンジョンでのみ降りる事にはしていない。降りたい人は降りる旨をボタンを押して報せる方式を取るか、降りたいと御者に声をかける。
停留所に名前を付けて路線図を掲示すればだんだんと浸透するだろう。
ちなみに開拓地付近などの停留所にはこじゃれた小屋と中にベンチも置き、待たせている間、またはフリーに使えるようにした。
一斉に小屋を用意したかったのだが、生憎外注する為の金銭の持ち合わせは無かった。徐々に発注するしか無いだろう。
停留所の設置に一回だけ図書館の奴が私に頼み事をしてきた。図書館の前に停留所を用意してくれと言うのだ。それを嫌がる理由は無いし、むしろそれを行うのは大歓迎だ。なにせ停留所に名付けをするに当たり、地域の目立つポイントを名前に入れたいからな。
その停留所の名前は『図書館前』で決まりだろう。やりやすいやりやすい。
今まで無軌道に送り迎えをしていた馬車から、停留所に集合して貰い軌道を用意するのには告知も必要になる。その告知には少々手間取った。何故なら相変わらず多くの大人が文字を読めないからだ。また文字が読める人が仮に居たとしても駅馬車という方式に理解が及ばないのだ。
結局のところ必要なのは子供達の柔軟性だった。
病院や入浴施設に用が有るお年寄りの多くはその日預かり保育を休んでお年寄りの手を引きながら停留所で待つ。すると20分おきに到着する馬車に乗り込めるのだ。そのOJTを文字通りやって見せてくれているのだ。
私としては自分が手をかけなくても済むだけありがたいものだ。
更に馬車運行のダイヤを設定し、大まかな到着時間を書いた札も用意したが、これは全く無駄だった。何故なら多くの人間は時計などは持っておらず、腹時計でしか行動していなかったからだ。
つまり一時間とか5分とか。知識としては知っているが、それを正確に図る道具なんか無かったからなのだ。
それでも書いておくのは私の意地なんかではない。いつか時を正確に刻む道具が現れると信じていられるからだ。
人間の進化に関する足取りは遅い。もしかしたらここに来る子供達の孫曾孫の時代が来ても、時を刻む道具は作られないかも知れない。しかし私は魔族なのだ。それを長い生涯の合間に待つ事なら出来る。
それに駅馬車の小屋から始まるドラマもやがて有るかも知れないじゃないか。
ここから始まる恋物語や友愛の物語にも期待しよう。
今日も外注の業者が『鷺の集まる沼前』停留所に小屋を作りに行くのだと言う。
そのような名前を付けた停留所に何人かの子供が帰り道に降り立ち、鷺の観察をレポートとして提出してきた。
「ああ、停留所を設けて本当に良かったなぁ」
思わず出た私の独り言に提出してきた子供も同意した。
「ホントだよね。あんな沼が有る事も知らなかった」
「もっとあちこち見に行きたい!」
私は思わず微笑みながら答えた。
「馬車は無料で運行してるわ。好きなだけ使ってちょうだい。いろんな素敵な物が見付かるかも知れないわね」
私から思わず提案した。
馬車により地域と子供達の世界が広がる。なんと素晴らしい事か。
例えそれで1日2日子供が来ないからといってどうと言う事は無い。今なら病院の階層に1000人程の捕虜が健康状態を精査してから振り分けるのに待機しているし、その病院と各施設にお年寄りやら街の人間が詰めかけている。
もう子供達だけが私のダンジョンポイントではないのだ。
ちょっとだけ狙いとは違う気はする。しかし病院にかかり安堵する感情、入浴して得る爽快感、学んで得た関心。それらの感情もまた大事なポイントになるのだ。
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