第40話 一様ではない
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ダンジョンに集うお預かりしている子供たちは、それぞれ自分が好きな事を好きなように学んだり遊んだりしている。
アトラクションの遊具で遊んでくれるのも良し。家政精霊に縫い物や刺繍、洗濯を教わるのも良し。魔法使いのお姉さんと魔法の基礎、歌やダンスをするも良し、アスレチックやアトラクションで遊ぶも良し。保育士に交ざって小さい子供の面倒を見るのも良し。学者風の爺さんの所で読み書き計算を教わるも良し。
たまには私や図書館なども加わり色々教えているし、先日用意した魔法学校も誰が授業を受けても構わない。
この自由な環境で子供たちはのびのびと欲しい技能なり体力なりを付けて行く。しかし私の中では微妙に不安に思う事がある。いや、膂力を付けた子供たちが私という魔族に襲いかかるとかではない。
ダンジョンそのものの運営手段の柱が、子供たちに与える学問・教育。そしてお風呂などの衛生関連になっている為、私が図書館から渡される書籍も教育関連の物が多いのだ。その中の一冊に書いていることがどうみても今の自由に好きな事をしている事と結び付かないのだ。
「なあ図書館、ここに年齢別に学ぶべき物事が書かれているんだけど」
「ああ、指導要綱の事を言ってるんだね?」
「そそ。それ。今のままだと例えばキリルくんなんかいつも剣術道場に居るばかりだろ?あの子読み書きなんか出来てないじゃないか。これ方向性を変えさせる必要がないか?」
剣術道場では素振りをしながら汗をかくキリルくんが居るのが分かる。
「必要ならその内教わりに来るさ。気にしない気にしない」
図書館からの答えは鷹揚だ。何故かそれが自信満々にすら見える。
「指導要綱の項目は読まなくても良いよ。それはここが目指す所にはなり得ないから」
必要無いから破り捨てて良いよとは言わないあたり、さすがになるほど本の虫たる図書館魔族っぽい。
しかし、そんな物なのかなぁと思いながら、思わずそのキリルくんのもとに向かい、声をかけてみた。
「精が出るわね。剣術ばかり磨いて何を目指すのかしら?」
「あの子達を守るには強くなくてはダメだ!」
この子もそうだ。誰かへの復讐とかではない。ただ自分に残された地域と隣人を守りたい、その一心で剣術を磨きたいのだ。私は「そう」とだけ答える事しか出来なかった。
しかし、そんなキリルくんを学問所に呼び込む刺客はすぐに現れた。それはまるで徐々に浸透する薬物のようにキリルくんのもとにやって来た。
その日多少年齢が近いキリルくんの妹分がキリルくんに聞いてきたのだ。
「キリルお兄ちゃん、これなんて読むの?」
妹分が読んでいたのは何かの戦術書だったようで『兵站』という文字だった。こんなものをアルファベットすら学んでいないキリルくんが読める訳がない。
「あはは。オレも分かんないや」
ここは剛毅に笑って見せるしか無いだろう。しかし、妹分はえらく複雑な本を読める事が分かったという事実の方が大事なのだろう。
数日後、今度は妹分の更に小さい子供がキリルくんのもとに絵本を持ってきたのが決定打となった。妹分の更に小さい子供はテトテト歩く小さな子供だ。それが言うのだ。
「えほんよんで」
キリルくんは困り果てた。
「あそこのせんせーに読んで貰いな」
キリルくんはとりあえずそばに居た保育士さんを指した。
「やーの。おにいちゃんに よんで ほしいの」
保育士さんに読んで貰うのとお気に入りのお兄ちゃんに読んで貰うのは違いなんか歴然なのだ。それは薄々キリルくんも気が付いたらしいが、そこはアルファベットすらわからないキリルくんの事だ。絵本なぞ読める訳がない。
「よよよ……読むのは出来るがその絵本はお前にはまだ早いぞ!?だからおおおお兄ちゃんがタイミングを見て読んでやるからな!」
キリルくんは何とかごまかした。
しかしその先延ばしは自らを追い詰める事にもなるだろう。
その翌日からキリルくんのダンジョン内での行動が変わった。
「やあキリルくん、今日は何を学びたいのかな?」
「本が読めるようになりたいとね」
「そうかい。では基礎から教えてあげるね」
キリルくんの相手をしたのは図書館の奴だった。図書館は何故か用意されている個室でマンツーマンで文字を教え始めた。
『男の子のメンツ、ちゃんと守ってあげたいからね』
図書館が念話の魔法で私に理由を説明した。
『ここまで読んでいたのか?』
思わず念話で聞いてみた。
『いいや。もっと後々に読み書きを教えてくれと言うと思ってたよ。この子が冒険者か騎士になりたいと言い出す頃かなとね』
確かにどちらにせよ文書が読めないとまともには稼げないだろう。騎士に至っては文字が書けないなんて論外だ。
後々だと覚えるのも大変になるだろうに。これは何人か大人の人間に物を教える時に顕著に現れる。今まで知らなくても何とかなっていたのだ。ちょっと教わる事に斜に構える者、理解力が鈍化している者、もう頭の中にぎっしり経験が詰まって居るもの。
大人の人間は難しい。
図書館は丁寧に教えている。
「大丈夫。必要な時に間違わない為に今が有るんだ。間違うことなんか恐れなくて良いさ」
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