第39話 その頃の図書館
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領主さんに会う気になれなかった図書館は、街の図書館に行っていたのだそうだ。
街のゴミあさりとか、それをリアカーに乗せて運ぶなど、図書館の行動は私よりはるかに目立つ筈なのに領主さんに見付からず、領主さんに会っていない。
それは恐らく領主さんとその関係者に対してのみ認識阻害の魔法をかけているからだろう。
どうして領主さんに会いたくないのかはあとで聞くとして、図書館が何をしていたのかは興味深い。
彼女は図書館で仲良くなったマリアという領主さんの乳兄妹とすっかり仲良くなり、図書館を利用しやすくするために色々していた。
図書館そのものはまだ大量の蔵書を置ける余裕の有るスペースをしているし、ましてや領主さんのお城よりも広いスペースを確保している。
「やあ、副館長くんは『春の野草まるごと美味しいレシピ集』を紹介かぁ。いいね!でもこれは季節ごとに差し替えておくと良いよね。お!マリアくんは『マチウス劇作短編集』かぁ。マチウスはこの大陸一の劇作家だからね。その読破の取っ掛かりとしては素晴らしいチョイスだよね」
図書館を歩きながら館員のお勧め本の紹介ポップを見て回る。
話を聞いているのは眼鏡で白髪交じりな髪を持った女性で、副館長さんだ。
「領主様には良い司書補を紹介いただきました。マリアさんは良い司書になりますよ」
副館長さんはにこやかに話す。
「ホントだよね。実に良い司書さんだ」
ここで図書館が一冊の本を手に取り、テーブル付きの座席に座った。以前の図書館にはこれらも置いていなかった。
司書のマリアの提案で置く事に決定した『調べ物スペース』だ。光を取り入れる為に窓を大きく取り、更に窓を左手に見るように座席を置いてある。これは書き物をする手により影が出来ないようにするアイデアだ。
「ホント、見事だよ。理屈を知って真似るのは簡単だ。しかしその最適解にたどり着くまでの道のりの遠さだよね」
副館長も付近の座席に着きながら「そうですねぇ」と答える。
図書館が手に取っているのはオットー・リブラほら大全の一冊だ。領主さんの側近中の側近であるマリアさんは、領主さんのつくほら話を間近で聞いてきた人物であり、それを記述するのに司書という仕事はまた打ってつけだ。それはマリアによる書写だ。
「ところでここの領主くんは面白い物を残しているよね。どのほら話もなかなか面白いよ」
「そうですねぇ。あら。この話なんか教材になりそうですよ」
「これなんか駄洒落だね。駄洒落って知性だよ。ホント面白いね。全部写して蔵書にしよう」
和やかな雰囲気のもとにドカドカと足音を立ててやって来る人がいる。司書補のマリアだ。
「まあ学者先生!こんにちは!ところでいつ利用者が増えるのかしら!?」
マリアは森の学者に『そそのかされて』図書館の本をジャンル別に並べ直して分かりやすい図書館を作った張本人だ。期待と不安は入り交じるだろう。
「やあ司書くん。別に利用者が増えなくても困りはしないだろうけどね」
複写魔法でまるまる一冊写し終えた図書館が立ち上がりながら答える。
「やっぱり成果が上がる方が良いよね。では仕掛けて行こうか」
図書館の所作は実に優雅だ。
図書館は児童図書室に入り、絵本を一冊手に取りマリアに手渡した。
「図書館の前でこれを読み聞かせしてみようか」
マリアはしげしげと絵本を眺めてから言った。
「なるほど!やってみるわ!」
マリアという司書さんは思い切りが良い性格なようだ。絵本を片手に駆け出して行った。
「実に良い司書くんだね」
「あの子はいつも元気いっぱいですもので。こちらも見てるだけで元気になれますよ」
副館長さんはにこやかだ。
しばらくして図書館の前には小さな子供たちとその保護者からなる輪が出来ている。子供達はもう一回読んでとマリアにせがみ、マリアもそれに答える。
「やあ、司書くんは読み聞かせの達人だね」
森の学者先生こと図書館は感心して呟く。
本の文字をおさえてどこを読んでいるのか分かるようにし、身振り手振りで臨場感を高め、抑揚を変えて歓心を誘い、更には会話文では声まで変えて台詞を読み分けている。
「やあ皆さん。絵本は面白いかな?中にはもっと沢山の絵本が有るよ。字が読めなくても大丈夫。このお姉さんが読んでくれるし、私も読んであげるよ。ささ。中へどうぞ」
図書館がそう言うと子供たちが中へと駆け出した。大人たちの中には『立入禁止だと思っていた』『こんな服で平気なのかしら』『学者や賢人の施設だとばかり思っていた』『こんなに敷居の低い場所だったのか』
とか言いながら入っていく。
「やあ、司書くんがお待ちかねの大人気な図書館だ。張り切ろうか」
「学者先生もお手伝いくださいな!」
「もちろん。副館長くんも手伝うさ」
その日以来図書館は子供たちが沢山集まるスポットになり始めた。ここから多くの人が利用する街のスポットになるまでの道のりは遠くはない。
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