第33話 領主さんの母親とメイド長
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領地には執事さんと門番のゴンザさんという男性もいるのだが、あまりにも影が薄いので熱心に見る気は無かったが、領主さんのお母さんとメイド長さんは割と領主さんと接点が多く、領主さんの心を構成し得る二人だと思い、イービルアイを今度はこの二人に向かわせた。
割と二人の仲は良好であり、いつも楽しそうにしている。
「あらメイド長、オットーの様子はどうかしら?」
「はい~。若旦那様は先程視察に出るとかで独りで出掛けました~」
こののんびり口調の女性がメイド長さんだ。頼れるのかこの人。
口調はのんびりでも奥方さんにすかさずお茶を用意している辺りはメイドなのだろうなと思わせる。
「奥方様お茶をどうぞ~」
「あらありがとう」
メイド長は厚かましくも反対側の椅子に座り、一緒にお茶と菓子を貪る。普通ならあり得ない光景には驚かされるが、この二人にとってはこれが日常のようだ。何のお咎めもない。
「孫よ」
「はぁ~」
「近頃貴族のお茶会での話題の的が孫の話なのよ」
「そのようですねぇ~」
「メイド長早く家のオットーのお妾さんになりなさいな。ワンチャンあり得るじゃないの」
「奥方様~、こんな年増を若旦那様に宛がうのもどうかと~」
「平気よ。あの子ったらメイド長大好きっ子だもの」
「そうですかねぇ~」
「思い出すわぁ、あの子ったらメイド長とお風呂に入って言ったのよ『ボクメイド長とけっこんする』って。それお母さんたる私ではなくあなたに言ったのよ」
「そんな昔話を~」
思いの外この二人もめちゃくちゃな人達だ。
いや、別段婚約者の他にお妾さんが居てもおかしくは無いとは思ってはいるが、それを多分自分より年上のメイド長をけしかける母親さんも相当めちゃくちゃだ。
そしてその話をし出してから頭に乗せたホワイトブリムをオモチャのティアラに変えたメイド長さんもメイド長さんでめちゃくちゃだ。孫という手放しで可愛がれる子供欲しさに何を話しているのやら。
と言うか何故ティアラなのだろうメイド長。関係無いが割と小ネタの引き出しが多そうな方だ。
この母親さんは元々公爵令嬢だったそうで、見た目も三十代半ばであるにも拘わらず大変美しい方だ。この母親さんを見る限り領主さんと妹のイーナさんは父親似で、末っ子のフリコさんは母親似なのだろう。
髪の色がフリコさんだけ母親さんと同じ金髪だし、ましてや顔立ちが際立っている。
会話の内容はどうあれ、見た目なら一番貴族っぽい。
メイド長さんは誰からもメイド長と呼ばれているため名前がまだ分からない。別段美しくも可愛くも無い感じだが、見ていて飽きない顔立ちとも言える。
何故かこの人も母親さんの中では妾さん候補なのだそうだ。領主さんを行き遅れ女性の溜まり場にでもしたいのだろうか。
しかし、これが意外にも領主さん的には満更でも無いらしい。別に年増好みとかそんなものではなく、いっそ顔馴染みな方が有難いと言う話みたいだ。これは領主さんがやけにこの蛍光灯みたいに反応が鈍い性格のメイド長さんに甘いところからも分かる。
そんなメイド長さんなのだが時折領主さんの傍らに居る事がある。このメイド長さんは領主さんの前ではとにかくぐうたらな方だ。いや、領主さん一家の前でもぐうたらな人か。
しかし母親さんの前に居る時よりぐうたらだ。
執務に励む領主さんの部屋の応接ソファーにだらんと座っていたメイド長さんが突如言い出したのだ。
「若旦那さま~、そこの女性週刊誌持って来てください~」
このお屋形様をだらんと座りながらこき使うメイド長に対して、領主さんはやたらと親切だ。
「これかい?」
「若旦那さま~それは先週のですぅ~」
「ああ、こっちか」
「はい~。それそれ~」
さすがに領主さんも軽く苦言を呈した。
「メイド長、少しは自分で動いてくれよ」
領主さんは苦笑いしながら言う。
何故苦笑い程度で済ますんだろう?あなたは領主さん、相手は平民なのに!
「若旦那さまはお優しいですから~」
メイド長は緩く返しただけだ。
「まあ元気で居てくれよ。風邪でも引かれたら悲しいからな」
「お陰様で元気ですよぉ~」
緩く答えたメイド長からの答えを背中で受けた領主さんは執務に戻った。
何だこれは?メイドとして糞の役にも立ってないじゃないかとも思わされたが、領主さんは済ましたものだし、メイド長はその女性週刊誌に夢中だ。私がやってあげた方が何倍も役に立ちそうだ。
このどちらが偉いのか分からない空間での緩い時間が続くのだが、しばらくしてメイド長が言い出した。
「若旦那さま~、お茶入れてくださいな~」
「おい、なんぼ何でもそりゃ本末転倒だろうが」
ちぇっ!という顔をしたメイド長さんがのそりとソファーから立ち上がり、のそのそとお茶を2人分淹れて領主さんのデスクにも置いた。
「おお?ありがとうな」
「うふふ~。ご褒美ください~」
この駄メイドは何を言ってるんだ?
しかし本来主君である領主さんが何故かご褒美になりそうなものを探しながら「何が良いのかなぁ。そりゃ困ったなぁ」とか言っている。ダメじゃん!
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