第30話 領主さんと定期面会
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領主さんがしまいには、イービルアイ越しに『定期的に会いに来ませんか?』と言い出した。
別に酷いことをされるようでも無いので、一回目の定期面会を領主さんが日取りを指定したので、会いに行く事にした。
図書館も誘ったのだが、図書館はまだまだ忙しそうだ。誘いには乗らなかった。
執務室で別段偉ぶる事もなく私を待って歓迎してくれた領主さんだが、応接テーブルの長ソファーには2人の女の子が座っている。
1人は領主さんの婚約者で弓騎兵の達人ママーナ・モンダナエ子爵令嬢。もう1人は貴族っぽさの欠片も無い領主さんの7歳年下の妹、イーナ嬢だ。この子本当に可愛らしい。
「あ。お兄ちゃん、その人なんだ」
可愛らしい顔立ちで貴族っぽさの無いイーナさんが私を指して領主さんに問いかけた。まさか中に他の人物が居るとも思わなかった私は慌てて角を消した。
「ダンジョンさん、平気だ。魔族な事と角が生えているという事は話してあるから」
「あらそうでしたか。なら遠慮は要りませんね」
私は角を隠す隠蔽を解いた。
「大変美人な方ですわね」
弓騎兵として活躍されたママーナさんは私に対して興味津々といった所だろう。
ママーナさんは初陣の後、滅多に乗れない戦闘馬を乗り回すのに夢中で、私の存在を遠くから認識した程度だったのだ。
「まあ、お世辞でも嬉しいですわ」
「角カッコいいよね。お兄ちゃん角買って」
イーナさんは初対面の私にも遠慮という物は無い。しかも角が有る私の頭を見てもこの感想だ。正直やりやすい。
「差し上げる訳には参りませんよ」
私が笑いながら答えると、ママーナさんも参戦し出した。
「カチューシャに作り物の角を付けて販売したら売れると思いますわ」
その発想がなかった私は思わず喜んだ。
「そのカチューシャの広告塔には是非お二人で」
「わーい。お姉さんとお揃いのが良いな」
「……おそろい」
イーナさんの返事は凝結の後にかろうじて出来ただけだ。角、立派になればなるほど邪魔なんだよね。寝返り打てないし重いし。それをカッコいいとか。要するにビジュアルだけで欲しいと思うイーナさんの感性には驚かされる。これはアレだな。いつか図書館が言っていた『人間は自分に無い物を欲しがる』というアレだ。叶えるのに別段吝かな話は無い。
そしてイーナさんにせよママーナさんにせよ、私という亜人に対して垣根が低い。どうしてだろう。
「お姉さんの角カッコいいもん」
イーナさんが繰り返した。
「見た目も美人さんですからね。女の子も好きになっちゃう綺麗な女の子。しかも角持ちですわ」
ママーナさんも加わる。
「本当にお世辞でも嬉しいですよ」
幼いながらも美人の片鱗が隠しきれないママーナさんに言われるのも面映ゆいものだ。なんか微妙な空気が流れる。
「で、この2人がお願いが有るそうなんだ」
変な空気を上手く斬ったのは領主さんだ。ナイスです!領主さん。
「まあ、お願いですか?どんな事でしょう」
お願いの内容はママーナさんが説明するようだ。
「申し遅れました。私領主オットー・リブラ伯爵閣下の婚約者、ママーナ・モンダナエと申しますの」
「あ!私はお兄ちゃんの妹イーナだよ。よろしくね」
「はい。お名前は存じておりました。こちらこそ申し遅れまして失礼を。私は15872番目のダンジョンマスター。名前は……」
「「ダンジョンさん!」」
「はい。ダンジョンとお呼びくださいませ。で、お願いとは」
「はい。この領主館は女の子が多いのですが、東方には女の子のお祭りが有りまして」
「ああ、ひな祭りというお祭りですね」
ママーナさんは思いの外東方かぶれな様子だ。
「はい。ところがひな祭りの人形は何処にも用意が有りません」
「そうでしょうね。異国のお祭りを祝う事も無いでしょうから」
「はい。人形が無いなら雛人形の肖像画でも用意しようと考えましたの」
「素敵ですね。でもそれを私などでどうしようと?」
ここでイーナさんが食いつくように言い出した。
「女雛になって!」
「はあ?」
「女雛の席に座るのは本当ならママーナお姉さまか私が良いけど小さすぎるの。適度に綺麗で身の丈も有るお姉さんが女雛やって!」
私は思わず領主さんの方を振り返った。
「お前たちそんな事でダンジョンさんを呼び出したのかよ?」
「ひな祭りやーるーのー!」
その声を聞きつけたメイド長さんとメイドさん達が煌びやかな十二単を持って来た。衣装も用意しているとは恐れ入る。
「オットー様が男雛、ダンジョンお姉さまは女雛、そして私たちが三人官女をやりますわ」
「十二単が用意出来て雛人形が用意出来ない?そんなものなんですか?」
「フフ、楽しんだ者勝ちというものですわ」
もとより多少の協力をすることは構わないとまで思っていたのだ。服を変えて絵画に収まる事にためらいは無い。着替えながら話をしていた。
「しかし私のような新参者が女雛ですか」
「マリアお姉さまではインパクト強すぎるし、お母さんだと禁断の恋になっちゃうよ」
子供の意見じゃ無いなぁと思いながらも肖像画制作にとりかかる。しかし三人官女は三人居なくてはいけないのにイーナさんとママーナさんしか居ない。真ん中が開いている。
「そこに誰を用意するんだ?まさかメイド長ではあるまいな」
領主さんがその疑問を切り出してくれた。
「もう来るよ」
イーナさんが軽やかに答えた。
確かに来た。まだ5歳の領主さんの弟、フリコさんという子供だ。官『女』じゃねぇ。顔立ちは確かに女の子みたいに可愛らしいけど女の子じゃねぇ!
「あ……あにうえ~」
「お前達またフリコくんにこんな事してるのか。ダメだろ」
「フリコくんは可愛いですもの」
「お兄ちゃん、フリコくんはかわいくても付いてるモノが付いてるよ。お得だね」
「何がだ!」
肖像画は困る男雛に呆れ顔の女雛、盛り上がる両端の官女に真ん中の官女は小さくなっている肖像画になった。人形には出せない味わいだが、こんなので良いのかなぁ。
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