第29話 人間とは難しい
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実のところダンジョンの利用者は徐々にふえている。なんと言ってもお昼と夕飯プレゼントで集めた子供たちの存在は大きい。その子供たちが楽しいよと勧めてくれるから、割と豊かな農民や職人が遊びに来てくれるようになっているからだ。
そのやって来た農民に熱意を込めてお話しているのが図書館だ。
蕎麦栽培の推進、割と手のかからないカボチャの栽培、さらに収穫量が多いジャガイモの栽培にも手をかけている。
ふとした時に図書館に聞いてみた。
「やあ図書館、熱心に推奨してるけど栽培したがる人は増えたかい?」
「ああ増えたとも。なんと6箇所の地域が始めてくれるそうだよ」
図書館は嬉しそうだ。
「6?やけに少ないな。熱心に話してそれだけなのか?」
「そうだよ。こんなにやってくれる気になったんだよ」
「あんなに話してそのざまなのかよ?」
私は思わず呆れて聞き返した。
「ああそうか、ダンジョンくん。君はまだまだ人間について知らなくてはならないことが沢山有るようだね」
「うん?何故だ?」
人間の事は良く理解しているつもりではいる。まるで馬鹿にされたような気がした。
「ダンジョンくんの農園を皆がみんな持っていれば何の心配も無いよ。でも多くの人間はあんなに生産性も高い畑は無いし、気候も穏やかではないんだ」
まあそうだろうな。そんな言葉を飲み込み、続く言葉を待った。
「農家とは常日頃から必死に戦っているのさ。土と戦い気候と戦い、大雨と戦い干魃と戦い、熱波とも寒波とも。そして虫害や蝗害とも戦う。農家とは武器の代わりに鍬を持ち戦う戦士なんだ」
「ほほう。それで?」
何だか変な事を聞かされている気がした。
「そんな彼らには膨大な経験と予備知識がそれなりに有るんだ。しかも道を誤れば食べる事さえ出来ない。だからこそ彼らは言い訳が欲しいのさ。例年通りにやったはずだと。そしてそれが安定と平穏に繋がる唯一の道なのさ」
「なるほどな」
「そんな農家という戦士達にとって、学者風情の言い種なんか本当ならくそ喰らえって話だよね」
「そこまでかよ」
「ああ、それほどさ」
と、図書館がゆったりした余裕の笑みを浮かべながら、領内のあちこちに送り出してるイービルアイの映す映像を眺めた。
「そんな中なんと6件もの地域で蕎麦栽培を手掛けてくれるんだ。まさに快挙だと思うよ」
「なるほどそうなのかもな」
「そうさ」
話をしていた公民館の事務室は子供たちの声も賑やかしい。
そんな外を眺めながら図書館が続ける。
「実はね、蕎麦を受け入れた地域は全てあの子供たちが熱心に話してくれたからこそなんだよ」
「あー、なるほどな。血は水よりも濃いって奴か」
「うーん、まあそうなんだけどね。それ以上に孫や子供たちのお楽しみを作ってあげたいのさ。それにね」
「それに?」
人間という生き物にはまだまだ私が分からない物事が有るようだ。
「群れの社会を変えて行くのは若者だって事さ」
「ほう。そんな物かね?」
「そうさ。変革をもたらす者は若者、余所者、馬鹿者なのさ」
「馬鹿者か。割と傑作な話じゃないか」
フフと笑いながら図書館が答えた。
「傑作だろ?馬鹿者もまた原動力なのさ」
「それは力強いな」
「そうさ。力強い」
なんだかんだ言っても一番仲良くなった相手は私にとっては図書館だ。意見をぶち当てるよりも楽しく行きたいものだ。
「しかしまあ。カタツムリが歩くかのようなのろい道程だな」
「それは仕方ない事さ」
相変わらず鷹揚に構える図書館。理由も有るようだ。
「ねえダンジョンくん。私達は何でも簡単に意見が通る異世界小説の成功者なんかじゃないんだ。そこに居るのはなかなか行いを変えない人間の群れだよ。そんなに簡単に行かない行かない」
「なるほどなフフフ。しかしまあ身も蓋も無い言い種するんだな」
「仕方がないさ。人を相手にしなくちゃいけないんだ。大変だね」
子供たちが私達を見かけて声をかけてくる。これこそが未来の『若者』達だ。
「しっかり若者を育成しないとね」
「そうだな。ちなみに何か?余所者と馬鹿者はさしずめ私達かな」
「そうだね。ダンジョンくんは特産品もないこの地を観光地にしたいと躍起になり、それに全力で応援している私。うん、馬鹿者だな」
「では馬鹿者らしく子供たちの面倒を見に行くか。楽しいからな」
リブラ伯爵領には本当に何の特産品もない。領主には金も権力も無い。
そんな所に産まれ出でた自分に不満など無い。よく『親ガチャ』失敗とか言うが、私には親など居ないのだ。ましてや親だって言いたくなるだろうよ『お前に産まれてくれとも頼んでない』って。
この地に産まれた人間なり、この地に逃れて来た流民なりを娯楽に目を向けられるほど豊かにして、自分のダンジョンに呼び込むまでだ。
この愛すべき頑固で打算的で必死な人間と共に、私は生きて行こう。
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