第23話 ノーマークだったマリアさんに接近する者
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イービルアイは街の様子や領主さんとその家族の様子を見るのに使っている。私が住む事になったこの地域を知り、ニーズに合ったダンジョンを展開することは重要だ。そのニーズの中心に有るのはこの地域の長であり法そのものである領主さんとその一族だ。
これは私が迂闊だと思わされたのだが、図書館司書にして領主さんの乳姉弟たるマリアさんにはノーマークだった。実はこの人、無茶苦茶でハチャメチャな性格をしているが、領主さんにとっては産まれてこの方の側近にして友人であり幼馴染みだったのだ。
しかしそのマリアさんに積極的に絡みに行く奴の存在すら私は見落としていた。
「やあ、キミはこの図書館の司書くんという事で良いのかな?」
マリアさんに声をかけてきたのは魔女の帽子とローブ姿の野暮ったい感じの女性だ。ローブからチラチラ見える身体の線はムッチリしていてグラマラスだ。
「ええ、そうですよ!何か本をお探しですか!」
野暮ったい女性はマリアに向き直り答えた。
「いや。人を探しているかな」
「まあ!どなたを!」
「この図書館をより使いやすくしてくれるやる気が有る人。それはそこの司書くんでも私は構わないんだ」
マリアは少しだけムッとした。
「この仕事は私の城です!生憎閑古鳥が鳴いてますけど!」
野暮ったい女性はゆったりしながら答える。
「閑古鳥は無理無いよ。誰も文字なんか読めないからね。でも程なくしたら山ほど利用者が増えるよ。その時にこのままでは大変なんだ。そしてやる気が有るのは良いね。探しているのはきっとキミだよ」
「で?より使いやすい図書館はどうするのよ!」
図書館とはいえ蔵書数が多い訳ではない。2万冊と言えば聞こえは良いが、40坪程度の敷地に本棚を置けば収まってしまう。それを何故か200坪の敷地の建物まで用意して有るのだから広々だ。
「何処の図書館も書名で並んでいるんだよね。でもこれだと『秋の星座アラカルト』と、『夏の星座アラカルト』が遠いよね」
「著者別が良いのかしら!」
「そうでもないよ『夏の星座アラカルト』と、『天文学概論』を手に取りたい時、近くの棚に有って欲しくないかな?」
「ジャンル別に並べるのね!」
「多分今私が話した書籍の位置すら覚えているとは思うんだ。利用者一人ひとりに司書くんが付けば問題無かったとは思うけど、間も無くそんな暇すらない程の利用者がやって来るんだ。だから」
「その時までにどうにかしておくのね!館長達に話してくるわ!」
マリアに野暮ったい女性も同行し、文字が読める人が増えるから。そして乗り合い馬車の整備が進んでいるから図書館利用者が増える話をしていた。
「子供達の知的好奇心を刺激して欲しいんだ」
野暮ったい女性が館長達の説得までする。学術的発展はその女性には臨むところな様子だ。
「ところでその様に図書館を変えたいあなた様の名前を聞いておりませんで」
「ああ、私かい?52開拓地そばの森に仮住まいしている旅の学者なんだ。よろしくね」
マリアははたと思い出したように手を鳴らして答えた。
「オットーが森の学者さんと会ったと言っていたわ!」
領主オットー・リブラは話すときに敢えてそれが魔族とは言い出さなかったようだ。いきなり魔族というのも負担になると思ったからだろう。大変有難い。
「ああ、その人は多分私に協力してくれてるもう一人の方だね。私は領主くんには会った事は無いんだ」
マリアはよく分からないという顔付きをしたが、やりたい事なら単純だ。
「利用しやすい図書館!早く作りましょう!」
マリアは館長達と野暮ったい女性こと旅の学者。いや、37番目の図書館魔族に作業を促し本の仕分けに入った。
「実に良いね。若き者はこうでなくっちゃ」
この世界の学問は体系付けられておらず、大きなジャンルを説明するのは大変だったそうだ。反面歴史小説、時代小説、伝奇をしっかり分けたがる所も有ったようだ。
そこを丁寧に説明し、かなりのハイペースで図書館の作り替えをしたようだ。
その時にマリアが児童文学や絵本を集めた部屋を別にしたいと話だし、とうとう会議室を潰して子供向けの書籍を集めた部屋を作り上げたそうだ。
「その発想、実に素晴らしいよ。読み聞かせ会なんかもしてあげたら良いよね」
旅の学者さんこと37番目の図書館魔族も大喜びだ。
反面、分類に困った書籍が15冊有った。
これは現領主であるオットー・リブラが吹いたほら話をマリアが書き留めたもので「オットー・リブラほら話全集」という名前が付いている。
「これは仕方ないから丸々本棚開けてしまおうか」
15冊の全集はそれぞれ違う話が入っている。
おおむね図書館の改装が終わった頃、図書館魔族がその本を手に取り読み始めた。図書館も領主が何を考えているのか良く分からず、それを書いた物から推測しようとしていたのだ。
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