第16話 巻き込まれた事1 告白された!
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義足の爺さんの孫。というか同郷の同居人は、12歳の男の子で名前はケント。10歳の女の子で名前はエレナ。そして一歳になったばかりの末の女の子がベレンガリアという名前だ。それぞれ家族でも何でも無い。同郷人の生き残りだ。
爺さんの義足と身体が合わなかったようで、酷く足を痛めてしまい、緊急手術、緊急入院という事になったのだ。
その間私が偽装の為に用意した洋館で子供達を預かる事になった。私だけではどうにもならない。保育士1名と家政精霊にも来て貰っている。
「さあ、ここがしばらく皆の家になるよ。寛いでくれ」
預かり先からこちらに来て貰った子供達に出来るだけ笑顔で声をかけた。
洋館はそれはそれは綺麗な作りなので、子供達は目を丸くして驚いていたが、その内そこら辺を駆けて遊び回るようになった。良いことだ。ダンジョンポイントになるからな。
家政精霊の夕飯に舌鼓を打ち、私が子供達に本を読んであげて、そして寝かせる。最近いつも青空なのはおかしいからと、時間帯によって空の色を変えてある。
夕食は本来私には必要無い。しかし私だけ食べない訳にもいかなかろう。別段食べてはいけない訳ではない。食べなくても平気なだけだ。はて。ここで接種した余剰のカロリーは何処に行くのだろう。そんな事など知った事ではない。
夜の良い時間になれば、この地域の人々は早々に寝てしまう。
夜を明るくする為の燃料なんか買う事も用意する事も出来ないからだ。
女の子達はすぐに寝てしまったようだが、男の子のケント君は寝付けないようだった。色々変わったのだから無理も無いだろう。
「お姉さん、今何をしているの?」
自室で暗い中ランプを灯し、図書館の奴から貰ったビジネス書を読んでいた私は、ドアを開けて覗き込みながら声をかけてきた。
「本を読んでだけだよ。どうしたの?眠れないのかな?」
「うん」
ケント君は多くを語らない。無口なのではない。自分の感情を出すべき言葉が出せないのだ。
「入ったら?」
招き入れることにした。ケント君は応接ソファーに腰をかけた。
「お爺ちゃんが心配かい?明日お見舞いに一緒に行こうか?」
「それは……うん」
再び重苦しい沈黙が流れる。音を立てる物なんか何一つ無い。居心地が悪そうにもぞもぞするケント君がソファーに座り直す音だけが響く。
かなりの沈黙に私から声をかけた。
「まあ環境が違うから居心地も悪いかも知れないね」
「お姉さん」
ケント君が意を決したように頭を上げた。
「大好きです」
「そう。ありがとう」
ケント君が自分にそう言いたい事は分かっていた。でもそれを軽く受け流すように私は決めていた。
「あのね。いつまでも一緒にいて欲しいの。うちの開拓地に住んで。僕にいっぱい笑顔を見せて欲しいの」
「嬉しいよ。ケント君の気持ち」
私はきちんと答えなくてはいけないと思った。この子は私に慕うとかそうではない。恋愛感情を持っているのだから。
「じゃあ」
「ねえケント君、このお話覚えてるかな」
私は幸せを探し求めて旅をする人の童話を引っ張り出した。
「うん」
ケント君が答えた。これは何故か子供達から人気の童話だ。私も読み聞かせをしたことがある。分からない筈が無い。
「幸せは身近な所に有ったというお話だったよね。そうなんだ。身近に有るもんだよ」
「そう……かな」
「ああ保証するとも」
ケント君は開拓地でも思い浮かべているのだろう。幸せとは程遠いかも知れないが。
「それに私の方が年上だ。きっとすぐに老けてオバサン臭くなるよ。それ、申し訳無さすぎてさ」
これは嘘だ。私達魔族は見た目では歳を取らない。逆にケント君がヨボヨボのお爺さんになっても私の見た目はこのままだ。でもここは大嘘をついた方が良い。
10歳の女の子エレナがケントを見つめる目は、それこそ敬愛とか尊敬の眼差しではない。小さくても女の子は女だ。一番辛い時期を二人で乗り越え、ベレンガリアちゃんを世話した事から始まる恋愛感情そのものだ。ケント君は気付いていないが、私には一目瞭然だ。
これは確か吊り橋効果という奴なのかも知れないが、世界一大変な吊り橋だ。是非二人仲良くなって欲しいものだ。
自分の思いを口に出して少しはスッキリしたようで顔色も随分良くなった。
「ありがとうお姉さん。この事は忘れてね」
それには答えずただにっこり微笑んで部屋に送り返した。
忘れる忘れないよりも、なるほど私の見た目なら憐憫は誘えそうだ。
翌日、ケント君は驚く程元気になり、いつもより長い時間妹のように一緒に居るエレナちゃんとベレンガリアちゃんを可愛がって一緒に遊んだりしていた。
気が付けば私に色目を向けなくなった。小さくても大きな変化だろう。やがて二人で所帯を持ち、ベレンガリアちゃんを養子に迎えて本当の家族になるだろう。いつまでも見守りたい人間の営みの一片を垣間見た気がした。
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