第116話 戦場から来た料理長
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領主さんは今、ソンナ王国の料理長と自称する女性を面接している。
既に私が用意した難民台帳も領主さんの手元に用意されている。
名前 リリアン・バッコス
年齢 44歳 女性 この人も単身逃げてきたようだ
家族 なし
経験した職業 賄い厨師
特技 どこの料理も任せておくれ。なんだって作ってやるさ
この人は自分で文字を書いて持ってきた。筆跡も今までになく独特だ。
普段ならどこかの宿の料理人に斡旋して終わる話なのだろうが、今回は何故かママーナさんとイーナさんが会いたがり、それで面談となった訳だ。まあ、私も面接したいからな。
で、そんな話を領主さんに振っているのだ。
そんな訳で領主さんと、その両サイドにはその二人が鎮座している。私はその席の脇に待機している状況だ。
メイド長さんがその人物が到着したことを告げたので入ってもらう事になった。
「失礼致しますよ」
中に入って来たのはなかなか大柄で肝っ玉の据わった女性だった
「あたしがリリアン・バッコスだ。なんでも面談だって?」
「ああ。まあ尋問とかではないから安心してくれ」
普段は真っ白なのだろうコック服は脱走劇の合間に汚れたようで、土や草の色が折り目に薄っすらと付着している。
「そうなの。ごめんね呼び出しちゃって」
イーナさんが明るく声を掛ける。イーナさんを見たリリアン女史は豪快に笑う。
「そりゃ入った瞬間に分かったさ。尋問向きでない旦那さんに可愛い女の子が3人なんだからさ」
ウインクしながらリリアン女史が言う。
「で?何を作って腕前を披露したら良いんだい?」
どうやら彼女は自分が呼び出された理由を二つに絞っていたらしい。一つは尋問でもう一つは腕前のお披露目だ。これで執事さんとゴンザさんが居たら尋問を疑ったのだろうが二人はこの部屋には居ないからな。リリアンさんは安心すらしているようだ。
「話が早くて助かりますわ。ではラーメンという物を所望しますわ」
「ほほ。そいつは時間がかかるものを。良いさ。何とか作ってやるよ。キッチン借りても良いのかい」
「ああ構わない。但し持ち込みの食材を使う事は許さないぞ」
「ああ充分さ。そちらさんも毒殺の心配くらいはしたいだろうからねぇ」
何とも明け透けで気持ちの良い女史だ。とても戦場の女性とは思えない。
メイド長さんがキッチンに案内するのをイーナさんとママーナさんが着いて行くので、全員ついていく。
何故かみんなで女史の手際の見学会までしてしまうようだ。
リリアン女史の仕事はまず食材探しからなようだ。冷蔵庫やら戸棚を漁り、それは次第にゴミ箱の中にまで及んでいる。どうも何かの骨や魚の余りなんかがそこから掬い出された。何に使うのだろう。
「豊かな国はこれらは捨ててしまうだろうね。私はそれを許したくないのさ。戦場ってのはどいつもこいつも餓えててね。それなのに食材なんて数えるほどしかないのさ。全く。貧乏臭い話だろ」
「そうだな」
領主さんは相槌を打つ以外の答えを出来なかった。
「だからあたしたちは使えるものなら何でも使うし、有るもので何とか代用しちまうのさ。肉が無いときは大豆とキノコでそれっぽくしたもんさ」
女史は自分が調理する場所を私達が陣取った場所の対面に決めて、用意した食材で料理を始める。
大鍋にゴミ箱から引き出した魚と動物の骨を細かく砕いて煮込み始めた。その間に小麦を手でこねながら。その脇合いで魚醤にニンニクとショウガを摩り下ろしたものを溶かし込み、練った小麦を薄く伸ばした後大鍋に玉ねぎや長ネギの葉を放り込み、やっと俺たちに話し始めた。
「私は世界の料理を知ってるさ。それには理由があるのさ」
「伺いましょう」
領主さんの返しにイーナさんもママーナさんも頷いた。聞きたそうだ。
「あのバカみたいな皆殺し戦争はね、当初は結構な数の傭兵もいたんだ。世界各国から集まっていてね。何語かも分からない言葉も飛び交っていたものさ。最近は余りのバカバカしさと金払いの悪さで傭兵なんか一人も居ないがね。不払いも有ったってさ。そんな中仲が良かった傭兵が瀕死の重傷を負って帰ってきたのさ『あたしに何か出来るかい?』って聞いたら『ナシゴレンが食べたい』って言ってきたのさ」
「なんだろうね?なしごれん」
「梨のパイとか?でしょうか」
イーナさんとママーナさんが予想はしてみる。
「残念。そいつがコメ料理とは知っていたけどどんな物かは知らなかったよ。仕方ないからあたしは必死で魚醤と適当な香辛料を混ぜた卵おじやを出したんだ。そしたらそいつ『ははは。俺の知ってるナシゴレンとは違うや。でも……ありがとう』って言葉を最後に死んじまった。あたしはその亡骸に泣きながら謝ったよ。知らなくてごめんって」
「痛ましいですわ」
ママーナさんはやっとそれだけ言った。
イーナさんは戦場のきつい話が堪えたのか涙をこらえるのに必死だ。
「これが最後の晩餐かも知れないんだ。随分研究したもんさ」
「あなたは身なりと言い様子といい、かなり厚遇されていたようだし、そんな戦場でこそ貴女は必要とされそうなものだが、どうして逃げてきた?」
「普通ならあたしは逃げないよ。でもさあ」
キッチンの外から見知らぬ若い男性が覗き込んでいる方をチラリと見た女史。
「まだおわらないのかい?」
男性が聞いてくるのを女史が大きな声で答えた。
「まあ中に入りなよ。紹介してやる」
男性が中に入ってきてぺっちゃりとリリアン女史にくっついた。
「遅いよ。心配しちゃうよ」
「なにも盗って食われはしないさ」
「君に何かあったら……僕は悲しい」
「ははははは」女史は豪快に笑う。
「これさ。12歳年下のカレシが出来ちまってね。一緒に逃げようって。平和な街で結婚しようってさ。年甲斐もない奴だと笑っておくれよ。こんなオバチャンで良いのかいって聞いてもさ。君以外目に入らないってさ。ほだされるよねぇ。さあ、ラーメンも出来上がったよ。食べてみな」
出来上がったラーメンをイーナさんとママーナさんは箸で器用に。領主さんは箸の使い方が分からなかったからフォークで食べてみる。あまりの美味しさと今までにない味わいと食感に驚き「うちの料理長にしようよ」イーナさんが提案する。
「いいや。ここの料理長にはしないよ」
領主さんはその提案を断った。
「ほう。売込みは失敗だったかい」
眉を顰めて、それでも顔だけは笑顔でリリアン女史が言う。
「いや。大成功さ。ダンジョンランドのターミナルにレストランを出す話を貰っていてね。そこで店を出してはどうかと提案したいのさ。貴殿はこんな冴えない領主なんかの下に置いておくなんて勿体無いにもほどが有るからな」
「そいつは参ったね。折角のお話だ。腕を振るわせて貰うよ」
「ああ。そうだ結婚の見届け人にうちの母に頼んではどうだ?喜ぶに違いない。そして夫妻仲良く切り盛りしたらいい」
「腕前を買ってくれてありがとうよ。寛大で冴えてなくて心の広いナイスガイな領主さん」
暫く後にこの二人のレストランがオープンし、結婚はしたものの妻の年齢では子宝には恵まれない。二人は3人の養子を育て、自分の師匠たるリリアンが遂に国を抜け出したと聞いたソンナ王国の亡命料理人10名と共に、ターミナル前で世界初の大型フードコートを運営するに至ったのは女史が65歳になった頃。生涯現役で厨房に立ち、いつまでもはつらつと豪快にたくさんの弟子や研修生を指導し続けたのであるがそれはまた別の話になるだろう。
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