第109話 七夕だそうだ
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鉄鉱床復活の翌日、かねてからの約束通りに私と領主さん一家は鷺の住む泉にある『水の精霊祠』に来ている。これは一体何の集まりなのかは全く知らない。これは領主さんの婚約者であるママーナさんが集めた物だからだ。
ママーナさん。若いというか幼いのに大変美しい女の子だ。そんなあのヒトは何故か弓術と馬術に優れ、そして極度の東方かぶれだ。
「灼熱の月の7日はタナバタというお祭りをしますのよ。今日はそれをしようと思いますの」
領主さん、イーナさん。そしてお母上さんが盛大に拍手をして開会宣言を盛り上げる。七夕かぁ。何をするつもりなのだろう。
「まずはこの木に様々な飾り付けをしますのよ」
なるほどまずは笹に飾り付けをするわけか。しかしこの地に笹も竹も無い。
木を良く見たらもみの木だ。これなんか別のイベントになってしまわないかな?まあ別段私に被害は無いから良いけどさ。
「短冊に願い事を書いて吊るしますのよ」
まだ紙は少ないので短冊というのは木の板だ。片方に赤や青などの色を塗ってある。
「お兄ちゃんと結婚します イーナっと」
イーナさんは思いの外ブラコンだ。
「イーナ。兄妹で結婚はしないだろ?」
「えー?こんなに可愛い妹なのに?」
「いや、可愛いのは事実だぞ。妹を可愛がらない兄なんか居ないぞ」
ほんとこの一家は賑やかだ。飾り付けの方もママーナさんとフリコさんとお母上さんがわいわい言いながらやっている。
「これもかざれば よいとおまいます」
「そうね。楽しくなりそうだわ」
とか言いながらぶら下げてるのはジンジャークッキーだ。
「ママーナちゃん。これも飾れば似合うと思うわ」
と、お母上さんがステッキみたいな物もぶら下げている。そもそももみの木にそれ下げてしまったら七夕飾りじゃなくてクリスマスツリーじゃね?クリスマスツリーじゃね?
まあ良いや。どうせ実害は私には無いから。本日二回目。
ある程度飾り付けが終わった頃、ママーナさんが更にイベントを追加した。
「七夕では一年に一度合瀬を楽しむ男女が必用なのですの。ここはもうこの二人しかおりませんわね」
そう言ってママーナさんが私と領主さんの手を引きもみの木のそばに引っ張った。
これにヤドリギが有れば完全にクリスマスイベントなのだが、幸いにしてそれは無い。でもそんな事考えながら領主さんと並べられて私の顔はすぐに赤くなる。ダメだ。考えてることがすぐに顔に出る。
そんな私を見てなのか、領主さんも顔を赤らめる。
ダメじゃないですか!イーナさんとママーナさんが領主さんを茶化してしまう。
「お二人共とてもお似合いですわ」
「孫よ孫!楽しみだわ!」
「奥方さま~。若い二人を急かしてはいけません~」
どうも貴族の家の者として、領主さんはお妾さんを持たなくてはいけないようなのだ。
盛大な拍手と喝采の男女の合瀬を終えた後、今度は食事会となる。
「ソーメンという細長い麺料理をいただくのが正しいとされてますけど。これで代用してもバチは当たらなさそうですわ」
そう言って用意したのはパスタである。
あっという間に野外用のテーブルやら椅子やらが用意され、皿にペペロンチーノっぽい物が盛り付けられている。
これも実害は無いから良いかな。確かに素麺を食べる風習は一部に有るようだが、何故にママーナさんが知っているのかは分からない。
まあ気にしなくても良いかな。何せこのご一家とこんな風に遊ぶのは楽しい。たまに乗り合い馬車が通りかかり、乗っている領民が手を振って喜ぶのも、この領内の良い風景だ。
そんな中突然やって来る奴がいる。私もたまにしか会わないから忘れがちなのだが、見守りパトロールの有田と長田だ。
奴ら相変わらずUFOに乗ってやって来るのな。
「伯爵閣下、素敵なレジャーの中申し訳ありません。閲兵式典を終えて余裕が有る時を見計らってやって参りました」
「やあそれは気を使わせてすまないな。で?今度はどんな宇宙人が攻めて来たんだ?あまり期待しないでくれよな」
領主さんは少々縮こまった。そりゃ高い文明を持った連中がわんさと押し寄せたらハルバート一閃したところで勝ち目は無いからな。
そんな中でもお母上さんは二人に席を勧め、メイド長さん(名前は知らない)はお茶を淹れている。この領内の女性は強い。この二人はそのメンタルがとにかく強い。私も負けそうだ。
「いえ。近々外来宇宙人討伐の憲章に、勲章授与式をしに来たいと」
「あー。あのカシワモチ星人か?でも俺はカシワモチ切っただけなんだがな」
「いえ。しかしこの地の英雄です。三日後開いているようですのでその時に授与式典を行いたいと」
「おい。そんなの困るぞ」
「これは本当に困りましたね~若旦那様~」
メイド長さんが珍しく険しい顔で領主さんに賛同した。
「相手様の会食から礼儀作法まで私は何も知らないです~。どう歓待したものでしょう~」
宇宙人がわんさか来る事より宴席の心配をしているメイド長さん。やはりこの領内の女性は強い。
有る意味で本当に強い。
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