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第106話 領主くんと対談

 見つけてくれてありがとうございます


 Twitterから来てくれた皆さん、ようこそお越しくださいました

 領主くんの洋館。客間の一室でダンジョンくんをベットに転がし、私はやっと一息つけた。身体強化の魔法をかけても、私という体力の無い研究者にとってヒト一人を運ぶのは楽じゃないものさ。


 起きたら頭痛を訴えるだろうから水を用意し、とりあえず共に居ることにしといた。何せ今回の話において私は蚊帳の外。軍事の事は門外漢だからね。領主くんの開いた口を塞ぐ程度の役にしか立ってない。

 まあすぐに新人メイドさんのおばあさんと子供が一名ずつ来てくれたのだけどね。

 

 遅くになってから領主くんも見舞いにやって来てくれたよ。領民思いの領主くんにとっては人間(ヒューム)の子供も魔族も無いらしい。ちょっと出来すぎていないかな?


「やあ領主くん。様子見かい?」

「まあ、そんなところだな」

「きみはダンジョンくん一人より自分の領地の周辺を良く見る事が必要だね」

 領主くんは思わず辺りを見渡した。でもそう言う意味じゃ無い。

「きみは君主としては優しすぎて大きな事を成し遂げられないと言っているのさ。あ。悪口を言うつもりは無いよ。勘違いしないでくれよ」

「いや。それは俺もそう感じているから。きちんと聞くよ」

 ここで居住まいを正すところは人としては得点が高いが君主としては低得点だな。

「では聞くね。きみは隣国同士の戦争をどう捉えているんだい?」

「困っているさ。二回も領内侵犯が有ったんだぞ」

「そうだね。難民は押し寄せるし疫病、支援にも手を焼くよね。しかしきみはなかなか出来た領主だから、手の届く範囲なら助けてしまえる。きみの両手はもっと伸びる筈なのにだよ」

 思わずそれに答えず両手を広げる領主くん。違う。そうじゃない。

「あのね領主くん。戦争はいつまで続くか分からない。二国間の戦争はね、あれは宗教まで絡んでるんだ。あれは教主本人が血の雨喰らうまで収まらないんだ」


 領主くんは暫し目をくるくるさせてから答えた。

「なるほど。そんなものか」

「ああ。そんなものさ。最悪なのは本人は血の一滴も流さない事さ。ラクなもんだよね」

 ここで領主くんは何も言わなくなってしまった。ひたすら考え込んでいるのだろうね。でなければ導き出される答えを拒絶し、回避したいかのどちらかだ。

 私は追い討ちをかけてやる事にした。


「やがて難民はうじゃうじゃ増えるね。国内で収まらない程だ。この領地どころかこの国が収容しきれない難民が出るよ。なんだい?難民を詰め込む。詰め込み過ぎてやがて立ってないと居られなくなるまで詰め込む気でもないだろ?」

「それは」

 これは極めつけになってしまったようだ。

「怖いのかい?」

 領主くんは俯いてしまった。本人は戦わせれば思いの外一流だ。こんな野暮ったい顔立ちだけどね。でもこの領主くんは色々な事を恐れて生きているんだ。だからこの問いかけは領主くんにとっては辛辣過ぎる一言な筈だ。

「なんだ。見抜かれてたのか」

 領主くんは色々な事を恐れているのは知っている。主にはヒトを恐れているのだ。

「そうだね」

 領主くんは不意にそっぽを向いた。余り言わないでくれと言わんばかりだ。

 恐れているのはヒトが死んでしまうことだ。だから病死した難民を自ら追悼し、病院が出来た事を我が事のように喜んだ。そして領主くんが侵犯した隣国兵に自ら挑んだ理由も、『それが一番戦死者が少なくなる』からであって、自分が強いからだなんて思っていない。

「構わないさ。でも領主という君主が乗り越えるべき壁だね」

「……壁かよ」


 領主くんは口答えもしない。自覚が有るからだ。

 領主くんはついでにヒトが貧乏になるのが怖い。怖いから税金を安くしている。国内の他の地域から住民が殺到しないように移住をご法度にしている。難民に到っては10年も租税免除だ。自立を促す為ではない。領民に甘いだけなのだ。

 領民にも大がかりな税は徴収していない。本人は領民の生活向上の為とは言ってるが、民に優しいのではなく甘いのだ。

 領民から買い上げて王都にでも売りに行くという流れを牛耳っているのが収入源だ。

「ま。軍事につぎ込む金銭が無ければ領内に引きこもる理由にはなるかな。でもきみは半神であるエルフを守護し大義名分を。私達魔族と縁を結び魔力と軍事力を。そして隣国として戦争を治める道義的責任を持ち合わせている筈だ」

「それは酷いなセレクトさん。俺が感じていて言いたくない事をペラペラと」

「きついことを言ってすまないがね。きみは本気で領内がヒトで溢れ反って立ってないと居られなくなるまで詰め込むつもりかい?」

 領主くんは項垂れている。ここまで言われた事も無いのだろう。

「誰一人言わないだろう?だから私が言うよ。きみは君主としては失格だ。しかしこれ程将来を気にかけてあげたい君主も居ないんだ。だからさぁ。そろそろ私達に自らの欲目を見せてくれても良いじゃないか」

 

 ここで邪魔が入った。ダンジョンくんが突如ムクリと起き出したのだ。

「うーん。りょうしゅさーん ごかぞくたのしそうれーす」

 そう言って領主くんを抱きかかえ、身動きが取れない程抱き締めたまま再び寝てしまった。

 今日のところはここまでかな。

 読んでくれてありがとうございます

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