第101話 御披露目!しんえいたい
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領主さんの地に軍務卿がやって来る。私にとっても一大事だ。ダンジョンから出せる資材や人材をフルで供出し、各種会場や行軍演習参加者へのおもてなしも整った。
私も領主さんもヘトヘトだ。何せダンジョンへの訪問も予定に入っているのだ。これでこの国のエンタメ事業は私の物だウッハッハ。
とか笑ってる場合じゃない。
今後のダンジョンへの訪問の為にも手抜きなんか出来ない。
雨の月からカレンダーを捲り、灼熱の月になった頃、遂に軍務卿がやって来た。
軍務卿の兵は予めお知らせしておいた会場前に到着する頃、領主さんと領主さんの側近でのお出迎え式典となる。
「ようこそリブラ領へ。軍務卿閣下におかれましてはご機嫌麗しく」
領主さんの上役への話し方、私は初めて聞いた。
「やあリブラ卿、世話になるぞ。今年は随分側近が華やいだな」
領主さんの下座に並んだ私達を一通り観察して軍務卿はにこやかな笑顔を作った。
「はっ。今年は準男爵にして軍務、財務担当のラビリンシア・ダンジョン、騎士団長にカネガ・ホッスィ、士爵で図書館司書マリア・ビブロテカーリオ、他侯爵令嬢のアナナンカ・ホッジス、農務、文部担当のセレクト女史が側近に加わっております」
紹介に預かった私達が声をかけずにお辞儀をする。
「ハハ。華やいだものだねリブラ卿、さて……今年も君は近衛も無しに出迎えかね?」
「今年は近衛もおりますぞ」
それを合図にしていた。
ここでチビッ子しんえいたいの皆さんが登場だ。
先頭を行くフリコさんは顔立ちが高貴である。
リブラ家の旗を持つマリオくんは背が高いから選ばれた子だ。
いつも自信無さそうに歩くレベッカちゃんの行進も個性の内だ。
同じように個性的なのはジルくんで胸を張りすぎだ。
たまに左右を間違えるケリーくんだが今日は間違えなかった。ついてるな!ケリーくん。
全員が5歳か4歳の子供たちだ。
チビッ子達が二列縦帯で20人程。整然とと行進してやって来たのだ。
領主さんや軍務卿の前方でフリコさんが号令をかける
「ぜんたーい とまれ」
「「「いち に」」」
軍務卿は呆気に取られていた。しかしフリコさんは動じない。号令は更に続く。
「ひだりむけー ひだり」
「「「いち に」」」
「そういん ぐんむきょーに ちゅうもく」
号令と共に旗手のマリオくんは旗を頭上に掲げ、全員気をつけの姿勢で軍務卿を見上げる。
敢えて敬礼を採用しなかったのはインストラクターの入れ知恵だ。本当の軍隊ではない事のアピールになる。
背後の行軍演習参加者は「子供近衛かよ」「なに考えてんだリブラ伯爵」などと揶揄する声も聞こえる中、軍務卿だけは反応が違った。
「おお、今年は可愛らしい近衛を揃えたのう。お主ら黙りたまえ。これをこの子供たちに教えてやらせることが出来るか考えてみよ」
軍務卿は子供たちと目線を合わせる為に膝をついて子供たちに語る。
「見事な行進に号令でしたね。おお、隊長の君は」
「フリコ・リブラです」
「そうだったね。見事な行進だったよ。将来はこのリブラ家の為になってくれな」
軍務卿は思いの外子供好きな事以上に驚いたのは「このくらいの子供にある程度揃った動きを教える事の大変さ」をよく知っていたという事実の方だ。余程何かで苦労したのだろうか。
「儂からの嫌味溢れる難題を見事に解決したな、リブラ卿。卿の懐事情など知れたもの。」
「え?そうなんですか?」
歓待の軽食を摘まみながら、軍務卿と領主さんの会話は続く。
この領主さんは剣術もおつむの出来も人並みだ。側近として入れ知恵するのは私と図書館の奴の仕事だ。
『本来近衛隊とは領主さんの地域に住む豪族や地主の子供を人質として傍に置いておく為の物なのです。年齢よりも適度な教育を受けた有力者の子弟を囲ったと思ったのですよ』
私の耳打ちに領主さんは驚いて答える。
「え?いや?あの子達は難民の子……」
「難民の子が高貴で無いとも限らないものさ。領主くんは見事に難民の中から優秀で高貴な子供を見つけたものだよね。そうだよね領主くん」
図書館の奴は領主さんの仰せに被せて行く。これは『黙れ!』と、言ってるようなものだ。図書館の奴のやることはたまに狡辛い。
「あああ。ああそうだなセレクトさん」
領主さんの目は泳いでいて、ついでに声も裏返ってる。
「リブラ卿、無理するな。君が腹芸も演技も無理な事など知っているさ」
にこやかに答える軍務卿の方が、少なくとも領主さんよりは遥かに役者が上だ。
「えーと。明日は馬上試合、明後日が弓試合でしたね。今回伯爵領から規定通りそれぞれ五名の参加者を用意しました」
「おい!俺以外にそんなこと出来るヤツ見たこと無いぞ」
「ハハハ領主くん。御戯れも過ぎれば罪だと思うよ」
図書館の奴が口に人差し指を当てて『お黙り!』の合図を送る。顔は苦笑いだ。
「弓術も五名、尚リクエストがあれば魔術エキシビションもご提供します。リブラ伯爵領は現在領主さんに続けと優秀な武官を育成しています」
にこやかに聞いていた軍務卿から回答が来た。
「軍務担当の準男爵卿を疑うつもりは無いのだがね?当の領主リブラ卿の反応はどうしたものかね」
領主さんは図書館の奴と身振り手振りで何やら揉めている。
しまった。領主さんに今回の軍団をお見せしてなかったや。
「ウフフフフフフフフフフフフフフ」
冷や汗かきながら笑顔を作る事しか出来なかった。
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