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7.

 清濁あわせ呑め、とは地位ある人からよく聞かされる言葉だ。


 俺は、聖人ではないので、不正や悪事を心底憎むといった程ではない。

 が、その皺寄せと被害を受ける社会の底辺にて長らく暮らした過去を持つ立場からすると、その考えが容易に受け入れ難いのもまた事実だ。


 人の世は、矛盾に満ちている。


 思想や経験や立場など様々な背景により、正義の定義も物事の真実もまた違ってくる。

 同じモノを見ているようでいて、実際に人の眼に(うつ)る姿かたちは全く同じではない。


 俺は今、ここ暫くは意識する事なく忘却の彼方へと押し遣っていた現実に、否応なく直面していた。


「ワタクシの命令など聞けない、とでも言うの?」

「いえ、そうではなく...」

「では、今すぐ、私の異常状態を解消なさい」

「ですから、妊娠は、病気とは違って身体の異常ではないので...」

「ワタクシ自身が受け入れられない事態なのだから、異常状態に決まっているでしょ!」


 うん。言いたい事は、よく分かるよ。

 けど。俺のギフトによる判定では、そうじゃない。

 というか。やっぱり、その論理展開には無理がある、と思うのだ。


「あの、ですね。医局の担当者からも説明があったかと思いますが」

「あの者は、駄目です。話になりません」

「...」


 俺が王都に来て、この妓楼でお世話になるようになってから、数ヶ月が経った。

 だからなのか、俺にギフトの行使が依頼される間隔は、徐々に開いてきている。


 俺のギフトを必要としていた人たちに恩恵が一巡した。

 あるいは、その展開と合わせて導入された様々な施策の中のいくつかが功を成してきた。


 そのような因果関係について証明が出来るようなデータを、残念ながら、俺は持ち合わせていない。

 が。たぶん、要因として最も有力な候補はこの二つ、でほぼ間違いない筈だ。


 そして、また、その一方で。

 当然ながら、数ヶ月に渡る検証と多くの事例による裏付け情報を得て、俺のギフトに対する考察もより一層に深まってきている。

 何故そう為るのかといった原理はさておき、どのような行動によってどんな結果が得られるかについては、ほぼ解明がされ尽くした、と言ってもよい状況にまで至っていた。


 つまりは、まあ、そういう事だ。


 行為を最後までなし、相手の中で俺が果てれば、ほぼ、ギフトは発現する。

 ただし。ギフト発現の際に、相手の身体や周囲が発光する訳でも何か特異な現象が起こる訳でもないので、どのタイミングでギフトの恩恵が相手に齎されているかについては、ハッキリと分からない。

 が、しかし。行為が終わった直後に、相手を異常状態から回復させている点については間違いない。

 そして。解消される異常は、後天的に被った疾患や身体異常のみであり、先天的なモノや自然の摂理に従い起きた身体の反応や変化は含まれない。

 すなわち。本人が意図したかどうかに関わらず、正常な身体の反応として発現した事象は、キャンセルされる事など無いのだ。

 よって。俺のギフトでは、初期であろうと妊娠状態を解消したりはしない、というのが導き出された結論だ。


 など、など、と。

 出来るだけ相手の女性の話を傾聴するようにしながら、懇切丁寧な説明を試みる。

 のだが...やはり、聞く耳を持たないお姉さん、というよりもお嬢さま、であった。


 流石に俺も、ケイさんというお名前らしき年下の女の子を、持て余し気味だ。

 けど、必死さも何となく伝わってきて、突き放せずにいる。

 困った。


 追い詰められ切羽詰まってヒステリー気味になっているのか、高飛車。

 高慢ちきというか、高貴なお姫様のような扱いを求める強気な成金の小娘、というか...。


 兎にも角にも、俺も含めた周囲の使用人たちに対する当たりが強い美人なヤンキー少女に、お手上げ状態だった。


「こ、この、ムッツリ助平な淫乱男!」

「...」

「つべこべ言わず、抱きなさいよ!」

「...」

「ワタクシが相手してあげると言ってるのよ。(むせ)び泣いて、歓喜なさい!」

「...」

「な、何よ。こ、この、役立たず!」

「...」

「この為だけに存在が許されてる厄介者の癖に、なんの意味も無いじゃない」

「...」

「もう、いいわよ。あっち行って。ワタクシの前から、消えて頂戴」


 汚物を見るかのような苛烈な冷気を纏った視線で、一瞥。


 高所から見下(みお)ろすかのような態度で見下(みくだ)した後、更なる暴言を吐き続けながら、一顧だにせず去って行く、金髪美少女のケイさん。

 いやはや、身長は俺の方が圧倒的に高い筈なのだが、物凄い高度な技能だよな。と、徹底した上から目線に、思わず感心してしまう。


 美少女って、何だっけ?


 地毛かどうかは不明だけれど、見事な縦巻きロールの金髪。

 彫像のように整った、怜悧な美貌。

 強烈な目力が宿る大きな瞳に、キュッと締まった小さな口。


 うん。将来は気の強い美人さんになりそうな、俺より若くてまだ幼い、綺麗な女の子。

 つまりは、美少女、だよな...。

 俺のイメージする美少女とは、何かが微妙に違う気もするが、まあ、実際問題として間違いではない、のだろうね。


 どうやら、ケイさんには、つんデレ美少女さんへと至る進化の道はまだまだ遠くて長いものになりそう、であった。


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