序章
結構まじめな歴史物です。
舞台は十七世紀初頭の平戸島。
主人公はたぶん一応実在はしていたイギリス人一水夫です。
歴史小説として、初めに興ざめな宣言をしよう。
この物語はフィクションである。
しかし、部分的には事実も述べている。
作中に引用する史料はフィクションではない。
ある時、ある場所である二つの事件が同時に起こった。
この点も完全に事実である。
日時は慶長十八年八月二十八日。
現行の西暦であるグレゴリウス暦なら一六一三年十月十二日、イギリス人たちがこの時期でもまだ用いていた昔ながらのユリウス暦では同年十月二日にあたる。
場所は平戸港だ。
第一の事件は日中に起こり、第二の事件は、史料を残した目撃者曰く「今夜十一時ごろ」起こった。
第一の事件にはイギリス人の水夫たちが関わり、第二の事件には日本人のある大名が関わった。
第一の事件は歴史的には極めて些末で、第二の事件は、多少の重要度がある。
二つの事件の間の因果関係は、現存する史料からは見いだせない。
同発は単に偶然のなせる業だったのかもしれない。
だが、もしかしたら因果関係があったのかもしれない。
その因果がフィクションである。
もしかしたら真実かもしれないと私は夢みている。