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「自己紹介と持ち物チェック」

 女神ソフィアの使徒となり、魔神デミウルゴスの使徒と戦う。

 同時並行してサラの脱出、友達や他の生存者との合流も進める。

 最終的には皆を直近の街――人間種族の領域まで送り届け、貯めた神力で元の世界への帰還を目指す。


 そのためにまず行うべきは、なんといっても神力の取得だろう。

 積極的にソフィアをはじめとした天使たち光の軍勢の評価を受けなければならない。

 

 ここで大きいのは、それこそがまさに私の得意分野だということ。

『見せる』ではなく『魅せる』。

 観客の目を常に意識しながらやってきたことが、今こそ真価を発揮するというわけだ。


 すべての神力を独り占めにしたいぐらいの気持ちだが、ライバルが複数に及ぶとなると話は違ってくる。


 墜落した生徒、教師、乗務員。

 一人一人の人間にはそれほど興味がわかなくても、複数人による衝突や葛藤かっとうといった人間ドラマは、大いに観客の心を揺り動かすものだから。


 もちろん共闘できる関係であればいいのだが、極限状態に追い込まれた人間は何をするかわからない。 

 強大な敵として立ちはだかる可能性がある以上、こちらも万全に手を尽くさなければならないだろう。


 具体的には同行者、サラにも演技を求めるのだ。

 私と彼女の間に人間ドラマを形成すれば、私はもちろんだが彼女にも神力が付与されることが想像できる。

  

 とはいえ、サラは素人だ。

 最初から過剰な演技を求めても、決して上手くいかないだろう。

 あがり症という彼女のウィークポイントを刺激して委縮させてしまう可能性だってあるし、下手をすると脱出行そのものへも悪影響が出かねない。


 つまり、やるならばリアル寄り。 

 ドキュメント映画を撮るような要領で、素の彼女の雰囲気で演じてもらうのだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 今後の予定とサラの果たすべき役割について打ち合わせをした後、私はくるりと振り向いた。

 ふわふわと宙に浮かぶ光球に向かって指さすようにキュー出しした。

 

「サラ、カメラはあっちだぞ。さあ3・2・1――」


「う、うわあ~……始まっちゃった。えとえと、わかったよ。そんな目しなくてもやるよう~……」

 

 顔を赤くし身をもじもじさせながらも、サラは覚悟を決めてくれた。

 スウと深く息を吸い込むと、ひきつった笑顔を浮かべながら光球に向かってひらりと手を振り――


「あ、ああああたしの名前はシャラ……噛んだ。えとえと、やり直し。やり直しねっ? あたしの名前はサラ・イー・ガーランド。シャングリオン魔法学院の二年生なんだ。なんだけど……王都で行われる大夜会(サバト)へ向かう途中で飛空艇のトラブルに遭って、魔境に不時着しちゃってさ。飛行術で飛んだから命は助かったけど、暴走してこんなわけのわかんないとこに着地しちゃって……。あ、ちなみに今は朝……だと思う。温度が高くて湿度も高くて、けっこう過ごしづらい……みたいな感じ?」


 手をむやみにぱたぱたさせながらのサラの説明は、お世辞にもわかりやすいとは言えない。

 だが、最低限の情報だけは与えられたはずだ。


 彼女の置かれた立場、魔境というジャングルに似た土地特有の気候条件。

 専門用語で言うところの『柱を建てる』ことで観客に理解をもたらした。

 理解は没入感と親近感を産み、より一層観客の興味を惹きたてるエサとなるのだ。


「あとはね~。あたしは魔法自体は得意なんだけど、使うのは苦手なんだあ~。緊張しい(・ ・ ・ ・)で、土壇場になると噛んじゃったり間違えちゃったりするの。ニコがここにいるのはそのせいで……えへへ……。その辺はお母様たちからも厳しく言われてるんだけどね。うちは魔女宗ウィッカの名門だから、あたしみたいな落ちこぼれが生まれるわけがないとか言われちゃって、首席で卒業できなかったら家の敷居は跨がせないとかなんとか……。うぐぐ……気持ちがどよんとしてきたぞ……?」


 より親近感を持ってもらうために自らの特技や家庭環境にも触れてくれると嬉しいとは言ったが、自らのウィークポイントに触れて落ち込むほどまでやれとは言ってない。


「サラ。無理しなくていいぞ」


 セルフで落ち込み始めたサラを気遣い声をかけたが……。


「あはは、大丈夫。あたしも頑張るから。ニコだけに無理はさせないから」


 サラは気丈に笑うと、光球に向かって話し続けた。

 

「と、自己紹介はここまで。お次は持ち物確認ね」


 意図的にだろう明るく笑うと、サラは手にしていた杖の説明を始めた。

 先端がぐにゃりと曲がった杖は魔法の媒体であり、これがあるだけで魔法の効果や制御力が上がること。

 無いと激減すること。また飛行術を使う際にはホウキの代わりとなり、跨ぐようにして飛行できること。


「あとはカバンね。魔法学院の指定品なんだけど……」


 ごてごてとバッジで飾られた生成りの肩掛けカバンを開いて見せると、中に入っていたのは教科書……ではなく、漫画本に大量のチョコや飴玉……。


「えへへへへ、まあその……正直ピクニック気分だったもので……」


 さすがに恥ずかしいのだろう、サラは顔を真っ赤にして照れた。


「いや、素晴らしいよ。予想外とは言え、最高の所持品だ。チョコにしても飴玉にしても、サバイバルにおいては最高級に貴重な食料だ。軽く保存がきいて、糖分やカロリーも摂取できるからね」


「え? そう? えへへへ、やったね♪」


 まさかの形で自分の食いしん坊が役に立ったと、サラは顔を明るくして喜んでいる。


 そして、この笑顔が効いた。

 あがり症のあげく、学院でも家庭でも問題児扱いの恵まれない少女が見せた最高の笑顔に、神々の掲示版は大盛り上がりだ。


 天使:この笑顔……尊い……っ。

 天使:生きるか死ぬかの極限状況なのに、素直でいいコっ。

 天使:どうか良い人生を送ってください。

 天使:決めた。わたしはこのコ推すわ。神力だってバンバンあげちゃう。一億あげちゃう。

 天使:そんなに持ってないでしょアンタは。無駄遣いばかりしてるくせに。


 サラの境遇に同情しきりの天使たちが、神力を付与してくれ始めた。

 とは言え、天使のそれと女神ソフィアのそれとではもともとの所有量が違うのだろう、サラのステータスカード上の表記は0→12程度のものだが……。


「うわあっ、うわあっ、神力だ! あたし初めてっ。ねえ神力だよニコ! あたしが手に入れたんだよっ?」


 自らの体を覆う光とステータスカードの輝きに興奮したサラが、私の肘をゆさゆさと揺さぶって寄こした。


「しかも一生得られない人もだっているのにこんなにっ。12だよっ? うわあああ~……幸せすぎて死にそうだあ~……」


「うんうん、良かったな」


 しばらく幸せに浸っていてもらってもいいのだが、ここはテンポが大事なところ。

 その幸せをすぐさま行動力へと変換してもらわなければならない。

 

「だが、卑下することはないぞ? それこそが君という存在の正当なる評価なんだ。そしてその評価は、これからの行動次第ではさらに二倍にも三倍にもなるだろう」


 サラの肩を力強く抱くと、私は森の奥をビシリと指差した。


「さあ、行こうか――」


 画面的にはここでヒキ。

 次なる展開を示唆し、観客のさらなる興味をかき立てるところだ。


「この調子で飛空艇を目指すんだ。君の友達を見つけ、他の生存者と合流し、魔境を一気に脱出するんだ」


「うん、わかったっ。行こうニコっ」


 私の決めゼリフに、サラが輝くような笑顔を浮かべて合わせてくれた。

ニコの活躍に興味のある方はレビュー、感想、評価の⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️などをくださると嬉しいです(/・ω・)/

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