「神々の掲示版①」
~~~神々の掲示板~~~
薄暗い部屋の中、唯一の光源はパソコンのモニタの放つ光だけだ。
パソコンはテーブルの上に設置されていて、椅子には十歳ぐらいの少女がはしたなくもあぐらをかいて座っていた。
ビスクドールのように容姿の整った、美しい少女だ。
ウェーブがかった銀髪は背中まで垂れ、ぽんと出たおでこがモニタの光を反射し輝いている。
ノースリーブのワンピースから覗くちんまりとした手がキーボードを叩く様は実に可愛らしいものだった――が、発言はそこそこ邪悪なものだった。
「ふうーっはははあっ! なんじゃなんじゃあのザマは!? ゼクタとかいう小僧、多頭蛇と人喰いの獣から逃げるため仲間を見捨てたくせに、今度は魚頭人どもに追われておる! 『助けろ』じゃと!? なんたる惰弱! なんたる飯ウマ!」
一見すると可愛いらしい少女だが、中身は数億歳を数えるロリババア。
歳を重ねたせいもあってか、口の悪さや意地悪さはなかなかのものだった。
「おっと、あれはたしか闇の軍勢の使徒であったか!? 完全武装したコボルド三十頭を無傷で撃退したわらわの使徒ニコとは偉い違いじゃのう! ふうーっはははあっ!」
カチャカチャ、ターン。
カチャカチャ、ターン。
ソフィアの手がキーボードの上を跳ねると、今しがた口にした言葉がそのままコメント欄に表示されていく。
天使:ホントですねソフィア様!
天使:ざまあ以外の何ものでもありませんわ!
天使:闇に与した者の無様な末路なのよ! あああーっはっはっは!
主であるソフィアの背中を見て育ったせいもあるのだろう、天使たちもまた総じて口が悪く底意地も悪い。
天使:それに引きかえ我らが使徒の素晴らしさよ!
天使:初めて見る魔物の群れを一蹴するとか!
天使:ね! しかも子供を守ってあの戦いぶりよ!? ちょっとお姉さんドキドキしちゃうわ!
闇の軍勢が肩入れしたゼクタの凋落を嘲笑う一方、光の軍勢側に現れたニコという強烈な使徒の活躍を上げることで愉悦に浸っている。
片方を上げれば片方が下がる理屈だ。
コボルドの敗北、ゼクタの逃走。
すっかり不機嫌になった闇の軍勢もまた、カチャカチャと書き込みを始める。
悪魔:けっ、人間風情がなんだってんだ。
悪魔:そもそもあいつは闇の使徒じゃねーし。
悪魔:勝ったといっても、たかだかコボルド相手だろ?
悪魔:あんなん俺だったら片手でwww余裕ですわwwww
光の軍勢への対抗心、そしてニコへの嫉妬に満ち満ちたコメントがずらりと並ぶ。
天使:ちょっとあんたたち、嫉妬コメ見苦しすぎるんですけど?
悪魔:は? 嫉妬? それってあなたの感想ですよね?
悪魔:僕ら正論述べてるだけだし~、何勘違いしちゃってるんですか~?
天使:あーイラつく。おまえらぜってー理解らせる。
天使と悪魔が一触即発の書き込み合いを続ける中――
「放っておけ皆の者。闇が光を恐れるのは自然の道理。下級の悪魔どもにあの輝きは強すぎるのじゃろう」
ソフィアは悪魔たちのコメントを鼻で笑うと、敵の総大将たる魔神デミウルゴスへ向け書き込みを送った。
「ところでデミ公よ。そちらの調子はどうなんじゃ? 次の使徒は見つかったか?」
するとすぐに、コメント欄に反応があった。
魔神デミウルゴス:次のも何も、そもそもあれは我らが使徒ではない。
「ほう~? この前あんなに褒めておったのにか? ゼクタこそが今回の戦いの鍵を握る存在だとか言っておったのにか?」
魔神デミウルゴス:別に褒めたわけではない。全体的に大人しい生徒が多い魔法学院の中では、一番魔境への適応力があるのではないかと分析しただけだ。繰り返しになるが、使徒には任命していない。
不良生徒であるゼクタは、その育ちの悪さから暴力で人を従えることに躊躇がない。
爆裂魔法の素質もあるし、他の生徒を力で従え勢力を築くという意味では生き残りゲームに適した人材だと言え、闇の使徒にふさわしいと考えたデミウルゴス自身もまた、闇の霊子体を飛ばし接触を試みようと考えたことがある。
が、結果的には任命しなくて良かった。
今のゼクタにはなんの希望も将来性も見出せない。
魔神デミウルゴス:まあ見ろ。今ここにリストアップしているのが、真に闇の軍勢の使徒になり得る力と可能性を秘めた者どもだ。
デミウルゴスの言葉に反応し、モニタに変化が生じた。
それまでニコをアップにしていたのが十二分割され、そのひとつひとつに人間の姿が映し出されている。
生徒に教師、飛空艇の乗務員姿もある。
魔神デミウルゴス:こ奴ら、まともな人間のフリをしてはいるが中身は真正のクズと狂人よ。
リストアップされた人間たちは集団に溶け込み、あるいは集団を率いている。
まともなフリをしているが、ふとした瞬間にニチャリと、暗黒に満ちた微笑を浮かべることがある。
魔神デミウルゴス:人間世界という常識の中では発揮できなかった力が、魔境という檻に放たれたことをきっかけに芽吹きつつあるのだ。
人間は、等しく環境に左右される生き物だ。
治安の良い世界では良いなりの、悪い世界では悪いなりの行動を取りがちだ。
ならば法執行機関の手の及ばない魔境ではどうなるのか。
助けを求める声の届かない、力のみが正義の世界ではどうなるのか。
闇の軍勢の首領たるデミウルゴスは、それをどこまでも知悉している。
魔神デミウルゴス:今に見ろ。こ奴らの牙はきっと、貴様の使徒に届くだろう。
「ふん、せいぜい期待しておるよ。メモリアルゲームがわらわの使徒の圧勝で終わってしまってはつまらんからの」
女神ソフィアと魔神デミウルゴスは、モニタ越しにバチバチとぶつかり合う――
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