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「魔境脱出の方針」

 コボルドたちが去り、安全になったのを確認すると、私は改めて二人の方を振り返った。


「これだけ圧倒的な実力差を見せつければ、安易に逆襲を考えたりはしないだろう。対コボルドという意味ではしばらく安心していいと思う」


 すると、サラとソフィアはやんややんやの大喝采。


「すごい! すごいよニコ! あんなにいたコボルドが一瞬で片付いちゃった!」


【ふぉおおおおー! これがはりうっどすたーの実力か! はりうっどすたーすげえーのう!】


 拍手と歓声が洞窟内に響く中、私の体が光を帯びた。

 

「お、これはもしや……? 『ステータスオープン』」


 今のコボルド討伐が効いたのだろう。

 ステータスカードに記された神力値は5から15まで上がっている。


「ありがとう。ソフィア、君が付与してくれたのかい?」


【ふん、大事な神力をそうホイホイと与えられるものか。そなたが今得たのは下級の天使どものものじゃ】


「おお、なるほど」


【とゆーか、そもそもこれが狙いだったんじゃろ? まずは挨拶して天使どもに顔と名前を知ってもらう。その上で麗しいお嬢さんだなんだと褒め倒して好感度の底上げをする。最初からそなたにデレていた連中の財布はもうゆるゆるじゃ。ちょっとでも活躍すればがっぽがっぽと神力が入る仕組み。初手で貴重な神力20ポイントを消費して『天声神語アカーシャ』を取得した意味がわかったわい。まさに損して得取れ、ということじゃろう?】


 外れスキルだなんだと騒がれていた『天声神語アカーシャ』を取得した真の狙いに気づいたソフィアは、呆れたような感心したような口調で言って来る。


「ご明察。誰だって、遠くからただ眺めているだけの相手よりも、顔や名を知っている相手に肩入れしたくなるのが本音だろう? 例え天使だって、その根っこの部分は変わらないと思ったのさ」


 ただの俳優よりは、握手をしたりサインを貰ったりした俳優の方を、人は応援したくなるものだ。

 ハリウッドスターであるからこそ私はこのシステム――神々の評価システム――の一番大事な部分に気づけたんだ。


「ともあれ、貴重な一歩を踏み出すことが出来た。コボルドたちを倒したことでさらなる神力を得て、天使たちもファンになってくれた。となれば次に成すべきことは、この魔境から脱出する方法の模索だな」


「うん、それなんだけど……」


 すると、サラの顔が露骨に曇った。


「ここから先もけっこう大変なんだあ。魔境ってだけあって外はすごい環境でさ……」


 サラの後に続いて洞窟の外に出てみると……。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 


「おお、これは……っ?」


 洞窟を出た瞬間、私は息を呑んだ。


 外に広がっていたのは、鬱蒼とした密林だった。

 南米のアマゾンを思わせるような濃い緑の木々が視界を塞ぎ、むせ返るような湿気が鼻をつく。


 だが、ただの密林ではない。

 ホウホウ、ギャアギャアという耳をつんざくくような生物の鳴き声。メキメキと木々を倒すかのような移動音。圧倒されんばかりの生物の密度(・ ・ ・ ・ ・)が、ここが元いた世界のそれとは決定的に違う場所なのだと教えてくれる。


「肉食獣の代わりに魔物が潜む密林といったところか? 食虫植物ではなく食人植物がいてもおかしくなかったりするか? いずれにしても壮観な眺めだな」


 ハリウッドの最新のSFXでも再現できないような壮大な眺めに感心していると……。


「ごめんね? ニコ。こんなことに巻き込んじゃって……」


 ボソボソとつぶやくと、サラがぎゅっと私の服の裾を掴んだ。


 これからの行程の険しさもあるが、一番は無関係な私を巻き込んだことに対する罪悪感からだろう。

 その顔色は冴えず、今にも倒れてしまいそうだ。


 ――だからこそ私は、二ッと笑った。


「なあに、気にすることはない。子供は大人に頼るものであり、大人は子供を守るものだ」


 サラの肩を掴むと、力強く声を発した。


「忘れたかい? 私はハリウッドスターだ。全世界の子供の夢を守る責任があり、そして実際に――こういう状(・ ・ ・ ・ ・)況には慣( ・ ・ ・ ・)れている( ・ ・ ・ ・)


 私の言葉に驚いたのだろう、サラは「え」と声を上げた。


「『帰還不能系』……だっけ。それ以外にもこういうジャンルの作品に出演した経験があるの?」


「もちろんだ。もともと帰還不能系にも含まれている系統なんだがね。『極限サヴァイヴァル』の経験も、私は数多く積んで来た」


「じゃ、じゃあこのぐらいの密林でも平気なの……?」


「無論だ」


 私の返事に、サラはパアアッと表情を輝かせた。

 胸の前で手を合わせ、花咲くような笑顔を見せた。


 うん、やはりこのコには、素直な笑顔がよく似合う。


「安心したかい? じゃあ、まずは飛空艇を目指そうじゃないか」


 私が促すと、サラはハテナと首を傾げた。


「飛空艇を? それはまた、わざわざなんで? けっこういい感じに壊れてると思うんだけど……。エンジンが爆発して、けっこうな高さから墜落したし。どうやっても使えないと思うんだけど……」


「理由は二つだ。一つ目は水・食料・燃料・医薬品や衣料などの物資の確保。長距離を飛ぶ飛空艇なら、それぐらいの用意はしていて当たり前だからね。二つ目は生存者との合流だ。生徒に教師、乗組員。飛空艇の生き残りもおそらくは同じことを考えるだろうからね」


「そっかそっか、二人よりも三人、四人の方がいいもんね。あたしも会いたい友達いるし、それがいいかも。そうしようっ」


 拳を握ってうんうんとうなずくサラ。


「そうか、友達がいるのか」


「うん。というかたぶん、あのコあたしのこと探してると思うんだ。墜落の時、あたしってば例によって例の如く飛行術の制御に失敗して暴走しちゃったから。どぎゅーんって、地上に落下する流れ星みたいな感じになっちゃっってたから……」


「そ、それはよく生きていたな……。しかしそうか、そのせいで友達とはぐれたと?」


「うん、そうなの。そのせいで偶然出会ったゼクタたちと一緒に行動するハメになっちゃってこんな目に。えへ、えへへへへ……」


 当時の状況を思い出してだろう、気まずそうに頭をかくサラ。


「ふむ……」


 サラの暴走云々の下りはともかくとして、当面の私たちの行動方針はそれでいいだろう。

 第一位が密林の中で生存するための水と食料探し。

 第二位が飛空艇を向かうこと。同率二位がサラの友達探し。


 それはそれでいいとして……だ。


「あの子供たちは、今どうしているんだろうな?」


 サラを罵倒し、私ともども『追放』した乱暴者のゼクタとその仲間たち。

 彼らはこの圧倒的な密林の中で、どこでどうして生き延びているのだろうか?

ニコの活躍に興味のある方はレビュー、感想、評価の☆などをくださると嬉しいです(/・ω・)/

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