「VSコボルド」
「この声は……コボルド!?」
怯えたように、サラが叫んだ。
「コボルドとは?」
「にににに二足歩行する犬よっ。森のドワーフって呼ばれるぐらい手先が器用で、多産だから数が多くてっ」
サラの説明が終わる前に、コボルドが部屋に侵入して来た。
身長は百六十~百七十ほどだろうか。
犬頭人身で、金属製の胸当てや腰当て、剣や槍で身を固めている。
ざっと見える範囲で数は十。足音の数からすると、部屋の外にはこの倍はいるだろう。
「ひええええ……すごい数っ」
「……下がっていたまえ」
怯えるサラを下がらせると、私はずいと前に出た。
コボルドたちとの距離を、わずかに詰めた。
「ちょ……ちょっとどうすんのニコ!?」
「無論、戦うのだ」
「戦うったって、あんた俳優でしょ!? 戦ったりするのも全部演技でしょ!?」
「ただの俳優ならそうだろうが、私はハリウッドスターだ」
サラの杞憂は当然だ。
普通は俳優が実際に戦えるとは思うまい。
だが、私は普通じゃない。
「スタント無しでも戦えるよう修練を積んで来た。本物の米国特殊部隊隊員にだって負けやしない。たかが犬コロ如き、相手にもならんさ」
私たちの会話を聞いていたのだろう、コボルドたちが騒ぎ出す。
「こ、こいつっ。言ってはならないことを言ったワン!」
「犬コロって……それを言ったら戦争だワン!」
ずいぶんユーモラスな語尾だな、と思った瞬間――
「ええい、やっちまうんだワーン!」
正面にいた一頭が、片手斧を振りかぶり遅いかかって来た。
が、私はじっとその場にたたずんでいた。
避けず、泰然と構えた。
片手斧の軌道が私の前頭部と交錯するその瞬間に、初めて動いた。
わずかに右へ――同時に左手を突き上げた。
左の掌底は狙い過たず、コボルドの顎をぶち抜いた。
「ぐわー……っだワン!?」
カウンター気味に掌底を喰らったコボルドは派手にぶっ飛ぶと、地面に倒れた。
後頭部をまともに打ち付けたのだろう、そのまま泡を噴いて気絶した。
まさか素手の人間にやられるとは思わなかったのだろう、同胞たちの間に動揺が広がる。
「いったい何が起こったんだワン!?」
「魔法……武術!? わけがわかんないワン!?」
尻尾を丸め、チラチラとこちらを窺い、明らかに怯えている様子。
「ふむ……このまま逃がした結果、どこかで待ち伏せされても叶わんな。ここはひとつ、この場で徹底に叩きのめしてどちらが格上かハッキリさせておこうか」
それに、ソフィアや天使たちの見ている目の前だしな。
私は胸の内でつぶやくと、チラと光球の方を見やった。
ソフィアがはしゃいでいるのだろう、光球が蜂のようにぶんぶん激しく飛び回っている。
「こいつ、明らかヤバい目してるワン!」
「きっと薬でもやってるんだワン! じゃなきゃ説明つかないワン!」
「ずいぶんな言われようだが……」
「ひいいっ!? こっちに来るワン!?」
勝手なことを言うコボルドにお灸を据えようと、私は一歩を踏み出した。
「これは古武術と呼ばれるものだ。日本に伝わる、伝統の武術なんだ」
喋りながら歩き、無造作にコボルドとの距離を詰めていく。
「私はアメリカのスラムに住んでいたんだがね。そこは治安が最悪で、毎日のように人が殺されるひどい街だった。自分や家族の身を守るために私は強くなる必要があり、そのために師匠のイトウに習ったんだ。子供であっても大人の男を倒せる方法を」
群れの中で最も図体のデカい栗毛のコボルドの手を取ると、もう片方の手をかぶせてそのまま外に捻った。
「ワン……っ!?」
コボルドは、次の瞬間驚きの声を上げた。
筋骨隆々の、いかにも力自慢という風貌なのにも関わらず、踏ん張ることさえ出来ずにゴロンと地面に倒れたからだ。
もちろん倒れた後は追撃だ。
顔面を踏み抜くと、コボルドは気絶し、動かなくなった。
「こ、今度はゴロー丸がやられたワン!?」
「群れ一番の巨漢のゴロー丸があんなに簡単に投げられるなんて変だワン!?」
「もしかしてすごい怪力なのかワン!?」
「力じゃないんだがね……まあわからんか」
怯えまくるコボルドたちに立ち直る隙を与えないよう、私は猛然と襲い掛かった。
掴んでは投げ、掴んでは投げ。
時に掌底を打ち込み、時に蹴った。
相手も必死で挑んで来るが、力任せの攻撃はすべてむなしく空を切った。
そして――半数が地面に転がった時点でコボルドたちは完全に戦意を喪失。
倒れた仲間を背負い、文字通り尻尾を丸めて逃げていった。
ニコの活躍に興味のある方はレビュー、感想、☆などをくださると嬉しいです(/・ω・)/




