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「痕跡探しと、突然の闖入者」

「任せておきたまえ。ジャングルでの人探しだってお手のものさ」


 親友パティマを思い涙を流すサラの肩を抱き、力強く慰めた。

 その瞬間――サラの体がパアアーッと強い光を放った。


「む、今のは……?」


「きっと神力だっ。ソフィア様たちが認めてくれたんだっ」


 いそいそとステータスカードを確認したサラが、わっと喜びの声を上げた。


「ほう、どれどれ?」


 肩越しに覗いてみると――

 サラの持つ健気さや友人を思う気持ちを評価してくれたのだろう、神力の値が2から35へと急上昇を遂げている。


「やったっ。やっぱりっ」


「ふむ、たしかに……」


 私は考えた。

 この状況を打開するために、増加分をどう消費するべきか。

 スキル『生命感知(小)』の威力を上げるためには追加で100必要ということもあり、普通は温存か、あるいは他のスキルを取得するか悩むところだが――サラは一切悩まなかった。


「あたし、これを取るよ――」


 躊躇なくサラが選んだのは『MP回復(微小)』だ。

 飲食や休息をとってもなかなか回復しないMPの回復量を底上げしてくれるスキルらしいが……。

 

「多少感知範囲が狭くたって、回数を増やせば問題ないわけでしょ?」


 なるほど、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという理屈か。

 たしかにその選択は悪くない。

 時に若者の暴力が達人の練達の技をねじ伏せることがあるように、地力のアップは万難を排するのだ。


「うん。いいね、生命感知もだが、それ以外にだって応用の利く素晴らしい選択しだと思う」


「そう? えへへへへ……。ホント、ニコはいつだってあたしを褒めてくれるねぇ~」


 心の底から私が褒めると、サラは照れて頭をかいた。

 目をぎゅうっと細めて喜ぶその表情に、先ほどまでの涙の気配はない。


「ちなみにニコは何か取らないの? もう67もあるんでしょ? 低いスキルなら3つも取れるじゃんっ」


「まあそうだが……」 

  

 スキル一覧を見渡したが、現在取得できる範囲で欲しいものはない。

 それにスキル(中)ならともかく、(小)で済ませられる範囲なら、今まで培った知識と経験でどうとでもできそうだ。

 

「何か欲しいものがあったら改めて取るさ。それまでは温存だな」


「わ、カタいっ。大人だなあ~っ。あたしだったらすぐにパーッと使っちゃうけど……」


 小さい頃からお小遣いが一週間もったことがないんだあと、サラは自嘲気味に笑う。


「ま、これから先のことを考えるとね。ハリウッドスターとしては慎重に行動せざるを得ないのさ」


 私はひょいと肩を竦めた。


 サラのテンションが上がってきたのはいいことだが、状況は未だ予断を許さない。

 パティマを見つけ、他の生き残りと合流しつつ魔境脱出を目指す。

 そのためにどんな困難が待ち受けているのか、まったく想像がつかないのだ。

 神力の無駄遣いは極力したくない。


「それはさておき、パティマ探しだな。MPが回復するとはいえ、無制限には使えまい。ある程度場所を制限する必要があると思う」


「そうだけど……そんなの出来るの?」


「言っただろう? 職業柄得意だと。サラの語る人物像に従うならば――」


 サラの語るパティマは、とても賢い少女だ。

 片時も本を手放さない本の虫で、計算と暗記が得意で。

 論理的思考を好み、感覚派のサラとは実に真逆な少女だといえる。


「飛空艇が魔物の狩場になったと知ったパティマは、当然だが他の拠点を探すだろう。それはすなわち、サラの居場所を探るのに最も効率の良い拠点だ。そしてこの場合の効率の良さとは、飛行術による莫大なMPの消耗を基準に考えられているといっていいだろう」


 魔境に不慣れな女の子だ、森の中を歩いて探すというのは現実的じゃない。

 ならば、いかにMPを回復しやすい安全な場所を拠点にするかが問題となってくる。


「人間が活動するには水と食料、火と基地シェルターが必要だ。その中で最も重要なのは水。人間の、生命の根源たる水を摂取する水場はしかし、人間だけでなく魔物にとっても重要なものなんだ。例えばワニのような生物が淡水域の頂点捕食者に位置するのはそのためだ」


「ええ~っと……、水の中でも行動できる上に、皆が油断してる隙を突けるからってこと?」


 こめかみに指を当て、うんうんと唸りながら推測を述べるサラ。


「うん、その通りだ。よくわかったねサラ」


「えへへ、やったねっ」


 頬を染めて喜ぶサラの頭を撫でて褒めると、私はさらに続けた。


「サラの言う通りで、水を飲むその瞬間こそ人は最も無防備になるものなんだ」


「ああそっか、じゃあ……っ」


 ぴこん、とばかりに頭上に豆電球を浮かべるサラ。


「パティマは半水棲の大型生物が生息しない、小さな川の傍にいる?」


「そうだ。それも沢といっていい程度の小さなもので、周囲には飛行術を使うのに邪魔にならない程度の木が生えている。洞窟のような身を隠しやすいものがあればなおいいな。そして君になら(・ ・ ・ ・)、そのリストアップが出来るだろう?」


「うん……うんっ。じゃあさっそく、やってみるっ」 


 満面の笑みを浮かべたサラは、親指と中指を弾いてパチンと鳴らして『生命感知』を起動した。

 ブゥン、という起動音と共に出現したホログラムっは周辺一帯の生物と地形を表示した。


 無数にある沢の中から、先ほど私の挙げた条件に合うものを選んでいく。


「……あれ? これって?」


 ホログラムを目にしたサラは、しかしすぐに驚きの声を上げた。

 

 無理もない。

 ホログラムの中心にいる私とサラに向かって猛スピードで迫る、二つの光点があったのだから。


 その一つは『人間(女)、エイダ』。

 もう一つは『魔物トロール、オデール』だったのだから――

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