「飛空艇へ」
翌朝、夜の明けきらぬ内から起き出した私は、まずは朝食を作った。
昨夜の一角猪の肉が余っていたの香草をまぶして焼き、キノコをつけ合わせただけの簡単なものだが……。
「ふぁああ~……おはようニコ。――わお、今日も今日とて美味しそうなご飯だねえ~」
ベッドから起き出しふにゃふにゃと緩いあくびをしていたサラだが、大きな葉の上に並べられた食事を見るなりパチリと目を開け、歓声を上げた。
一気に目が覚めたのだろう。ふんふんと興奮しながら、肉の焼ける匂いを嗅いでいる。
「肉が多くなりがちで悪いがね」
「全然問題ないよ~。あたしお肉大好きだもん♡」
さっそくとばかりにかぶりつくサラ。
初日にあった魔物食への忌避感はどこへやら、最高級のジビエに喰らい付くかのような面持ちだ。
「んんん~、いい歯ごたえ♡ 外はカリカリで中はジューシーでいい焼け具合♡ 美味しいご飯が食べられて幸せだあ~♡」
幸せの極地、とでもいうかのように頬を緩めて褒めてくれるサラ。
そこまで高評価を与えてくれると、こちらとしても作り甲斐があるというものだ。
「ま、サバイバルにおいてタンパク質は最も重要な栄養素だし、人跡未踏の魔境という状況下を考慮して、大目に見てもらうことにしよう」
「うお……けっこうガチで考えてるのね。さすがだわ」
「ちなみに行動食の用意もしてあるぞ。木苺などの糖分を多く含んだ果物類と、昨夜のうちに仕込んでおいた一角猪の燻製だ」
「おお~……」
さも感心、といった風にパチパチと手を叩くサラ。
「ところで、ん~と……え~とだねえ……?」
肉を喰ったら食後のデザートが欲しくなったのか、物欲しそうな目をすると。
「ちなみにだけど、あたしが持って来たお菓子とかは食べなくていいの? 甘くて、美味しいよ~?」
チラチラと、自らの鞄に目をやる。
ここまでの流れ上、そう簡単に口にするわけにはいかないと知っているのだろう。
私に許可を求めているようだが……。
「そっちはまだだ。チョコにしろ飴玉にしろ、長期間保存が効く上にハイカロリーな食料だからな。いざという時のために取っておきたいんだ」
「ぐぬう、なるほどぉ~……」
よほど悔しかったのだろう、歯を食い縛って唸るサラ。
食べたい盛り、育ち盛りの子供の願いだ。
できるならば叶えてやりたいところだが、ここはさすがに譲れない。
この先私がケガをして獲物が獲れないということがあるかもしれないし、ハイカロリー食であり魔境で採取しづらい栄養素を持つ食べ物は大事にしたい。
私は心を鬼にして話を続けた。
「さて、そうと決まったら出発の準備だな。持っていくために荷物は準備しておいた」
「荷物を……準備しておいた?」
はて、と首を傾げるサラの前に、私は朝から準備しておいた荷物を並べた。
どれもこれも、それほど重いものじゃない。
竹を切って作った水筒の中に蒸留水を入れ、葉を丸めて作った弁当箱の中に木苺などの果物や、燻製の猪肉などの日持ちのする行動食を入れただけ。
だけどサラは、表情を輝かせて喜んだ。
胸の前で手を合わせて、瞳の中に星を瞬かせて歓声を上げた。
「いいねえ~っ、こんなに豪勢なお弁当があると気分が盛り上がって、遠足みたいな感じがするねえ~っ」
美味しいご飯を食べたサラは一気に元気になった。
親友を探すというモチベーションも後押ししたのだろう、昨日みたいに早々にへたばることもなく、私の後ろに必死に食いついてきた。
また、『生命感知』の力も大きかった。
魔物を避けるだけではなく進みやすい地形を選ぶことが出来るようになったことでさらに道行きはスムーズになり、正午前には二つの丘を越えて飛空艇を見下ろす高台にたどり着くことができた。
これで食料品などの物資を調達できる。
生き残りと合流し、力を合わせて魔境を脱出することが出来る。
そんな風に、思っていたのだが……。
「ねえニコ。あれ……何?」
その有り様を見て、サラがいかにも不安そうな声を出した。
顔を青ざめさせ、棒立ちになった。
まあ無理もない――
だって、彼女がちょっと前まで乗っていた飛空艇。全長百メートルを超す機体は中央から真っ二つに折れ、ぶすぶすと焼け焦げていたんだから。
生徒に教師、乗組員含めた数十名の姿はすり鉢状の盆地のどこにも無かったのだから。
飛空艇にたどり着いた二人が見たものは?
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