「サバイバル・イン・ザ・ウッド」
「この調子で飛空艇を目指すんだ。君の友達を見つけ、他の生存者と合流し、魔境を一気に脱出するんだ」
「うん、わかったっ。行こうニコっ」
決めゼリフも構図もバッチリ決まり、同行者との息もピッタリな最高の出だし。
これなら魔境脱出も時間の問題かと思われたが、事はそう簡単には運ばなかった。
何よりも問題なのは、魔境の気候と地形だ。
つる植物や下生えの密集する熱帯雨林で、温度が高く湿度も高い。
襲い掛かって来るのはただの獣ではなく魔物で、そのデカさやどう猛さは元いた世界のジャングルのそれとは比べ物にならない。
さらに問題なのはサラだ。
サラが履いている魔法学院のスカートではちょっとした倒木を乗り越えるのだって大変な苦労だし、足元は滑りやすいローファー。そもそも本人が運動苦手ときている。
だからといって飛行術で飛ぶには制御能力に不安があるし、MPと呼ばれる精神力の消耗だってバカにならない。
かといって休み休み進んでいたのでは、いつまでたっても飛空艇にたどり着かない。
「よし、ではこうしよう」
切り出した木で椅子を作ると、つる植物でベルトを作って私とサラの体を背中合わせで固定した。
キャリーボーン、あるいは背負子と呼ばれるものだ。
大きな荷物を背負うが如く、あるいは母が我が子を背負うが如く、私はサラを背負って移動することに決めたのだ。
「うう~……まさかこの歳になってこんな辱めを受けることになるとは~」
私に背負われる格好となったサラは、真っ赤になった顔を手で覆った。
「この歳といっても、まだ十五だろう?」
「十五は十分に歳なんだよお~。とはいいつつ足手まといなのもわかってるし、わかってるしぃ~……」
いい歳こいて父親に肩車されているような感覚なのだろう、サラはうんうんと唸っている。
自分の体力不足が原因だとわかっているだけに辛いところなのだろうが。
天使:おっさんと少女の組み合わせ……イイ!
天使:凸凹コンビ感好き。
天使:ご飯何杯でもいけますわ
女神☆ソフィアたん:いろんなことを考えるものだのう~(*'ω'*)
試しに『天声神語』を起動してみると、光の軍勢には総じてウケがいい模様。
うん、やはり単独でなく私とサラのコンビ感を出していくほうが良さそうだなとひとり納得していると、サラの苦悩もようやく納まったようで……。
「わかった、このまま行こう。とはいっても運ばれてるだけなのも心苦しいから、周囲の警戒はちゃんとしてるからね。絶対、不意打ちなんかさせないから」
力強く杖を握りながら、そんな風に申し出てくれた。
ギンギンと目を光らせ、いかにもやる気満点といった風だが……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……いや、ホントにすごいわね。まったく休みも無しでここまで来るなんて。道中、魔物の襲撃もまるでなかったし」
背負子から降りたサラは、拍子抜けしたように辺りを見渡している。
「職業柄、体力や索敵に関しては自信があってね。安全安心に先を行くことは得意なんだ」
「にしてもさあ……。もうちょっとこう、ピンチとかそういう……やあまあ、文句を言う筋合いは何一つないんだけどさ……っていかんいかん、何を考えているんだあたしはっ!」
何かを振り切るようにぶんぶんと首を左右に振るサラ。
「と、とにかくこれ以上ないほど順調に進んでいるようで結構ねっ。正直もう、あの丘を越えれば飛空艇に着けるぐらいの距離にいるわよっ」
「おお、そうか。それは良かった」
時間としてはもう夕方といったところだろうか。
急速に薄暗くなってきたので行動を中止したのだが、距離的には相当稼げたと思う。
直線距離にして五キロ程度。途中何度か迂回したので、十キロかそこらは進んだはずだ。
あとはサラの勘(飛行術で飛んでいた時の感覚)さえ正しければ、明日の昼前には飛空艇に辿りつけるはずだ。
なあに、多少ズレていたとしても修正できるだけの知識と経験はある。
「そうなると、あとは休息と補給だな。体を休めて明日以降の行動に備えるとしよう」
「備えるって、具体的には?」
「もちろんキャンプだ。ここらの平たい地面を拠点にして、飲み水や焚き木の確保、同時並行して食料の確保も行うつもりだ」
「さすがに手慣れてるわね……ってかもはや聞くまでもないことだけど……それもやっぱり?」
「職業柄、サバイバルには慣れているのでね」
「はああ~……あんたってホントに……」
呆れ半分、感心半分でため息をつくサラ。
「ちなみにあたし、キャンプなんてしたことないんだけど。その辺に関する説明も?」
「もちろん、バッチリだ」
野外でのキャンプなどしたことのないサラや光の軍勢に説明しながら、キャンプを設営を行っていく。
まずは火の確保ということで、焚き木を集めた。
次いで枯れた木の枝を擦り合わせて火を起こすと、サラが「わあ」と歓声を上げた。
炎という文明の光を目にした瞳に、希望の色が赤々と反射していた。
火の次は水だろう。
喉が渇いていたサラが近くを流れていた小川に直接口をつけて飲もうとしたので止めると、生水に潜む病原体や寄生虫などの危険性を説明した。
体内で爆発的に数を増やし最終的には脳にびっしりと貼りつく寄生虫の話をした時には、サラは「ひいいい」と顔を青ざめさせていた。
『天声神語』ももちろん、悲鳴でログが埋まっていた。
生水を飲むにはきちんと煮沸しなければならない。
なので、朴の葉に似たひと抱えほどもある大きな葉の上に乗せて運び、火で煮沸することにした。
近くに竹もあったので数本切って水筒とし、明日以降の飲み水にしようと考えた。
幸いなことに、食料は豊富だった。
ヤシに似た実があり、木にはバナナに似た実がなっていた。
魔境には食用可能な――どちらかというと一般的な動物に近い形態の魔物も豊富におり、食料不足に悩まされるということはなさそうだった。
『双頭ヘビ』の串焼きは見た目のグロさに反してあっさりとしていて癖がなく、『一角猪』のキイチゴ焼きは甘く香り豊かだった。
「ま……まさか魔物を食べることになるだなんて……」
最初は嫌がっていたサラも空腹には勝てず、恐る恐る口にしたところ……。
「これ美味しいっ。すんごく美味しいっ。街の食堂で出したらお客さんが列になるレベルだよ!?」
顔をピンク色に染めてべた褒めしながら、ものすごい勢いで食べていた。
まさかの飯テロを喰らった形の『天声神語』は、これまた悲鳴でログが埋まっていた。
辺りが闇に包まれる頃には木の枝と葉を組み合わせた簡易ベッドが完成した。
疲れた体を横たえる場所が出来たことに喜んだサラは、私の肘を掴んで大盛り上がりだった。
ホウホウ、ギャアギャアと鳥や獣、魔物が鳴き交わす。
初めて訪れた世界、初めて訪れた魔境での夜が始まった――
ニコの活躍に反するように沸き上がる、サラの悩みとは?
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