8 順調な旅
彼らが検問を終え、町に入ると、レノンは彼らに言う。
「6時頃になったら、君たちが泊まる宿に併設された食堂でご飯を食べよう。の時に明日の予定なども伝えるから」
彼らは頷いた。その後、レノンは商人用の宿へ、フォージャーズは宿と肉屋へと歩いて行った。
レノンは宿について部屋を取り終わると、すぐに馬車用の小屋に向かった。そして、馬車の施錠をしっかり行った後、ガラハドに餌や水を用意した。
その後彼は、フォージャーズの泊まる予定の宿に併設された食堂に訪れた。レノンが到着する頃には既に彼らは席を取っていた。そしてレノンはそこに加わる形で座る。料理の注文を終えるとご飯が提供される前に、簡単に明日の予定を話すために地図を広げて言った。
「次の目的地は、この町を予定している。日数は三日を予定している。わかっているとは思うが野営を2日するつもりだ」
カイルが訊く。
「他に何か連絡事項はあるか?」
「特にないな……そうだ、お酒はできるだけ控えてくれ。明日に影響が出ると困るから。それと、明日の集合は町の市場の入り口にしてくれ。時間は今日と同じで」
彼らはご飯を食べ終わると、明日に備えて、自分の泊まる宿へと戻っていった。
翌日にレノンは、一人で朝市に向かった。余分な食料が一日分残っているが、迷いなく彼は三日分の食料を買うことを決める。前日にミリアとドレイクが大量の鳥などを狩っていたことを考えて、購入する肉などのたんぱく源を少なくした。彼は買い物を終えて、入口の方へと5人分の食料をもって歩いていく。入り口付近まで到着すると、レノンを待つ4人の姿が見えた。
「おはよう。みんな」
彼らは、後ろから声を掛けられて驚きながらも挨拶を返す。
「おはようございます」
「昨日も話したと思うが、今日から次の村まで、3日かかる予定になってる。とりあえず、ここに三日分の食料を買ったから、宿まで持っていくの手伝ってくれないか?」
そこまで、男性陣で手分けをして、食料を持ち、レノンが泊まる宿まで戻った。
それらの荷物を、馬車に荷物を載せ終わり、馬車を道までレノンが出す。
「ここの食堂は開くのが遅いから、先に出発しよう。簡単に食べられるものも買ったから、進みながらになるけど、ご飯を食べてくれ」
加えてレノンは言った。
「1人ずつ朝ごはんを食べてくれ。もし馬車の中で食べるなら、それでも構わない。あんまり広くはないから、許してくれ」
カイルはメンバーに言う。
「町の近くは、魔物が出る確率は低いだろうから、先に俺が食べるよ。その間はドレイクが少し前を歩いてくれ。食べるのにそんな時間はかからないだろうから直ぐに後退するよ」
ミリアはレノンに訊いた。
「今日の買ったものの中身、お肉が少ないのは何か理由があるんですか?」
レノンは彼女に言った。
「理由はあるよ。昨日君たちが、鳥やウサギを捕まえてきたのを見て、干し肉食べるよりもいいだろうと思ったんだ。もし、ウサギや鳥をとってきてくれたら一羽当たり報酬として、俺が50ゴールド払うというシステムにしようってね。君たちも儲かるし、いいだろ?」
レノンがそう言うと、カイルが口を開く。
「レノン、金無くなるんじゃねーか。そんなことしてたら」
レノンは彼に言う。
「なるようになるさ。それに1日2羽までだよ。消費できないのはもったいないからな」
ミリアの目には、お金のマークが見えたように2人は感じていた。
フォージャーズのカイル以外のメンバーはローテーションを決めながら道を進む。ご飯を食べ終えたカイルがすぐにドレイクのところまで走っていき、ドレイクが交代でご飯を食べ始める。サラがレノンに訊く。
「カイルって昔はどんな感じでしたか?」
「どんな感じか……まあ、あいつは単細胞みたいな感じで、、モンスター討伐の依頼なんかは、しっかり前線を張ってくれるから、同じ前線やっていた自分は助かってたよ」
「今とそんなに変わりませんね」
「今はどんな感じだ?」
「うちのチームはリーダーはカイルですけど、基本的に指示出しはドレイクがやりますからね。この依頼中はそこまで喋ってませんけど」
ドレイクはそれが聞こえていたが、特に反応をすることは無かった。
その後も5人は、適度に話しながら道を進んで行った。
道の周りには少しずつ、木の高さが低いものが増えていき、空気がカラっとしてきた。
レノンはその状況を考慮して、みんなに言った。
「こまめに水分飲んでくれよ」
カイルは、そんなレノンの姿を見て、統率力の高さを改めて感じていた。
レノンがカイルに言う。
「なんで、俺見て笑ってんだよ、カイル」
「いや、まあな、何でもないさ」
その後、彼らが休憩を挟みながら道を進んでいると、ミリアが弓を手に持ち、背中の矢筒の矢に手をかける。彼女は急に弓を構えて、木のほうに矢を放った。
「よし」
ミリアは短くそう言って、木の足元から矢が刺さっている鳥を持ってくる。
そして、レノンの方へそれを突き出して言う。
「50ゴールドお願いします」
レノンは苦笑いしながら言った。
「ちょうどいいから、ここで昼休憩にしよう。料理は誰か頼む」
彼らは、休憩の準備を始めた。今回はドレイクが料理を始める。
レノンは、ガラハドに水をしっかりとあげてからブラッシングをしていた。
料理が完成すると皆で簡易的な机を取り囲んで食事をする。そこからは、こまめに休憩を取りながら、道を進む。暗くなる前に、彼らは予定していた野営地点に到着する。
野営地点に到着すると、直ぐにミリアが鳥を探しに野営地を飛び出していった。一方で、カイルは簡易的なテントを組み立てた後、今日の最初の見張り役に備えて睡眠を始める。晩御飯当番はレノンであったが、サラの手が空いているので、彼女が主導で晩御飯の用意が始まる。ミリアが鳥を一羽ほど持って帰ってくると、それを焼いて料理が完成した。彼らがご飯を食べ終わるとレノンは積み荷や食料の確認をしていた。
「水が思ったより消費が激しいな」
みんながいることを確認してレノンは地図を取り出して、皆に言った。
「今日は思ったより日差しがきつい中歩いたから、水の消費が思ったより激しかったんだ。だから。明日はあまり日が高くないうちに距離を稼ごうと思う。野営場所は、そこまで距離を稼げないけど、川の近くにして水も確保するつもりだから、よろしく頼む」
「そのペースだと次の町に予定通りつけそうか?」
ドレイクがレノンに訊く。
「正直分からない。でも、一日分余分に食料はあるからそこに関しては問題ないはずだ。水だけが不安だけど……」
「まあ、依頼者には従うよ」
日が落ちてしばらく経った後、彼らは眠り始めた。
その夜は獣の声がよく響いていた。
――シルバーヘイブンを出発してから三日目の朝
フォージャーズは4人でローテーションを組んで、夜の間に見張りをしていた。最後の見張りを行っていたドレイクは起床したレノンに声をかける。
「おはよう。夜は特になにもなかったぞ」
レノンは彼に言う。
「ありがとう。朝は簡単なものを俺が作るよ」
レノンは一番に起きたので、朝ごはんを作ることにした。彼は、馬車の後ろからパンや肉などを取り出した。その後、焚火から火種をとって、丸く並べられた石の中の枯草の上に置く。そして、息を吹きかけ、火種が枯草に移ったのを確認して、その上から枯れ木を折りながら入れていく。火が大きくなったのを確認し、フライパンを石の上に置く。そして、ベーコンを適当に切ってフライパンに入れる。ベーコンの焼けるいい匂いを嗅いでドレイクが言った。
「正直今眠気がきてるけど、この匂いを嗅ぐと流石に腹が減ってくるな」
「自分も寝起きだけど、食欲がでてくるね。そうだ、皿を持ってきてくれ」
ドレイクは乾かしておいた皿をレノンの元へ運ぶ。その間にレノンは、適当に葉野菜を切り分けながら、フライパンの確認を行う。そして、皿にベーコンと野菜を適当に盛り付けていく。レノンはドレイクに訊く。
「俺はパン焼くつもりだけど、ドレイクはどうする?」
「どうせなら、焼いてもらおうかな」
レノンは2人分のパンを焼き始める。少し手持無沙汰なドレイクは、二つのコップに水を入れて持ってくる。パンが焼けると二人はご飯を食べ始めた。
2人がご飯を食べ始めてすぐに、他のメンバーも起きてくる。
彼らはお互いに挨拶をしてから、他のメンバーのベーコンをレノンがフライパンで焼き始める。レノンがカイルに言う。
「カイル、俺は飯食うから、適当に朝ごはん作ってくれ。ベーコンは焼き始めてる」
「ああ……」
カイルは目をこすりながら返事をする。そして朝ごはんが完成すると、三人も食べ始めた。レノンとドレイクは一足先にご飯を食べ終わり、急いでテントなどの片づけを行っていく。
ドレイクはレノンに言う。
「この感じなら、直ぐに出発できそうだな」
「まあ、みんながおきてくれたからな」
全員がご飯を食べ終えて、彼らは野営の片づけを行った。
――そして、彼らは準備を終えて出発する。
ドレイクは終始あくびをしていた。それを見たレノンは言った。
「ドレイク、馬車の中で寝てても大丈夫だぞ。今のところ、特に何も起きてないし。流石に寝不足は集中力に悪い影響が出そうだしな」
「本当か? 助かるよ。正直、眠気で頭がパッとしなくて」
ドレイクは、馬車の中に消えていった。
サラは言った。
「私は何回か商人の護衛依頼を受けたことありましたが、こんなタイプの商人は初めてですね。金払っている分しっかり働けよというタイプばかりでしたから」
カイルがそれに答える。
「元冒険者だからってのもあるが、レノンは昔から視野が広いんだよな」
レノンも言う。
「まあ、商人続けて言ったら、数年後にはそうなってるかもな。一応、最悪前衛なら俺が変われるってのもあるけどな」
この日も特段なにもなく、目的地に向かって進んでいた。何度かレノン達の様な馬車と素の護衛の横を彼らは追い抜いて、道を進んでいく。午前中に彼らはいつもより休憩を一回減らして歩いた。彼らは少し顔に疲れの色が見え始めてくる。レノンは再び、水分をとることを促した。一回目の休憩の後からドレイクが復帰してくる。
「休憩させてもらって助かった。ここからは任せてくれ」
「頼むよ。今日は結構ペースを速めて進んでるから、元気な人間がいるのは心強い」
二回目の休憩を終えた段階で、急に馬車が止まった。レノンは急いで、ガラハドに止まるように声をかけて、状況の確認を行うために馬車から降りる。サラが馬車の左の車輪を見て言った。
「車輪が溝にはまってますね」
その後、レノンは少し慌てながら、馬車から離れたカイルに声をかける。
「車輪が溝にはまってしまって、持ち上げるしかなさそうなんだ」
カイルはそれを聞いて立ち止まる。ドレイクがレノンに声をかける。
「俺に任せてくれ」
ドレイクが腰の剣を鞘から抜き、呪文を唱えると、車輪がはまっている溝が隆起し、車輪が動かせるような状態になる。ドレイクがレノンに言った。
「これで大丈夫だ。さあ、進もう」
「魔法が使えるから、中衛ってことになってたのか。助かったよ」
レノンは急いで、御者席に戻り、馬車を走らせる。そして、レノンはドレイクに訊く。
「剣と魔法どっちが得意なんだ?」
「ん〜。どっちかと言えば魔法の方が得意かもな。でも、剣が好きだから杖じゃなくて剣を使ってるんだ」
「斥候できるメンバーがいたら完璧だな」
サラはそれを聞いて言う。
「ほんとにそうなんですよね」
彼らは何度か馬車とすれ違いながらも道を進み、昼休憩を行う。
「今日は長めに昼休憩をとらずに行くよ。日差しは強くなってきてるけど、今日の目的地はそこまで遠くない。みんな頑張ろう」
レノンはそう言って、馬車に積んでる食料の中から、簡単に食べれそうなものをみんなに配る。皆がご飯を食べ終わってから少し時間が経過するとレノンは言った。
「少し休憩は短いかもしれないけど、先を進もう」
そして、予定した川の近くの野営ポイントに到着する。
「みんなお疲れ。まだまだ日は高いけど、野営の準備を始めよう。準備が終わり次第水浴びなどを交代でしようか」
女子のメンバーは水浴びに喜びの声を上げる。レノンは、いち早く馬車から鍋を下ろして、川の水を鍋に汲んで過熱を始める。そして、ガラハドに水をあげるために川へと連れて行った。設営が終わると女子組は水浴びに行き、レノン達は、日陰で彼女たちが戻ってくるのを待った。
彼女たちが戻ってくると、レノンは訊く。
「今日は誰か狩りにいくつもりはあるか?」
「私行きます」
ミリアは、元気よく手を挙げる。ドレイクは彼女に訊く。
「さっき水浴びしたのに行くのか?」
「また浴びればいいじゃない。じゃあ行ってくる」
ミリアは弓と矢を持ち飛び出していく。それを見て、カイルが後ろを追っていった。暫らくすると一羽ずつ鳥を持ちながら、ミリアとカイルが戻ってくる。
「50ゴールドを二つお願いします」
レノンは喋りながら、ポケットの袋から100ゴールドを渡す。
「後で、もう一度鍋使わせてもらうよ」
レノンは煮沸を終えた水の入った鍋を馬車の近くまで持っていき、水を入れている樽に入れた。その後、男性組は川で水浴びをした後、服などを川で洗ってから適当なひもを使って、乾かした。その後、ご飯を食べてから明日の予定を地図を見ながら共有する。周りが暗くなり、何もできることが無くなったので、見張りを一人残して、皆が横になった。この日は特に星空が輝いていた。
次回
トラウマ