二人目が話す前に
来たる文化祭の出し物を怪談の朗読にしたのは放送部顧問の鶴の一声だったが、おあつらえ向きに放送室に七人の生徒が集まったのはただの偶然だった。
"求ム怪談話!!七不思議!!"
デカデカとしたそんな文字のみが書かれたポスターを見て、この日七人もの生徒が集まってくれるなどと放送部の部員は誰も予想してなかったのだ。
元々狭い放送室はあなや!満員電車のような様相を呈し、放送部部長は準備不足と見通しの甘さを痛感していた。急遽用意したガタガタの年季の入った椅子に座れたのは自分だけで、録音係などは机の横で身を小さくして立たねばならなかったし、部員の中には部屋の隅と同化したかのように縮こまっている者も居る。放課後に空いている教室など幾らでもあるのだから、使用の申請はそれ程苦労なく通っただろうに。甘い見通しの代償は部員たちの突き刺すような視線だ。
それでも何とか一人目の話が終わった。その一人目がこのぎゅうぎゅうの放送室に嫌気が差して出て行ってくれれば、少しは新鮮な空気の分け前が多くなるだろう。
部長のそんな願いは、だが届かなかった。一人目の生徒会総務は話し手用の椅子から立ち上がると、放送室の壁に背を預けたのだ。どうやら二人目の、ともすれば最後まで話を聞くつもりのようだ。そもそも怪談の類が好きでもなければわざわざ話に来たりはしないだろうし、これもまた部長の先見性のなさの結果だった。
勿論招いた方が、帰ってくれ、などとは言えない。そんなことを言えば、やっぱり俺の話は使わないでくれ、と断られる可能性もある。他の話し手たちの不興を買う恐れだってある。だから部長は内心の憂鬱な気持ちを出来るだけ出さないように努めて、二人目が話し手用の綺麗な椅子に座るよう誘導した。
二人目は一人目と違って女子生徒だ。次はどんな話が飛び出すのか。部長は放送室の時計を軽く見てから居住まいを正した。