表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/188

99 あっけないようで

私ユリナは、ジュリアへの奇襲に成功した。


襲撃場所に渓谷地を匂わせたが、本命は最初から大聖堂だ。


あいつはデモンストレーションで大技「ファイアバード」を撃った。息も整わないうちに、無防備な緩んだ笑顔で大聖堂に向かって歩いてきた。


そこに飛び込んだ。


スライム変換した体で落下しているとき、気付かれたと思った。だけど超一流の冒険者らしくないほど反応が遅れ、脚と腹にスライムアタックを打ち込めた。


本当は顔面を狙っていたが、落下スピードが速すぎて、私のタイミングが狂った。


「『超回復』&破壊的絶対領域」


ぱーーーん。


やつは両足が爆散し、空を飛んでいる。



襲撃されるなら渓谷地と決めつけ、気持ちはユルユルだったのだろう。本物の貴族になりかけて、冒険者時代の寸分の隙も見せないジュリアはいなくなっていた。


左右の足だけでなく腹も裂いた。出血がおびただしい。いかにジュリアでも致命傷だろう。


回復魔法を使えるやつは敷地内に山ほどいるが、魔法で治せるレベルではないはずだ。



街から6キロ先の溪谷地を襲撃場所として匂わせたが、みんな嘘だ。その位置で決行するとは言っていない。


中型ランドドラゴン変身でドラゴニュートのパワーを借り、真夜中に大聖堂の裏側から屋根に登った。


あとは3日間、裸で体をスライム変換して屋根にへばり付いていた。


渓谷地は、いかにもな襲撃場所をジュリアが用意していたのだと思う。私も子供の姿になって渓谷の上に登ったが、監視者がいた。そして、退路を防ぎやすい構造になっていた。


だから、ジュリアに恨みを持つ人達には悪いが、体を治して嘘を言った。


私が援護射撃を頼んだ位置は襲撃ポイントの反対側の森に逃げやすい。

ジュリア襲撃の一報が届いたあとに、何とか自力で逃げて欲しい。


彼らの復讐心は理解できるが、死んで欲しくない。生きて体が無事なら、また希望が生まれる可能性がある。



地面に落下したジュリアがこちらを見た。着ているドレスもぼろ布だ。

私はスライム変換からジュリアへの体当たり。体は160センチから90センチまで縮んでいる。


「私達と同じように、奈落の底に落とされた気分は、どう?」


「だれ・・、なにが、おこった・・ユ、ユリナ・・・」


もう奴の顔には生気がない。




死亡まで確認したいが、逃げるなら今しかない。みんな、ジュリアの上に落ちてきたように見える、裸の幼女である私に呆気にとられている。


100メートルの通路には神殿騎士が山ほどいて、敷地の外は群衆だらけ。


だから私は大聖堂の入り口を支える騎士の横をすり抜け、大聖堂の中に飛び込んだ。中には儀礼を執り行う人間ばかりで、騎士はゼロ。


大聖堂の奥に突っ走り、関係者の通用門から大聖堂を出た。敷地からの裏口に騎士が1人いたが、彼はまだ何も知らない。


裸の幼女に驚いているうちに、鉄の棒を収納指輪から出して殴った。ダメージはないが、相手が怯んだ隙に脱出した。


教会の敷地から出る直前に、ダチョウ肉と青い鱗を出してドラゴニュートに変身しなおした。


あとはひたすら1200キロ先のオルシマまで走るだけだ。犯行の直後だから、街の出口に警戒は敷かれていない。普段の身分確認はあるが、それも振り切って街からの脱出に成功した。


後ろから聞こえた怒声も、あっという間に聞こえなくなった。



大聖堂を襲撃ポイントに選んだ理由は2点。


まず1点目は単純に平面では、どの角度から攻めても勝ち目がなかった。ジュリアは魔法ばかりが目立つが、近接戦闘も一流である。


私達はジュリアらの「狩り」に同行したことがある。


あいつら6人は、オール魔法使い。だけど交代で前衛をこなしていた。


ジュリアがショートソードと盾を使い、オーク3体を仕留めたのを見たことがある。ジュリアは初めて会ったとき、すでにレベル90でHP1260とか言っていた。


奇襲が決まって簡単に倒せたように見えて、そこにしか勝機はなかった。


魔法か武器を使われたら負ける。私の中ではギリギリだった。


落下位置がずれて怪我を負わせても、ジュリアは民衆を盾にしてでも逃げて、態勢を整えていただろう。


正直に言えば「スイッチが入ったジュリア」が怖かったのだ。



大聖堂を選んだ2点目は、ここが教会勢力の収める場所だからだ。


もし渓谷地でジュリア襲撃に成功していても、そのときの護衛達が責任を取らされる。状況によっては処刑者も出るかもしれない。


人を殺しにきて矛盾しているが、それは嫌だと思った。



逆に、教会上層のやつらが、今回の襲撃の責任を取らされ、多くの人間が処罰されても構わないと思っている。


だってミールに最後に会ったとき、彼女を虐待していた聖騎士について聞いた。そしたら「教会上層の人間なんて死んでもいい」と言った。


彼女の言葉は私の中で何より重い。


だから目の前で護衛対象を殺された神殿騎士が、降格されようが処刑されようが気にならなくなった。



◆◆

色んなことを考えながら突っ走ること8時間。少し日も傾いて、ここからは人に正体をつかまれる危険性は少ない。


ほぼ裸でスピードアップする。行きの3倍くらい走ることに集中している。オルシマの街に到着するのが早いほど、ジュリア襲撃の犯人として疑われる可能性が低くなる。


私が逃げるときまだ、ジュリアは生きていた。長く持たないだろうが、私の名前を誰かに告げる可能性は大きい。


捜査の手が及ぶ前に、自分のアリバイを作りたい。


ジュリアを襲撃して28時間後、往路とは比較ならないダチョウ41匹を「超回復全力走行」で消費してオルシマの街に着いた。その足で冒険者ギルドに入った。


夕方だ。


時間的に受付カウンターは混んでいた。私の順番が来るまで30分か。


「あ、いけない」


前に記録を残してから9日目。アリバイ作りに、タイムカードに記録を残すことばかり考えていて、ギルドに来る理由を考えていなかった。


「どうせなら、インパクトを残して空白の時間を埋めよう」


自分の順番が来たとき、収納指輪の中で持て余していた「アレ」を出した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ