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96 私がなくしかけてる気持ち

拠点のオルシマから1200キロ。ジュリアを倒しにマイミ侯爵の領都ガーサまで走ってきた。

そこで男戦士エイル、女性斥候ヘルダと会った。


「俺達は信頼してたジュリアに儲け話があると言われ・・」

手でエイルを制した。


「ジュリアは侯爵の娘で、隣国の侯爵の嫁になる。それを殺す私達は重犯罪者になる。余計な情報はお互いに持たない方がいいよ。名前も偽名で」


「しかし・・」


「私は仮名をユーとする。3人の仲間を殺された。そして私も殺された」


「私達は2人の仲間を失った。そして私はジュリアに焼かれて一年も動けず、彼は左足の膝から下を失った」

「だけどユーさん、自分も死んだって・・」


「私はジュリアの火炎を浴びながら、不思議なスキルを手に入れた」


ジュリアの「被害者」を放っておけない。だけど今後のリスクは減らしたい。


だから、少し事実を歪めて話す。


「こんなスキル」


相手の返事も待たずエイルの足首に触れた。


「神よ・・」

今は唱えただけだ。


「何も起こらないね・・」


1分くらい適当呪文を唱えて『超回復』


パチッ。ばきぃん。


「うそっ」

「あ、あ、足が。義足が弾けて足が」


「ヘルダさんも来て」


彼女のシャツを脱がせて背中を見ると、火傷跡はあっても治っているように見える。だけど触ると左の腎臓、その下は確か膀胱か、その辺りが壊れている。


この2年間、復讐のために壊れかけた体で頑張っていたのだろう。


『超回復』じゃばっ。


「きゃああ」

真っ黒な尿が吹き出した。予想外だ。申し訳ない。


「盛大に漏らさせて悪かったけど、気分はどう?」

「あれ、快適だ。恥ずかしいけど・・」

「俺は脚が生えている」


私は話ながら木の死角に回り、ダチョウ肉、ドラゴンパピー鱗で体を元に戻している。


他人の足を生やして腎臓の修復。25センチも身長が縮んだ。



「明日、話したい」


「明日のどこで」


「明日の日暮れ、私は「マリーの酒場」にいる。そこに来て。他に仲間がいるなら、相談して」


「何をですか?」


「私はジュリアを襲撃するつもり。私に協力するかしないか決めてきて」


「どこが適していると?」

「やっぱり、溪谷地の狭くなってる場所よね」


「襲撃場所として考える場所は同じか」


「ただ、私はソロ向きの力を得た。ジュリアを倒せると思ってるけど、仲間が近くにいても巻き込んでしまう」


彼らに仲間がいるのかどうか分からない。だって私は見える範囲の情報しか、いまだに得られない。


「明日は人数が増えてもいいわ」

「怪我人を連れてきてもいいってことですか?」


「ええ。同じジュリアの被害者。助けられなかった友達の代わりに、助けてあげる。本当なら、体が全快したあなた方も復讐を捨てて欲しい。そして新しい生活を探して欲しい」


少し涙が出そうになって、その場を立ち去ってしまった。


◆◆


もう溪谷地の下見も必要ない。街からわずか6キロ。無理矢理に山を崩して作った道は1ヵ所だけ狭くなっていた。


襲撃場所は決まった。


宿は取らず、外で一晩過ごした。そして朝から街に入り、旅立ちの当日にジュリアが辿る道を確認した。


「警戒が緩い。まさか侯爵領の領都でパレード中の馬車を襲う奴がいると思ってないね」


ルートは公表されていないが、鎧を来た騎士達が兵の配置位置などを堂々と確認している。


兵は山ほどいるし、ジュリア自身がAランク冒険者でもある、大戦力。


ドラゴニュート姿では教会上層勢力の巣窟、大聖堂には入れて貰えなかった。


それでもセレモニー当日のルートは完全に把握できた。


明日は街から溪谷地までのルートを辿り、そのまま3日間、潜伏する。


『超回復』と「等価交換」を使えば、どんな場所でも動かず、気配を消せる。


「私自身に魔力がないから、「熱探知」でもなければ探せないよね」


そして奇襲で決着を付ける。


ジュリアは戦いに関しては、私の10段階くらい上を行っている。


紛争では大戦力となる適正Aの火魔法使い。冒険者としてもAランクの彼女は、きっと護衛にも自分の弱点を埋める人員に取り揃えているはず。


克服できなかった「氷のシクル」のアイスフィールドクラスの魔法が用意されていれば、普通に戦えば負け確定だ。


夕方、エイル達と「マリーの酒場」で合流した。


聞かなくても良かったが、今回の襲撃はわずか6人でする予定だったそうだ。


「少ない」


思わず口に出したが、当たり前だ。


ジュリアにはめられた奴は大半が死んでいる。


エイル達以外の4人は、3人がジュリアに殺された人間の仲間か身内。1人だけが騙されてながらも生き残った人間だ。


今、ここに連れて来られたのは30歳くらいの男性。左目に眼帯をして、左手首から先がない。


お互いに挨拶はしない。テーブルを挟んで反対側に座ってもらった。


「ジュリアが憎い?」

「憎い」


「奴に止めを刺すのは私だけど、それでもいいなら体を治す」


「・・それなら治さなくてもいい」

「なぜ」


「実際にあのクソ女にトドメを刺すのは誰でもいい。だが、最初から仇を討つ権利を放棄したくなねえ」


「仲間のため?」


「そうだ。無惨に殺された仲間の復讐を誓ったんだ」


涙を浮かべる名も知らぬ彼の手を取った。


私も、その気持ちを以前は強く持っていた。


何度も1日24時間をフルで戦いに使った。何千回と致命傷を負った。まだ『超回復』を手にして1年未満なのに、超越者のごとく濃い時間を過ごしている。そして新しい生活が作られるうちに、以前の気持ちが薄れていったと気付いた。


「・・ごめんね」


誰に言ったのだろうか。


私に手を取られた彼は、なおさら何を言われたか分からなかったと思う。


「え、何が?」


『超回復』パチッ。


「は、手が・・。何が起こった」


彼の問いに答えず、エイル達に溪谷地に狭いポイントがあることを告げた。


ジュリアの馬車が狭いポイントを抜けた直後がチャンスだと話した。


襲撃まで残り3日。スライム変換で体を見えにくくして、襲撃場所で潜伏することにした。





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