95 超マラソン1200キロ
ノカヤ上級ダンジョンをクリアした。
ギルドの簡易出張所でクリア報告をしたら、オルットさん達8人に寄生したと思われた。
だけど、オルットさん達が私の単独クリアを報告。自分達が「寄生」をしていて、ダンジョンボス討伐未達成を正式に申告した。
3日間はダンジョン横のホテルで休んだ。エールは1日5杯までに控えた。
大仕事が待っている。
3日後の夕方。ギルド出張所でダンジョンボスを出しだ。右半身が爆発していて査定額ガタ落ちだと言われたが、構わない。
あえて人が20人いる時を狙い、私か今、ここにいることを印象付けた。ダンジョンの中で私を監視していた奴と同じ雰囲気の人間もいた。
受付さんに、わざわざ酒目当てに南に行くことを告げた。
ギルドを出た。そのとたん・・
南ではなく、北に全力で走り出した。
142日でオルシマの街とお別れをする気はない。
辺りが薄暗くなりかけたころ、4兄弟次男のサルバさんが追走していたが、1時間もしたら離れだした。
「超回復ドーピング」で走る私に1時間も付いてくるサルバさんは、すごい。
だけど待てない。彼も大切な人。私の復讐劇に誰も巻き込まない。
真夜中はより走りやすいように、身体に色を塗って裸走行。
昼はハンカチで顔を隠し、お尻が見えそうなくらい短いミスリルシャツで走った。
念のため大きな街の近くを迂回したから、恐らく33時間走った。
1200キロを走り切り、ジュリアがいるマイミ侯爵領の領都ガーザに到着した。
風のドラゴンパピー鱗を使い、旅のドラゴニュート女性に変身。
酒場で情報を仕入れに行くと、あっさりとジュリアのことが分かった。
3ヶ月前に北のジョアンヌ聖国から、ハサ侯爵家の長男が外交のために来た。
侯爵の血を引き見た目もいいジュリアが、案内兼、護衛として侯爵に指名された。
転機は隣国の侯爵長男のために行われた晩餐会。ジョアンヌ聖国から追ってきた、政敵が放った刺客5人がハサ侯爵家の長男を襲った。
万事休す。本職の護衛も役に立たなかったが、刺客の前にジュリアが立ちはだかった。
ジュリアは瞬時に刺客5人を炎の檻で包み、灰にした。刺客を1人で退けたのだ。
助けられた隣国の侯爵長男が「私を身を挺して助けてくれた、あの美しく強き女性は」と聞いた。
侯爵は母親が平民などと余計なことは言わず「我が娘、ジュリア」とだけ答えた。
そこから本人抜きで縁談が決まったそうだ。
第二婦人とはいえ、教会勢力と結び付いた大貴族。ジュリアも乗り気だという噂だ。
間に合ったという感じだ。
6日後にセレモニーがあり、街でお披露目のあとにジュリアは隣国に旅立つ。
街でパレードをやる。目立つ馬車に乗せられ戦いにくい状態で移動する。街の建物の間を馬車で通る。宗教国家に嫁ぐため、街を出る前に大聖堂で祈りを捧げる。隣国へのルートが2つあるが、どちらにも溪谷地を通る。
「なんだ、一点だけ、私でも狙えるポイントがあるよ、ジュリア」
自由な冒険者のジュリアは強かった。
だけど本当の貴族になってしまうジュリアは、制約だらけとなるだろう。
反則アリで戦う私は6日後が楽しみになった。
私はドラゴニュート女性に変身したまま、街を歩いている。
平和だ。
まあ、完全ではないが・・
次の日、街の外に出て、 素早く溪谷地を見て回った。
お目当ての人間を見つけた。
ジュリアが嫁入りするために、溪谷地を通る。ルートは2つあるが、護衛側は襲撃者に備えて警備を敷く。
今回は東西ある溪谷地の西を通るようだ。
秘密にはなっているが、同じ紋章を付けた兵士達が当日の警備員の配置などを決めている。
緩いが仕方ない。
ジュリアは美しく、強力な攻撃手段を持つマアミ侯爵家の娘。冒険者を経験を生かし、華麗な技で他国の賓客を救ったヒロインだ。一見すると、マイナスイメージがない。
だから、関係者は襲撃なんてされないと思ってる。
「けどその経歴の裏で、何をしていたか侯爵様もつかんでない訳か」
実際に、私がジュリアを殺しに来た。幸せな結婚なんてさせない。
そしてジュリアを狙うのは私だけではない。
私の移動力を生かして探すと、溪谷地のルートを入念に調べている人間がいた。
お話を聞いてみる。ターゲットは溪谷地を3キロ離れた位置から監視している2人。
私の「魔力ゼロ」はこういうとき役に立つ。
大きな木の枝に乗って、私と同じくらいの年齢の女性が溪谷を凝視している。
男性は記録している。女性は「遠見」スキル持ちか?
急接近する私の発見が遅れた。ドラゴニュート姿の私を見て逃げるだろうから、足が遅い方を捕まえよう。
だが、逃げない。
男性の方が足を引きずりながら、女性に「逃げろ」と言っている。右足から金属音がする。
「あ~。警戒しながら話を聞いて。私はジュリアに恨みを持つ者」
場合によっては姿を変えればいい私は、目的を明かした。
「あの女の・・」
目的は同じと見た。だけど相手の警戒度はマックス。当たり前だ。ジュリアの襲撃を狙っているということは、必ず騙されて死ぬ目にあっている。
あの日の私達のように。
「アリサ、モナ、ナリス・・」
油断した。女性の体がぶれたかと思うと、私の後ろに回りナイフのようなものを首筋に当てている。
優位なのは彼女に見える。だけど口を開いたのは私の方。
「無駄な戦闘はしたくない。話を聞きに来ただけだから」
「は、今はどんな状況か・・ひっ」
私は首筋に当てられたナイフに体重をかけながら、後ろを向いた。ナイフが首に潜り込んだ。
ブシュッ。『超回復』
「は・・」
「種明かしはしないけど、私もジュリアを憎んでいる。仲間を殺された」
「ヘルダ、武器を置こう。そのドラゴニュート女性、簡単に俺達を殺せそうだ」
男性はエイル、女性はヘルダ。戦士と斥候で、2年前にジュリアに騙されて命を落としかけた。
仲間2人が騙されたときに命を落としたそうだ。
やっぱり、目的は同じだった。