85 酒とギルマスとダンジョン
男爵家の訓練場でエールを飲み始めて1時間。
ようやくギルマスが迎えに来てくれた。
少し考える時間もあった。ギルマスの行動は、私のことを考えてだと思う。
「ユリナ、ちっと面倒だったが、あれで良かったか?」
「打ち合わせはしてないけど、いい牽制になったと思うよ」
「良かったよ。そう言ってもらって」
例えば、見た目も強そうで、Aランク。ギルマスみたいな人が、ゴブリンキングを倒したと言う。
誰もが信じる。
だけどDランク、ソロ、細腕の私では、にわかに討伐者と信じられない。
「あのガルサの申し出は筋が通らんが、あいつは馬鹿でしつこい」
だから手っ取り早く、力を見せつける方向に持っていったそうだ。
ま、私の得意分野だ。
「本来はギルマスなら、申し出を突っぱねなくてはならん。すまなかったな」
「いえ、私の弱そうな姿とアイリーンとの遺恨で、何かあると思ってましたから」
男爵も焦り、私への謝罪金を約束した。
それいらない。謝罪金は、街の西の貧困層の援助に使ってもらう。
ギルマスが後日、手続きをしてくれる。
「この街にはスラムがない。いい領主だと思うんだよね。だから、敵対はしたくないな」
「領主が名君でも、身内が腐ってるなんて、良くあることだ」
その情報、頭に入れておこう。
「ユリナの攻撃はすごかったな。回復スキルも聞いた通りだ」
「誰に?」
警戒心は沸いてこない。
「今まで黙ってたが、ダンジョンの中で失明した目を治したレオナを覚えているか?」
「知り合った中にレオナは3人いるね・・」
「中級ダンジョンでBランクのスマトラも一緒だったと言っていた」
「なんだ、あのレオナさんか」
「ああ、姪っ子だ。ありがとう。言葉では感謝しきれない」
「優しい子だよ。最初、自分でなく、仲間の治療を頼みにきたからね」
「・・ほう」
行きと違い、帰路は話が弾んだ。
◆
ギルドが見えてきたけど、立ち寄らないことにした。
中級ダンジョン下層に入る。
そして、ゴブリンを等価交換の材料にして、でかいダチョウを捕まえる。
今回は「等価交換」解禁。
ゴブリン残り397匹。
エールは街の酒場で補充できず、代わりにワインを1本買った。1万ゴールド。
◆
ペルセ中級ダンジョンまで2時間半で着いた。
ワインは休憩中に飲んだ。初めて口にした。
「うっは~」
驚くうまさで、1時間半も道端で飲んでいた。
ゴブリン残り395匹。エール97杯。
ダンジョン転移装置で40階に飛ぶと、ボス待ち冒険者が14人。
しばらく来てなかったから、接点がある人はゼロ。
急を要する怪我人もいなかった。
一休みして、エール95杯。
39階に行って10分で4・5メートルダチョウ2匹、1・8メートルダーキー2匹。
今回の武器はトレントの枝。
スキル大解放。
4匹の目、首をぺしぺしして、食らったダメージを返した。
あまり肉を削ると上位ダンジョン攻略のエサに使えない。狙いは頭部のみ。
ゴブリン2匹を「等価交換」で使って体を修復。
少し目減りした程度のダチョウ、ターキー各2匹ゲットなら、効率がいい。
肉の量は8~10倍になってる
このダンジョンの肉は39階ターキーが高く売れる。換金、寄付用に持っておく。
お金は必要だ。酒のため・・
ゴブリン残り393。
38階セーフティーゾーンを目指し、再び40階。往復で一旦は地上に上った。
飲みながら、ついでに狩り、いや逆だ。
ときかく歩くこと2日間。階段のとこで一杯飲んでエールの残り80杯。
ダチョウ、ターキー共に42匹確保。ゴブリン残り、351匹。
39階で他の冒険者に2回、戦闘を見られた。
木の枝を鳥にぺしぺししながら短時間で制圧。かなり驚かれた。
38階に上がった直後に怪我人だ。
4・2メートルダチョウ4匹、1・7メートルターキー4匹に苦戦する4人組の冒険者。
計8匹。不運にも、ダチョウ、ターキー2匹ずつのユニット2組に同時に遭遇。
女子1人が倒れ、それを女子1、男子2で守っている。
「助けるよ、いい~?」
「え?」
「なに、この人」
「酔っぱらい?」
女性。中級ダンジョン38階。薄汚れたシャツ1枚。
右手には剣ではなくジョッキ。
左手に手甲のみ。攻撃力控えめをアピールしている。
「ダメだ・・」
「いや違う。助かった」
「きっと噂のユリナ様だ」
噂の?
私はジョッキを持ったまま、流星錘4本を投げた。
ターキー4匹の足に革ひもを絡め、そのうちに倒れている女子の元へ。
側頭部がへこんだ女子にエールをかけた。
『超回復』
「ぷはっ。酒くさっ!」
女子は飛び起きた。
「よし復活。次はダチョウ」
追加の流星錘をダチョウの首に巻いて、「等価交換」。2匹を無力化した。
3、4匹目のダチョウは男子2人で倒し、ターキー4匹は女子が倒した。
女子2人がアタッカー。私はミスリルシャツ1枚で肉壁役である。
後ろから魔法、弓をガンガン撃たせ、ターキーをやっつけた。
ゴブリン残り350匹。
「ありがとうございました」
「こんなとこで噂のユリナ様に出会えるとは幸運でした」
「実在したんだ」
噂の中身は聞かない。
ボロ服。酔っ払い。これで気付きやがった。
聞くと精神的ダメージを受ける。
彼らは17歳から19歳の4人組。
「私、オルシマのDランク冒険者だよ」
「私達、最近になってオルシマに移ってきた4人組です」
「海辺出身でパーティー名は「シードラゴンの牙」です」
結果、私は40階に戻ることになった。
彼らは倒れた女性にポーションを使いすぎ、ダンジョンボスどころか39階を残して回復手段がない。
このダンジョンは1度は攻略しているため、40階に降りれば、ボス戦を避けて地上に出られる。
見捨てられないから同行することにした。
物に関する利点はないが、最近は飲んべえの私。
貝や魚を使ったおつまみの話が報酬になるのだ。
それに人と一緒なら、のんべんだらりんと飲まない。
彼らと取り引き成立だ。
そこから8時間ほど狩りをして、ダチョウ11、ターキー11の成果。
やっぱ、効率がいい。
私が警戒役をして野宿をしたとき、こっそり飲んだ。
ゴブリン残り345匹、エール残り75杯。