76 奴隷を手に入れた
小さいのに生活のために頑張る子供達と知り合って10日間。
初級ダンジョン5階でウサギ狩りを手伝って過ごした。
休憩中、一人ずつゴブリンと戦わせてレベルアップも手助けした。
名残惜しいが、ここで一旦はお別れだ。
彼らもレベルが上がって、3~5階を巡って、余裕で稼げるはずだ。
今はまだ、彼らに深入りしてはいけない。
換金履歴が目立っているから、10日も同じとこにいれば絡まれる。
「おいユリナちゃん、俺らのパーティーに入れてやるから、一緒に中級ダンジョン攻略しようぜ」
「ソロだとダンジョンの中で休みを取るのも一苦労だろ」
「稼ぎはCランクの俺らが9割で、ユリナちゃんには1割渡すからよ」
ソロに戻って11日目。
要注意と言われていた、鉄製装備の3人組に声をかけられた。
身体強化スキルに恵まれているが、最近の素行が良くないと、教えられている。
大金を換金。回復スキル持ち。気が弱そうなDランク冒険者。おまけに女のソロ。
そんな私を利用しようとする奴らが現れた。
「ダンジョンボスもスマトラじじいのパーティーに寄生して攻略したって聞いてるぜ」
金に目敏い悪人にしては、調査がずさんだ。
「一緒に行ってもいいけど、私に付いてこれるか、実力テストをしたいわ」
「は?まるでお前の方が強いみたいだな」
なぜかいつも、ギルドに行くとスマトラさんとこの、4兄弟の誰かがいる。
今日は次男のサルバさんがいて、立ち上がった。
手助け不要です、のハンドサインを出した。
残念です、の返事。
「訓練所で決着を付けましょう。木刀で1対1の3回戦。そっちが勝ったら、100万ゴールドあげるわ」
「受けようぜ」
「そうだな」
「勘違い女に教えてやる」
ちょうど良かった。
昇級試験等に備え、適度に、そして本気の剣技を味わいたいのだ。
最近は、そこにいるサルバさん達が訓練してくれる。
だが、レベルが違いすぎて何も見えていない。『超回復』をより速く使うための、反射訓練にしかならない。
訓練場。
最近知り合った人が、ギャラリーの中に沢山いた。
審判はなぜか、副ギルマスのジェフリーさんが立候補。
そんなに暇じゃないはずだけど・・
「あなた方、強化スキルを持ってるのよね。頑張って」
「なめられてたまるか。俺が行くぜ、身体強化!」
「ダル君ね。金剛気功術でお相手するわ」
「なんだそりゃ、そらっ!」
左肩に打ち込んできた。
様子見なのに、避けられない。どがっ、と重い音。
『超回復』
反撃開始、とはならない。一方的に木刀を食らっている。
だけど、私は倒れない。
復活して構える↓向かっていって叩かれる↓コンマ1秒で回復。
5分ほどの、見ていて面白くなさそうなローテーション。
ただし、1回のローテが5秒と隙間なし。これ、5分間続けた。
「やっぱダル君、Cランクって普通に強いんだね」
「はあっ、はあっ、なんなんだあんた」
だけど変・・
ダル君の動きが落ちている。左手の握りが、私から見ても甘い。
退屈な戦い15分。
私はダメージを負うごとに『超回復』
最後はダル君は右手1本。息をつく暇もなく、戦わせてあげた。
バキッ。私のぶんまわし剣法が左肩にヒット。
ダメージというより、体力の限界で、ダル君は倒れた。
「いでえ。はあっ、はあっ、はあっ。くそ・・」
「やめ、勝者ユリナ。休憩を挟んで2回戦」
「副ギルマス、このまま2回戦でいいわ」
手のひらサイズのウサギ肉を8個も使い「等価交換」で体を修復。
息も切らしてない自分をアピールし、連戦を申し出た。
2番手のマクロ君も強かった。しかし余裕。左足の動きが落ちてきて、10分で制圧できた。
最後のミルケル君も15分で倒れた。
弱くしか見えない私。
「気功武道家」を名乗っている。
自己回復しながら、休みなしで40分全開で戦い続けられる。
そして、終わってみれば無傷。
それなりに、恐れられる存在になるかな、と。
◆
「・・俺ら、100万ゴールド持ってなくて」
副ギルマスに聞いた。
彼らは2年前に冒険者になり、1年でCランクまで上がった18歳トリオ。
だが半年前、上級のオークダンジョン30階に挑戦。勝ったが3人とも大きな怪我を負ってしまった。
治療費で貯めた金を食い潰した。
怪我は完治せず、低ランク依頼で食いつないでいたという。
今、ギルドの食堂。
運動後のエールで、喉を潤している。
3人は拘束もしてない。お金のことも、口約束のみ。
ギルド介入の決闘と違い、強制もされない。
解散したつもりだったけど、私のテーブルの前に立っている。
「私、お金を出せとか最初から言ってない。懲りたでしょ。解散で」
「だけど、踏み倒したら俺らはこの街にいられない」
「必ず返すから、数日間だけ待ってもらえないだろうか」
接触のしかたはクズ。終わってみれば、意外に律儀。
放っておいたら、無理な依頼を受ける。そんで死ぬのかな。
なんとなく、ダル君はリュウに顔が似てる。計画性のない青さ、それも懐かしい。
「じゃあ、借金を返せるまで私の奴隷ね。座って右手を出して」
霊薬・・。右手にいいもの持ってた。また説明すんの面倒臭い。
3人の顔に残ったエールをかけた。
「ぶっ、何を」
「霊薬よ、霊薬。気功回復3回。はいおしまい」
『超回復』『超回復』『超回復』ぱちっ。
「は、何が・・」
「奴隷に足を引っ張られたくないから、霊薬で治療したの。このままノカヤ上級ダンジョンの31階に行くよ」
副ギルマスは、彼らを同行することを渋った。
だけど、強引に出発した。
ダンジョン前まで奴隷3人を走らせ、部屋を取ってあげて、ご飯食べさせて1泊。
装備は、カルナ、ウインから奪った女性用を厳選。
なんでかって、罰ゲームだよ。
これから10日間、奴隷1と呼ぶことにしたダル君のミスリルプレートには、胸一杯にバラの彫刻が施されている。
残りの奴隷2、奴隷3も花柄。色はレッド、ピンク、パープルだ。
他の冒険者に笑われながら、ダンジョンに突入した。