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70 勘違いする人たち①

真夜中にオルシマの街に到着した。


門の近くを流れる川を伝って2キロ歩いた。


大きな木がある。


根元に座ると、妙に落ち着く。


気持ちが萎えたときには、ここで過ごそう。そのまま寝た。


起きると夜が明けていた。100メートルくらい離れた場所に男性が立っている。


まるで私を待っているようだ。


「と思うのは、自意識過剰かな。ふふふ・・」


立って、こっちを見ているだけの男性。


思い切って近づいてみると、ダチョウの中級ダンジョンで会ったスマトラさんだった。


「おはようございます、スマトラさん。その後、頭の具合はどうですか」

「ユリナさんのおかげで快調です」


「良かった。こんな朝早くから門を出てどうしたんですか」


「散歩です。ユリナさんも、オルシマの街に入りますよね」


「何だか分からないけど、冒険者ギルドの副ギルマスから連絡をもらったんです」


懸念材料だった、男爵家のアイリーン問題が片付いたらしい。


「もうアイリーンは、ユリナさんの前に現れたり、させません」


断言された。


「ようこそオルシマへ。ここで冒険者生活を満喫して下さい」


オルシマの街で、オルシマ領主の娘を押さえつけられる。それほどの権力者?


だけど以前、一瞬だけ感じた欲のようなもの。


もうスマトラさんから感じない。


促されるまま、街に入った。



◇◇◇シャルリー公爵家当主の兄、スマトラ◇◇◇


私は、ただのスマトラだ。現在37歳。


シャルリー公爵家の跡継ぎとして生まれ、魔法適正も火魔法のB。


同じ適正を持つ有能な弟とともに、国と一族の繁栄のために身を捧げていた。


しかし、30歳で難病が発症。頭の中に腫瘍ができた。


高度な治療も効果が薄く、病状は進んだ。


右目の視界が狭くなった。父と相談し、大きな決断をした。


幸い、私には有能で信頼できる弟がいる。


「重い病気で再起不能」。明かすと、弟は泣いてくれた。


それで十分だ。


私は32歳で、当主候補から外れた。


妻と子供は、妻の実家に帰した。弟の地盤は盤石になった。


あとは、何も持たす姿を消す。


そう思っていたら、父の好意で家が用意してあった。


王都、領都から遠く離れたオルシマの街。

私が信頼する護衛兼、諜報役の4人も一緒に来てくれた。



家を出て5年、自由な冒険者をやらせてもらった。


ダンジョンの攻略などでBランク。


公爵家のスマトラでなく、ただのスマトラとして、親しい人も増えた。


しかし、半年前から病状が悪化した。

右目が見えなくなって、終わりが近いことを悟った。


左目もかすむ。完全に見えなくなる前に最後のダンジョンアタックに挑んだ。


攻略目前。


そこで、不思議な女性と出会った。


名はユリナ。


40階、ボス部屋の前。


後ろで若い冒険者が盛り上がっていたから、耳を傾けた。


こういう雰囲気も嫌いではない。


見ると、不思議な女性がいる。


手足は貧弱。服も、ぼろいミスリルワンピース一枚。そして裸足。


回復術が使えるらしい。


次々と若手冒険者の傷を治していく。男性冒険者の骨折した腕が、動くようになった。


魔法を使わない、医療の技術もできている。


中身は気になったが、希望を持った自分を笑った。


私の病気は王都の教会で治療不可能と診断したものだ。



女性が、最後の1人となった私の、負傷も治すと言う。


気持ちは嬉しいが、私は怪我人ではなく、病人だ。


私は断ろうとした。


しかし、水をかけられた。「霊薬」だと彼女は言った。


私は鑑定Cを持っている。判定は、見事なまでに「川の水」


マナー違反だが彼女を鑑定すると、魔力ゼロ。言い方は悪いが劣等人だ。


間を置かず手をつかまれ「気功回復!」と、唱えられた。


なんだそりゃ。


魔力も動かなければ、水は単なる、水のまま。


だけど、ちょっと笑った。


土産話もできた。女性は、わざわざ中級ダンジョン最下層まで潜ってきた。


そこまでして、人に希望を与えようとする彼女。すごく面白いと思った。


死ぬ前に弟に手紙を書こう。ぜひ、この話を教えてやりたい。



ぼそっ。『超回復』



彼女が何かを呟いた。


「奇跡」


そう。奇跡が起こった。


右目の奥から何かが沸き上がると、見えなくなっていた眼球が落ちた。


そして頭の中で「ぱちっ」と音がして、猛烈な不快感。込み上げてきた、どす黒い血を吐いてしまった。


いきなり最後の時が来たかと思えば、わずか数秒後には頭がクリアになった。


え、右目まで見えている。


驚いたが、頭はめまぐるしく働いた。


目の回復に1億ゴールド。

脳の腫瘍を治す魔法に1億ゴールド。

それくらい払う価値がある。


さらに弟に紹介して公爵家の客人として囲ってしまおう。


かつて公爵家の跡取りだった、スマトラ。


権力闘争も重ねた、いやらしい自分。そいつが顔をのぞかせた。


その顔で謝礼を申し出ると、彼女は手を差し出して言った。


「1000ゴールド」


要するに小銀貨1枚。エール2杯の金額。ただ同然。


頭を殴られた気分だった。


回復スキルは後天的に得た。


その力は、名もなき神からの借りもの。


だから、金儲けに使わない約束だそうだ。


彼女の目は言っていた。


「何も求めない」



そして、ペルセ中級ダンジョン攻略後、風のように去っていった。


考えた。


なぜ、彼女が私の前に現れてくれたのか。


その晩。夢の中。


名もなき神様が、貴族に影響力を残す私に、呼び掛けた。


「聖女ユリナを守れ」



次の日から5日間、ダンジョン横のホテルで過ごした。


ユリナ様の奇跡。これを、じかに目の当たりにした人を探すためだ。


失明した目に再び光を宿したレオナ。彼女も協力してくれた。


呼吸器の持病が完治したマイミ。

顔面陥没から生還したエイミー。

欠損した指を取り戻したミリー。

心臓に達した傷を治してもらったケイン。


ユリナ様が彼らに求めたのは、1000ゴールドのみ。それすら、もらい忘れたこともあった。


1000ゴールドとは、実質的に何も求めないとの、意思表示。


ちなみに奇跡を受けた者は、簡単に話をしてくれた訳ではない。


むしろ貴族の匂いがする私を警戒していた。


ケインなんて、激昂した。「ユリナ様の自由を奪う気か」と叫び、私に剣を向けた。


その都度、レオナとともに、私達も「小銀貨1枚」で救われたことを、話し続けた。


あの方は、不思議な人だ。


みんなの話を統合すると、行動には脈絡がない。


何が彼女を突き動かしているのだろうか。




「小銀貨1枚」

わずかな対価で救われた私達は、2日後に秘密の組織を立ち上げた。


小さな銀貨から名を取った「スモールシルバー」だ。


ユリナ様が中級ダンジョン攻略後、いきなり急用、そう言って去られた理由も解った。


オークの巣からルナを救うためだったのだ。


ルナに求めた対価も、もちろん1000ゴールド。


そして私はオルシマの街に帰り、ユリナ様を待つことにした。




https://www.alphapolis.co.jp/novel/295429334/506718241


アルファポリスで先行しています

読んでいただきありがとうごさいます

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