64 私の聖女様
ルナという女性を木の上に避難させた。
ミッション完了。あとは、素材集め。
オークの巣のど真ん中。
貧弱なEランク冒険者の私に、2メートル越えのオーク100匹が殺到している。
「まあ、慣れだね」
上を見ると、私と同じ20歳前後の茶髪美女ルナ。絶望的な顔で私を見ている。
「手元の革ひもを使って、しっかり木につかまっててね~」
身長も5センチ縮んでるし準備万端。
ルナを安心させてあげよう。
風属性ドラゴンパピーの鱗を2枚出して唱えた。
「等価交換、風龍変身!」
◇◇オルシマCランク冒険者ルナ◇◇
私は探知スキル持ち3人でパーティー「探し人」を組んでいる。
戦闘少なめ、調査専門で稼いでいる。
今回は地元領主の次女アイリーンから女性「ユリナ」の調査も頼まれていたが、3人で話し即却下。
街の近くの森に増えた、オークの調査を引き受けた。
が、しくじった。
2日をかけてオーク集落の発見及び、生息数の確認に成功。
帰ってギルドに帰還というときに、狼5匹に見つかった。
タイミングも悪く、エサ探し部隊のオーク20匹にも鉢合わせになった。
退路が狭い。
狼の追撃を振り切る時に、私とダノンが足を負傷。
無事なベルクにギルドに走ってもらった。
討伐隊が来るまで2日。自力で逃げるか、隠れるの二択。
川を使って難を逃れようとして、狼に見つかり、再び足を噛まれた。
オークに気付かれ、狼共々、捕獲された。
私だけ生け捕り。
オーク集落の真ん中に運ばれ、手足を押さえられている。
私は巣のリーダーへの、お土産だ。
蹂躙される。
生き恥をさらしてでも生き残るべきか。自害すべきか。
判断できない。
数日前のギルドの酒場。オークにヤラれるなら自害する。そう豪語した・・。
目に涙が浮かんできたとき、彼女が現れた。
オーク4体の頭を殴った。
一瞬だけ解放された私を起こし、革ひもで作った輪っかに左手を通した。
彼女が、ひもの反対端を引く。私の体は一気に10メートルの木の枝に引き上げられた。
オークに捕まった恐怖から逃れられた。
私は、必死に木にしがみついた。あれ、あれ、あれれれれれ・・
彼女は?
身長は私と同じ160センチ程度。手足も細い。
戦闘職に見えない。
殺到するオークのど真ん中、鎖かたびらだけ着て、裸足。
収納指輪から武器のみ出した。左手に手甲、右手にショートソードのみ?
絶望的だ。
彼女は「ユリナ」と名乗った。
街中で死にかけた女性を助けた、噂の聖女、なのだろうか。
ギルド情報ではスキルゼロ、魔力ゼロ。パワーは子供並み。
そんな人が、見ず知らずの私の身代わりに・・
ユリナさんは風の魔力が宿った鱗を出した。
そして唱えた。「風龍変身!」
緑色のドラゴニュートに変身。そんなスキル、知らない。
私の方を見て笑った。
絶望的な状況。なのに、なぜか大丈夫だと思った。
「ユリナさん、来てる!」
2匹のオークの間を掻い潜りながら、1匹の首を斬った。
2匹目の口に弱いパンチを突き入れた。なぜかオークが昏倒した。
オークの警戒度が上がった。
5匹を無力化した直後、彼女は頭に棍棒の一撃を食らった。
「ユリナさん! え?」
彼女は2回転げて起き上がり、何事もなかったかのように立った。
噛みつこうとした、オークの顔面をつかんで・・。え、鼻を握り潰した?
ぐじゅっ。
何のスキルなのか。
私の探知に反応はないのに、彼女の技で、オークが次々と倒れる。
オークに包囲され、攻撃を食らってる。血しぶきを撒き散らすのは、ユリナさんのみ。
なのに、彼女は倒れない。
逆にオークは1匹ずつ倒れていく。20匹が瀕死だ。
戦いが始まって30分。
彼女のドラゴニュート変身が解け、鎖かたびらもバラバラになり裸だ。
「あれ?」
違和感。
彼女が技を繰り出すとき、魔力の揺らぎも何もない。そして攻撃や動き自体も決して早くない。
それじゃない。
同じスピードで一瞬も止まることがない。足を動かして、剣を振り続ける。
「体力の限界って・・」
足元に倒れたオークが増えた。彼女は、何もない場所に移動して、戦い始めた。
余裕ばかり。
いつでも逃げられる。なのに、殴られても噛まれても、撤退する気がない。
戦う理由はひとつだけ。
「この人・・本当に私を助けるためだけに、来てくれたんだ・・」
さっきとは違う涙が、にじんできた。
一回り大きなオークソルジャーが登場した。
ノーマルオークに攻撃をやめさせ、1対1でやる気だ。
だかユリナさんは応じなかった。
引いたオークの集団に突っ込みながら、再び魔力がこもった鱗を出して「火炎気功術」と唱えた。
今度は赤いドラゴニュートに変身した彼女は、オークを蹂躙した。
混戦の中、オークソルジャーが剣でユリナさんの胸を刺した。
剣は、背中まで突き抜けたように見えた。
「破壊的絶対領域」
なぜか、刺したオークソルジャーの方が、大きくのけ反った。
オークの大剣も砕けた。
ユリナさんはソルジャーのキン○マに手甲でパンチを撃ちながら「等価交換」と言った。
それから1時間、ユリナさんの動きは、まだ落ちない。
途中で何度も励まされた。
「ルナさん、もうすぐ連れて帰ってあげるからね。大丈夫だよ」
開始から1時間半、60体を越えるオークが転がっている。
オークソルジャー3匹も無力化された。
とうとう、ユリナ様、の元に集落のボス、オークサージェントが向かった。
手下のオークが道を空け、今度こそ一騎討ち。
ユリナ様は裸。ドラゴニュート変身も解けている。
だけど、私を安心させるために笑っってくれた。
そして、2メートルの細い木の枝を出した。
気のせいか、ユリナ様、すごく小さくなっているように見える。
息を飲んで見ていると、勝負は一瞬だった。
サージェントがロングソードをユリナ様の脳天に叩きつけた。
ユリナ様は、サージェントの豚鼻に木の枝をチクりと刺した。
バランスが取れていない、クロスカウンター。
ユリナ様の頭が潰れて・・
「は?」
だけど、ユリナ様は無傷。
オークサージェントは顔面がミイラのようになって、後ろに倒れた。
リーダーをなくしたオーク40匹は、散り散りになって逃げた。
木から降ろされた私は、絶望からの生還に泣いてしまった。
「大丈夫だよ。もう安心していいよ」
そしてユリナ様は不思議なことを言った。
「1000ゴールド持ってる?」
素直に革袋から1000ゴールドを出して渡した。
するとユリナ様は、私の足をつかみ、革袋を取り出した。
普通の水を「霊薬」と言って、傷口にふりかけた。
『超回復』パチッ。
ユリナ様がつぶやいた。
重傷だった右足どころか、全身の傷が治っていた。
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