62 自重は捨てた
40階のダンジョンボス部屋前に来た。
さすがは人気ダンジョン。ボス待ちの人が3組もいる。
ただソロは私だけだ。
「寝ようかな。また2日徹夜だったし、半日くらい眠れそう」
ぱっと見て30メートルの丸い待ちスペースに悪そうな人もいない。
念のため、端っこに寄って鉄製鳥籠を出すことにした。
けど、4人組パーティーがこちらを見ている。男女2、2。
さすがに、このパターンにも慣れてきた。
「あの・・」
左目の上下に傷がある女性に声をかけられた。
傷は乾いている。目を閉じていて、眼球の状態は分からない。
「誰かに聞いたの?」
「あの、36階で会った冒険者に、ソロのユリナさんって人が、一回だけ回復スキルを施してくれるって・・」
何だ、その話。まあ、恩は売っておくか。
「あの。金額は聞いてませんが、すごく効果が高かったって・・」
「金額は決まってるよ」
「1人分の治療をお願いします。20万ゴールドなら即金で出せます・・」
「初回サービスで一律1000ゴールド」
「え?」
「それより高くても安くても受け付けない。こっちに来て」
何度も同じ説明をするのが面倒。私は商人には向かないようだ。
霊薬という名の水を出した。
「その顔の傷ね」。腕をつかんで、顔に水をぶっかけた。
左腕経由で『超回復』ばちちち!
「あぐっ。顔が・・」
「レオナ、大丈夫か!」
「え、私・・左目が見える」
見ていた仲間の方が騒ぎ出した。
「去年、ベアにやられた傷が・・」
「レオナ、なくなったはずの左側の眼球が・・」
「私・・。ハンナの足の治療を頼みにきたのに・・。みんな、なんかごめん」
ヤバい。治して欲しかったのは、このレオナさんではなかった。
勢いで失った眼球を復活させてしまったー。
もうやけくそ。
「霊薬と私の気功が活性化しているから、今なら大サービスよ。みんな並んで」
結局、その場にいた3パーティー13人全員を治療した。
「霊薬」という名の水をぶっかけて、体に触れては『超回復』
テンションが上がりすぎた。
私は、最後の5人組パーティーでやらかした。
まず4人の同じ仮面を被った剣士風を治した。
最後に細身の中年男性。
そのスマトラさんは、遠慮していた。
私は構わず、頭から水をかけて「気功回復!」と叫んでみた。
間を置いて『超回復』
ぱちばちい!
はっきり聞こえるくらいの音がした。
全員が見守る中、スマトラさんの右目がぽろんと飛び出した。
「いやああ」「わあっ!」
そして、鼻と口からどす黒い血が噴き出した。
「スマトラ様!」
「げほっ、げほっ」
「・・・」。あれれ、あれれ。汗が噴き出した。
「え、右目が見える・・。痛かった頭も治っている」
「じゃあ、その目は・・」
スマトラさんは、頭に重い病気を患っていた。
今は右目が見えなくなっていて、やがて左目が閉じて寝たきりになる。
その前に4人の仲間と、人生最後のダンジョンアタックをしていたそうだ。
「スマトラさん、覚悟の一戦に横やりを入れたようで、ごめんなさい」
「いやいやいや!まさか、治るとは思いませんでした」
彼の目が光った。
「何と言って感謝していいか分かりません。地上に出たら、お礼がしたい。我が家に来てもらえませんか」
右手を出した。
「1000ゴールド」
何かを感じて、説明した。適当ストーリーだけどね。
このスキルは後天的に得た。
神様に借りているような感じ。
これを使って大きな対価を得ると、やがて災いになって自分に返ってくる。
こんな話だ。
我ながら、すらすらと嘘が出てきた。
スマトラさんに督促して、1000ゴールドをもらった。
するとスマトラさんの顔が優しくなって、回復スキルの話はしなくなった。
スマトラさんたちにボス部屋の順番が回ってきた。
スマトラさんの仲間4人に、ぜひと言われ、一緒にボス部屋に挑んだ。
ゴゴゴゴゴゴ。
スマトラさんの仲間4人は、一流の戦闘職の匂いがする。
戦いを見て、今後の参考にしたい。
40階は5メートルダチョウ1匹、4メートルダチョウ2匹、2・5メートルターキー5匹。
「では予定通りに」
スマトラさんが呪文の詠唱スタート。私も含めた援護5人で、鳥たちの攻撃を止めた。
仮面の4人はすごい。軽々と鳥の攻撃を避けている。
私は5メートルダチョウの攻撃が脳天に直撃。
当たる寸前に「金剛気功!」と叫んで、『超回復』
ダチョウの嘴を弾いて、面目は保った。
3分して、スマトラさんから合図がきた。
「豪炎!」ぼわああ!どんっ!
スマトラさんは火魔法適正Bの魔法使い。
病気が治って、元通りに魔法を使えるようになったらしい。
「ぐぎゃー」「くえー」「ぐえええ」。
一撃で流れが有利に傾いた。高位の魔法使いが恐れられる理由だ。
あとはスマトラさんの護衛リーダーがダンジョンボスをさくっ。
わずか20分でダンジョンボス戦は終わった。
ダンジョン攻略後にダンジョンクリアメダルが出てきた。
プラスしてハイポーションとミスリルナイフが人数分出てきたので、ワンセットをもらった。
次は3日ほど休んで、再び32階からアタックだ。
だけど、予定変更。
地上に出たら真夜中で、出口横のホテルが2部屋しか空いていなかった。
男性陣は私が1部屋で、狭い部屋に男5人で寝ると言う。
それは申し訳ない。
ここから40キロ西に行くと、オルシマの南西に位置するノカヤ上級ダンジョン。
そこには4足歩行の豚と、2足歩行のオークが出る。
そこに向かおう。
「スマトラさん、急用ができました。ホテルはそちらで使って下さい」
「え、うそでしょ」
「とにかく出発します」
別れ際に、スマトラさんから住所を書いた紙を渡された。
オルシマに来たら立ち寄ってくれと言われた。
護衛の人達にも、必ず再開しましょうと念を押された。
当分先になるなと思いながらも、約束した。
そして私は、夜の森に向かって走り出した。
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アルファポリスで先行しています
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