表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/188

61 『霊薬』とはただの水

新しく冒険者登録をした私ことユリナの話題が、ギルドで聞かれるそうだ。


「私、冒険者登録をした日にこのダンジョンに来たから、自分の話題といってもピンとこないの」


ガルと仲間たちが教えてくれた話はこうだ。


Fランクで冒険者登録をしたばかりの女性が、札付き冒険者に絡まれた。そこを地元領主も持て余している次女アイリーンの馬車に轢かれた。


その新人冒険者は事故に巻き込まれた女性を助け、「気功」で瀕死の状態から生還させた。


さらに、アイリーン付きの不良護衛を2人も制圧し、そのまま去った。


次の日、国に属する街の監察役がアイリーンの護衛、馬車の御者を任意同行。横暴貴族に釘を刺すためだ。追加して冒険者ギルドで「ユリナ」のことを尋ねたが、ユリナの開示情報はレベル29、スキルゼロ、魔力ゼロ。


「ユリナさん、気を悪くしないでね。あなた自身が「劣等人」を公表しているのに、強烈な回復スキルを披露したでしょ」

「まあね。鑑定オーブに出た事実を開示しただけ」


「レベル29は低くないけど、「豪腕」と「剣技2」を持ったレベル40クラスの護衛2人を一方的に制圧したでしょ。その2点がインパクトありすぎて、色んな人が探しているわ」

「以前に、貴族絡みで嫌な思いをしたから、当分はフリーで動きたいの」


「そうなんだ・・。だけど、みんな不思議がっているよ。わざわざノースキルを公表しているのか、そこが分からないって」


「そこか・・」


スキルゼロ、いわゆる「劣等人」を公開しているのは私の意地だ。


『超回復』スキルを得ても、なぜか冒険者ギルドの測定に何の反応もしない。


だったら、魔力ゼロでも一緒に頑張って生きていたナリス、アリサ、モナの代わりというか、「劣等人」と呼ばれたまま、Bランク以上の冒険者になってみようと思っている。


それを知り「火のジュリア」が接近してくれば、逆に奇襲してやろうと思う。


そのためにも街に自分の基盤が欲しい。


「鎖かたびらの上からシャツ1枚・・。その格好で中級ダンジョンの35階まで潜っているから実力は本物か」

「うん、戦いに応用できる技術はあるわ。オリジナルの気功術で自己回復が得意よ」


「ガルが治してもらった「気功」ね。本当に1000ゴールドでいいの?焼ラビットとエールのセット1100ゴールドよりも安いわよ」


上位冒険者になると決めてから、「自重」という言葉が薄れている。


「今回限りだけど、1人1000ゴールドで引き受けるわよ」


ガルのほかは弟のダル、女性が3人いてメル、ハルナ、ミリー。なんと5人でまとめて結婚しているそうだ。自由すぎる。


ダル、メル、ハルナは擦り傷ばかりだったが、問題はミリー。見ると左手の小指がなかった。


まあ、いいか。


ぼそっ。「ミリーさん、左手のこと、誰にも言っちゃダメよ」


「え、なぜ?」

『超回復』


ぱちっ。「あうっ。え、え、え?」


驚いた顔で私を見るミリーに、「何も言わない」のサインを出し、みんなに別れを告げた。


ミリーが「聖女様」と不吉なキーワードで私を呼んでいるが、気にせず全力で立ち去った。


「あ、お金もらうの忘れた。まあいいや」


そこから3日間をかけて、ダンジョン38階に到達。早いように感じるが、寝ずにノンストップ72時間操業だ。


ターキーが2メートル近く、ダチョウが4メートル超えとなった。「等価交換」封印で倒すのがきつくなったが、26回の戦闘を時間をかけてこなした。


38階セーフティーゾーン前の戦いなんて、4・2メートルダチョウと2メートルターキーのセットが4組同時。ターキー2羽を残したところで、地上から持ってきた木材、ゴブリンなどの栄養を体を修復するための「等価交換」で使い切った。


戦闘時間も体感で3時間。


「高く売れるウズラ。ハイレベルだけどまずいダチョウ。どちらを残しておくのが得策か分からない」


何となく、32階のダチョウから順番に使うことにした。


38階セーフティーゾーンではゆっくり、2日間を過ごした。そろそろ出発かというとき、男子3人組がゾーンに飛び込んできた。


中の1人が右腕を骨折、1人が右胸陥没で吐血というありさまだった。


無事な1人が治療していたが、手持ちのポーションでは効果がないようだ。


「くそう。すまん、そこの女の人、回復魔法なんか使えないか・・」

「使えないけど、方法はある」


「本当か!」


思いついた。水をいれる革袋がある。入っているのはもちろん水だ。


「私はちょっとした技があるから、この革袋に入っている薬と一緒に「気功」を使えば、かなりの傷を治せるわ」


「すまん、それで頼みたい。謝礼は必ずする」


意識朦朧で胸がへこんだ男の人の口から水を注いだ。当然、盛大に吹き出したが、胸に手を当てて唱えた。


「気功回復」。『超回復』


ぱちっ。「げほっ、げほっ、なんだ、この水は!」


「ケイン!」

「あれ?胸の痛みがない」


「次は腕を骨折した人ね」

「俺?」


カップにただの水を注ぎ、傷にかけながら腕に手を置いて『超回復』を念じた。


ぱちっ。「へ、治った・・」


「特別サービスよ。「霊薬」はもう残り少ないから、次はないからね」


「すまん、そんな貴重なものを・・。謝礼はいくら払えばいいんだろうか」

「数日前にも冒険者を治したけど、初回サービスで1000ゴールド」


「え?わずかエール2杯分だぞ」

「いいのよ。「霊薬」は長持ちしないし、腐らせるより使った方がいいでしょ。はい、あなたも傷があるわ。治すから「気功回復」」


ぱちっ。「え、ダチョウにやられた肩の傷が・・。すまん」


どうせ、ダンジョンに入る前にくんだ、ただの水だ。手を出して3人分、小銀貨3枚、3000ゴールドを徴収した。


「ありがとう。せめて名前くらい聞かせてもらえないだろうか」

「オルシマで登録したばかりのEランク冒険者、ユリナ。じゃあね」



劣等人と言われた過去があるからか、人に感謝されるのがうれしい。


そんなテンションで39階を2日かけて進み、とうとう最下層の40階に到達した。




https://www.alphapolis.co.jp/novel/295429334/506718241


アルファポリスで先行しています

読んでいただきありがとうごさいます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ