57 勢いでダンジョン へ
もう勢いだけだ。
夕方近いのに、街を出て南東に一直線に走った。
途中、お目当ての若い薬草採取の冒険者に会った。
薬草は彼らから買い取った。相場の5倍の金を出すと言うと、二つ返事でありったけの薬草を売ってくれた。
◆
草原型のペルセ中級ダンジョン。
オルシマの街を出て1時間足らずで到着した。
ダンジョンは全40階で適正レベル3階までなし。
4階から適正レベル20~50。
ここまでの距離20キロは全速走りで余裕。
性能が低いといっても私はレベル29。
全力で走りながら「超回復、等価交換コンボ」で100メートルを13秒くらいで移動できる。
それより思案しているのは、服装のことだ。
美味しい鳥の肉が取れる人気ダンジョン。
昼夜を問わず入り口に人がたくさんいる。
これでは私の究極戦闘フォーム「裸」が使えない。
恥ずかしいからですよ。
地肌に鎖かたびら、上からボロいタンクトップ。普通の奴隷ファッションにした。
人気ダンジョン前にはギルド出張所があり、ここにもギルド職員がいる。
職員さんは、私の身なりを見て的確な判断をした。
「3階までで帰ってきて下さい」と注意された。
素直に返事した。
3階までは攻撃力ゼロの、カモやスズメタイプの鳥魔物のみ。低ランク冒険者も山ほどいる。
私はHP87。受付の前に並んでた13歳のFランクの男の子、HP113より下だった。
だが、ノンストップで10階ボスに向かい、一休みして20階ボスもクリアする。
そうして11階、21階の転移装置で自分を登録しておけば、次からは間をすっ飛ばせる。
狩りは22階から最下層の40階までで行う。
好戦的で飛ばない鳥が出るのが22階から。
22階から出るビッグウズラ、ビッグチキンが人気。ランクアップの道具にもしたい。
というわけでひたすら走った。
10時間で10階に到達。エリアボスのエラコンドルを倒し、11階の転移装置前で半日の休憩。
再び走って12階からの鷹系統の嘴、風魔法攻撃もシカト。
攻撃を食らいまくっても立ち上がる私に、若い冒険者が驚いていた。
そういう人もいるんだ。気にすんな。
ダンジョンアタック前に山ほど仕入れた木材を等価交換に使って身体を治した。
20階のウインドホーク戦。
つつきにきたホークの嘴が胸に刺さった瞬間に「超回復、破壊的絶対領域」のコンボ。
グジュ。嘴を曲げた。
流星錘で落ちたホークを巻いた。
あとは、経験値のために等価交換を使わず、ひたすら鉄の手甲で殴る、殴る、殴る。
しかし倒せず。自分の底力のなさを痛感。
ショートソードで小さな傷を入れ、1時間くらいかけて討伐した。
ボス待ちの人を待たせてしまった。
21階のセーフティゾーン。前にも使った、自作の大型鳥籠を設置。
自分を囲んで丸1日、精神疲労を取るために寝た。
「さあ、ここから本格的な狩りだ」
22階に降りて10分。体高60センチのビックウズラが2羽走ってきた。
推定レベル30。私の経験値になるように、等価交換なしでで応戦。
ショートソード。風のカルナから奪ったミスリル製だ。
この際、素材は気にせず効率重視。
ウズラは嘴攻撃のみなので、左腕をつつかせて、嘴がのめり込んだ瞬間に『超回復』。
ベキ。瞬時に3センチ、ウズラの嘴が押し戻される。
「ぐぎょ?」
嘴の先が折れ、脳が瞬間的にシェイクされた。
足元がふらついている。
「うりゃっ!」ザクッ。
ビックウズラの1匹目は10分で仕留めた。
相討ち作戦、あるのみ。
3時間かけてウズラ12匹を倒し、22階を突破。
23階が5時間。24階からビックチキンが混じりだした。獲物は例外なく、無警戒で突っ込んで来る。
クロスカウンターで餌食にしまくった。
私的には、拳と嘴の真っ向勝負のイメージ。
端から見たら、私の虐殺シーン。
24階で3人組パーティーに戦いを見られ、そう言われた。
意外と知れている「金剛気功術」と言い張った。
木の枝で「等価交換」。全回復の繰り返し。
肌が木目調。物語「木のピオ」の主人公のようだ。気にすんな。
ただ戦闘中の等価交換封印なので、時間がかかり、28階まで4日かけて降りた。
気持ちがやられる前に一旦休憩。
3時間ほど寝て、1・5メートルのビッグチキンに目をつつかれて起きた。
「モーニングコール、サンキューね」
そこから2日で30階に到達。
ボス部屋前には先客がいて、声をかけられた。
3人組の女パーティーだ。
「どうも、ソロ?」
「ええ。そちらは順番待ちね」
「図々しいお願いだけど、余裕があれば回復ポーションを分けて欲しいんだけど・・」
「どうしたの?」
彼女らマルタ、マリア、アイミ。今回、22階からアタックして5日をかけてここまで降りてきた。
しかし29階の大型チキンに苦戦。手持ちのポーションが尽きた。
前衛のマルタが左腕に怪我を負った。
30階ボス部屋の2メートルチキン1、1・5メートルウズラ3の構成に、対処法を考えていた。
この状況は、私に取って渡りに船だ。
すでにチキンとウズラは合わせて100羽くらい収納指輪に入っている。
このフロアで何時間も戦うより、彼女らに協力してもらい、32階以降の戦いに備えたいのだ。
「ポーションは持ってないのよ」
「ごめんなさい。あなたも品切なのね・・」
「いえ、はじめからないの」
「へ?」
「私、気功武道家。回復スキル持ち。普段から回復ポーションは持たないの」
戸惑う彼女らに提案した。
「他人も治せる。一緒にボス戦に挑んでくれるなら、盾役と回復役をするわ」
そう言いマルタの左腕に手を当てて唱えた。
「気功回復術」。心の中で『超回復』を詠唱。
ぱちい。「うそ、あれれ?」
「マルタ、どうしたの?」
「いや・・。折れてた左腕が上がるし、他の傷もなくなった」
やりすぎたか・・
「マルタさんは、軽い打ち身だったの」
「え、いやや」
「う、ち、み」
強引に、臨時パーティーを組むことになった。
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